第28話 復讐する必要もない

俺は場末の風俗に来ている。


風俗と言うのは、娼館より遙かに下の存在だ。


娼館と言うのは女に綺麗な部屋が宛がわれそれなりに衛生的だ。


高級店ならそれこそ貴族の部屋の様な物もある。


あくまで館、だからこそお風呂があったり、綺麗で衛生的だ。


此処に勤めている人間は落ちた人間では幸せな方だ。


歳をとり人気が無くなった者。


魅力が無い者。


値段が安く無ければ買う相手がいない者。


そう言った者は娼館から風俗街に流れる事が多い。



俺は別に女を買いに来た訳じゃない。


俺の知っている女ロザリアが此処にいる。


そう言う話しを聞いたから行こうと思ったそれだけだ。



風俗街の場末にその女はいた。


館には見えないボロ小屋みたいな店。


昔は綺麗だったのだろうが、今は見る影もない位な顔。


簡単に言えば美人を老けさせればこんな感じ...そういう女だった。


しかも、お客を拾う為にほぼ透けた下着状態で外で客引きをしている。


普通、女がこんな状態でいれば男の目はとまるが。


見る人間はまるで汚い者を見る様に見ている。


此処は本当の場末だ...病気持ちもいる。


この女は見た感じ問題無いが咳をしていた。


つまり、なんだかの病気持ちだ。



「お客さん、私を買ってくれませんか?」


すり寄ったその腕には痣があった。


恐らく借金持ちで金を払わないと暴力を受けるのだろう。


「それは構わないが幾らなんだ」


「ショートで銅貨3枚」


なんだそれ、安すぎるな...これが場末か。


「泊りで明日の朝までなら幾らだ」


「泊り、泊りで買ってくれるの? なら銀貨1枚で良いよ、思いっきりサービスもしちゃうよ」


「解った...ほら」


「ありがとう」


そのままロザリアに腕を組まれ部屋に入った。


一応はシャワーはあるが、あとはベッドと小物しかない。


殺風景な部屋だ。


「それじゃシャワーを浴びようか?」


ロザリアは下着を脱ごうとしたが、俺は止めた。


「俺は、そう言う行為より、貴方と話がしたいんだ」


「そう、しないの?...まぁ話なら楽で良いけど、そうか話をして気心知れてからしたい、そう言う事?」


「そうじゃ無くて、元シスターって聞いたので」


「ああっもしかして懺悔でもしたいのかな? まぁ一応はシスターだから良いよ聞いてあげる」


「まぁ、友人の昔話だ」


「そう、聞くだけなら楽だわ」


「俺の友人でね、そうだ仮にセレンと言う奴がいてね、結構な金持ちだったんだ」


「そうなの? 金持ちねあやかりたいわね」


「金持ちだから、あちこちにお金を寄付してた、そして何よりも子供が好きだから孤児院にも寄付をしていた」


「へぇー、孤児院ね、私も実は若い頃教会でなく、孤児院でシスターしてたんだよ、懐かしいな、あの頃は凄く貧乏だけど沢山の子供がいて楽しかったな...貴族の人が寄付を沢山くれて、うん生活に困らなかったよ」


「そうなんだ、それで、何でロザリアはその..」


「あはははっ気になるよね、その貴族、実は結構私に気があるのかな...孤児院が借金だらけで私が借金の為に売り飛ばされそうな時に助けてくれたんだよ」


「だったら何で今此処に居る訳」


「それがついてないんだよね、その後も、その人は孤児院に寄付を続けてくれていたんだけど、実は貴公子セレナだったんだよね、私シスターだから、直ぐに破たんして寄付をくれなくなってさぁ...子供達の為にお金が必要で、気がついたら借金まみれで結局、娼館に売られて、歳食ったら此処に来たんだ」


「その時の子供どうなったか知っている?」


「さぁ、どうなっているのか解んないや」



「男の子は鉱山奴隷、女の子は性処理奴隷として売られてさぁ...もう誰も生きて無いらしいよ」


「嘘...なんであんたがあの子達の事知っているの?」


「俺はその子達と顔見知りでね、気になったから調べたんだ」


「嘘だ」


「幼くして鉱山に行ったら、普通は助からないだろう? 女の子は性処理可能で売られたから幼女専門の娼館で客を取らされて自殺したり気が触れて死んだらしいな」



「そんな、なら私は...誰も助けられなかった...あはははっ体を汚して、恋を諦め...それでも」



「違うな、貴方が破滅したのは、たった1回人を見捨てたからだよ」


「何をいうの? 私は体まで売って人を救ったんだ、人なんか見捨てた事は無いわ」


「あのよ、こんな事が無かったか? 孤児院にあんた達を支援していた男が来たのに、子供たちは石を投げて、【神の御使いの勇者の敵は私の敵】って迫害しなかったか?」


「それはセレナの事かな...確かにしたかもしれない...だけどあの時は仕方なかったんだ、本当に...」


「あの時のセレナは可哀想だったよ、悪い事してないのに、国から勇者から恋人、家族から嫌われて敵しかいなかった、そんなセレナを貴方は見捨てたんじゃないのか? 寄付までしていたのに」



「セレナ...うん悪い事をしたのかも知れない」


顔が少し曇った。



「そこが、あんたの運命の分岐点だった」


「なに?」


「あの時、セレナは実は生活に困らない位のお金は持っていた、話によると金貨1000枚(約1億円)だが、嫌われてどんなにお金を積んでもだれも何も譲って貰えない状態だった」


「だから、なによ」


「あの時、セレナはお金を持っていても仕方ないから孤児院に全額寄付する為に行ったんだよ」


「嘘....本当に?」


「ああっ、あの時のセレナに粥かパンでもあげれば、きっと金貨1000枚は孤児院に置いていったはずだ」


「それなら...あっあああああああーーーーっ」


「そうだな、あの時、あんたが、セレナに親切にしていれば、貴方は今もシスターだった、そして子供たちは死ななかった」


「それじゃ...私が...私が...悪いの」


「更に言うなら、まだ解らないが噂では。次の勇者はセレナらしい、あんたなにやってんの?」


「嘘だ...いえ、嘘よ、それじゃ私のせいで子供が死んで、今がある、そう言う事じゃない...あああぁぁぁぁぁーーーーっ」



「本当だ..それじゃ俺行くわ」


「今の本当なの? お客さん...あの...まだ1時間しかたっていないよ」


「いいさ、それじゃ、またな【清らかなロザリア】



「?...嘘、貴方は」



「俺はもう名乗らない...もう会う事も無いだろう」


「せせ、セレナーーーーっ」


「さあね」




此奴の守りたかった奴は全員死んだ。


そして此奴も体を売り続け、性病に肺を患っているからもうすぐ死ぬだろう。


殺してやるのは寧ろ地獄からの解放だ。


シスターだった女が体を売り、死ぬまで穢れ続け性病で死ぬ。


俺が復讐なんてしなくて良い...そのまま死ぬまで地獄にいろ。


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