第29話 氷帝 ヒョウガ

王は困っていた。


各地で魔族が活性化して、聖教国の教皇から何時、勇者が来るのかとせっつかれている。


特に近隣の村や街からは助けを呼ぶ声が直に上がってきている。


四職のうち、賢者、剣聖は行方不明になっている。


恐らく、賢者は女だから身の危険を感じて逃げたのだろう。


剣聖は男だが、セレナの事で王宮に抗議をしにきた記録がある。


愛想をつかして何処かに言ってしまったに違いない。


今回の神託では四職(勇者 聖女 賢者 剣聖)でなく三職(勇者 聖女 賢者)で戦う神託だから剣聖はいなくても良い。


だが賢者だけは探さなければならない。


そして勇者のセレナは、今は戦って貰えない。


だから、今は聖女のマインに戦闘の指揮にたって貰っている。


マインはあくまで聖女。


攻撃魔法他、大きな攻撃手段を持たない。


その為、マインの部隊は死に物狂いで戦い、大怪我しても戦う、まるでゾンビの様な戦い方しかできない。


最も、【死んでいなければ大概の怪我を治す】聖女が居るからの戦い方だ。



これでは何時かは破られる。


その覚悟をしなくてはならないだろう。


そうなる前に、セレナ殿を説得して早目に【聖剣の儀】を行い戦って貰える体制を整えなければならない。





【別部隊 戦場にて】



「嘘だろう、かの有名な【氷帝】が相手にならないなんて」



時は少し遡る。



兵士は驚きを隠せない。


魔族軍に砦が囲まれていた。


幾ら王国に援軍を頼んでも、来る気配は無い。



「俺らは見捨てられたのか?」


「兵糧もどう切りつめても、あと数日分しかないな」


「終わりだ」


砦を任されていたネジマン伯爵は最早諦めていた。


「最早この砦は終わりだ...それでお前達どうする?」


「どうするとは、伯爵様」


「もうこの戦は負け戦だ、相手が人間なら降伏も可能だが魔族相手では無理だ、どうせ死ぬなら討って出て玉砕するか、それともこのまま籠城して死ぬかだ」



部隊全員が絶望に沈むなか、1人の騎士が挙手をした。


「どうした?」


「発言の許可を」


この男は騎士だがまだ新米、発言権を持っていない。


「緊急事態だ、何かあるなら言ってみろ」


「このロバルはたかが新人騎士ですが一つだけ誇る事が御座います」


「何が言いたいのだ」


「私が誇るのは友人、私の友人は【氷帝 ヒョウガ】様です」


周りが息を飲んだ。



ヒョウガとは戦を知る者なら知らない者は居ない。


先の勇者パーティーが魔王と戦うなか、一切加わる事はせず、他の戦場で一人戦っていた強者。


そんな我儘は本来は許されないが、ヒョウガは「俺は勇者達が救えない者を救うんだ」と言い一切周りの言う事を聞かなかった。


だが、ヒョウガは強い。


魔族の幹部ですら、時として瞬殺するほどに...だからこそ許された。


王や帝王ですら命令出来ない男。


それが氷帝ヒョウガ...誰も命令出来ないからこそ【帝】の名前を字にして呼ばれる。


彼の前では、全ては凍り付く。


そこ迄強くなっても、慢心せず、今尚自分を高める為に修行をしている。


それがヒョウガだ。


「それがどうした、確かにヒョウガ殿なら一人で此処を救えるだろう...だが此処にはいない」


「お恐れながら、ヒョウガ様は父の友人、何故か私も気に入れられその輪に加えて頂いております、何かあったらこれで呼べと通信水晶を頂き、今連絡した所【すぐに向かう】だそうです」



「ヒョウガ殿が来るのか?」


「はい」


「でかした...これでこの砦は救われる、これで籠城決定だ...この戦、勝ったも同然だ」



ネジマン伯爵や騎士達は砦の城塞部分から、外を見ている。


いつ、氷帝がくるのか? 来た瞬間からこの地獄が終わる。


そう思っていた...



そして待ちに待っていた時が来た。


季節外れの雪が降り始め...体に寒さを感じる。


これこそがヒョウガが来た証だ。


ヒョウガが誇る絶対零度の世界。


恐らく見えない所でヒョウガが戦っている。


この冷気が強くなれば、強くなるほど近づいてきた証拠だ。



おかしい...急に暖かくなった。



暫くして砦に何かが降ってきた。


恐らく魔族が投げ込んだ物だろう。


恐る恐る包みを開けると、そこにあったのはヒョウガの首だった。



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