第30話 一区切り

ローゼンが指揮を執っていた市民の粛清はようやく終わりが見えてきた。


結果的にはパン屋が4件 酒場3件 宿屋(ホテル含む)8件 古着屋5件 食堂18件 馬屋2件 乗合馬車2件 他には薬屋3件に治療院が2件。


此処までの粛清で処刑した人数は実に600人を超える。


これを少ないととるか多いととるか微妙な人数だ。


これからスラムの人間粛清に入り、これでようやく市民以下の粛清が終わったと言える。


スラムの人間の犯罪は様々だ。


セレナ殿が寝ていたら石をぶつけた者。


物をくすねた者。


【お前にはここに居る資格も無い】なんて馬鹿な事を言って追い出した者。


よくもまぁ、市民権を持たぬくせに言えた者だ。


この辺りの人間は元から、正式な人間として国は認めていない。


お情けで放置しておいた人間だ。


だから、人権は元から無い。


それが貴族に対して迫害を行ったのだ、殺しても問題はない。


その日の朝、騎士たちはスラムの周りを治安の維持という名目で取り囲んだ。


そして触書を出した。


大した触書ではない「炊き出しを行う」それだけだ。


炊き出しの内容は【オークのシチューに白パン】しかも器つき。


炊き出しとしては、最高級のメニューだ。


普通は黒パンに具の入ってないスープだが、今回はしっかりとしたシチューで具にはオークの肉が入っている。


これは宿舎に入った騎士や冒険者がお金をだして食堂で食べるメニューだ。


更に柔らかい白パンもつくのだ日頃から飢えている人間なら食べたいに決まっている。


しかも今回は器までつく。


スラムの人間の一部は、路上生活しており、食器も持っていない。


だから、炊き出しをしても食器が無いから食べられない者も多い。


実際に、スラム住まいの母親が子供にどうしてもスープを飲ませたくて、手で貰った例がある。


最初、そのままで良いと言ったが、絶対に火傷するので


【特別に冷めたスープ】を手に注いであげたという美談がある。


今回は食器まで貰える。


食器を手に入れれば次回からは器に困らない。


だからこそ、スラムの人間なら皆が並んでくるだろう。


そう考えていた。



「なぁ、本当にこれをするのか?」


「仕方無いだろう、上からの命令なんだ...」


「これを考えた奴、悪魔だ」



「おい、俺たち騎士は王の命令には絶対だ、この間裏切った奴がどうなったか解るだろう?」


「「「ああっ」」」




その日の朝、触書を出してから、行列ができていた。


「ちゃんと並んでください、食事は充分ありますから、ご安心下さい」


今回は出来るだけ多くの者に食べて貰う必要がある。


その為、考えらえない位大量のシチューを用意した。


「具合の悪い者や寝たきり、病に侵された者がいる家族やそういった存在がいたら教えて下さい、お届けしますから」


これは考えられない位の待遇だった。



行列に並び食料を貰った者は大喜び。


今までにこんな炊き出しは無かった。



「お母さん、このシチューおいしいね、こんな大きなお肉がはいっているんだよ」


「本当に美味しいわ...神様に感謝しなくちゃね..ううっ」





「お父さん、今日の炊き出しはシチューなんだ、お父さんが寝たきりだと言ったらお父さんの分も貰えたよ」


「ありがとう、何時も苦労かけてすまないな」


「良いんだ、さぁ食べようお父さん」




「おばあちゃん、今日の炊き出しはシチューなんだって、貰いにいこう」


「そうね、直ぐにいかなくちゃね」



いつもは食料なんて持ち歩いたら大変な事になるが、この日は全員にいきわたるのが約束されていたので誰もとったりしない。


欲しければ並べばいいだけだ。



多分、スラムの人間にとっては小さな幸せが訪れた瞬間だっただろう。


お金の為に人を殺す人間。


登録が無いから娼婦にすらなれないから陰で体を売っていた人間。


誰もが空腹を忘れられた一日だった。


............これが最後の幸せな日だと知らずに。



スラムの人間は3日間のうちに全員死んだ。



シチューには遅効性の毒が仕込まれていた。



その為、食べた者は確実に死に至り、苦しんだ状態で街に助けが求められない様に騎士が取り囲んでいた。



毒は慈悲で余り苦しまないで死ねるような毒を選んだ。


もしこの毒を飲んで死ぬのなら苦しまないで眠る様に死ぬ、貴族階級が自害で使う毒だ。


それでも苦しみはある。



セレナが実際に訴えたスラムの人間は12名、だが元からスラムを好まないローゼン達はスラムの人間を治安維持の名目で皆殺しにした。


これ以降、確かにスラムは無くなった。


ローゼン達が殺したスラムの人間は480名にものぼる。


後の歴史でローゼンは残酷な人間として語られる事になる。




「ようやくひとしきりついた...此処からはファスナー殿と足並み揃えてやるしかない、まだまだ先は長い」


そうつぶやいたローゼンの顔は実年齢より10歳以上老けて見えたという...

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