第31話 半魔のミーシャ
スラムはそのまま閉鎖されたままだった。
死体は山積みにされ一般の市民は入れない。
市民や下級貴族には疫病が発生したと捏造した話を流したようだ。
そして、これ幸いと今迄に殺した他の市民もそのまま荼毘にふされた。
燃えてしまい灰になれば森に撒くらしい。
これで【市民の方は全てが終わる】
此処からは商会絡みだ、大変だな...。
それより、まさかスラムの人間を全員殺すとは思っていなかった。
まぁ、判断したのは俺じゃない。
文句言う気も別に無いが、酷い事するもんだ。
多分、俺の話から始まって、元々から貴族が目障りだと思っていたスラムをここぞとばかり無くしたのだろう。
まぁ、税金も納めずに王都では犯罪者扱いだから仕方ないと言えば仕方ない。
俺が恩を感じた奴は全部で三人、うち二人には恩を返した。
てっきり王都で店を続けると思っていたんだが、串屋の親父も果物屋のババアももう仕事はしないらしい。
「おら、食えよ、これが最後の串焼きだ」
「これが私が仕入れた最後のオーレンジよ」
何でも、魔剣を国王が高値で買ってくれて、かなりのお金が手に入り、更に貰った店が高値で売れたから湖の近くの別荘地で暮らすらしい。
まぁ、魔族の土地から遠いし貴族の別荘もある様な治安の良い場所だから大丈夫だろう。
「それでね私達結婚するのよ」
串屋の親父が横で照れている。
「その齢で出来るのかよ?」
「あははいやーね、もうそんな歳じゃ無いわ」
「余りからかうなよ」
二人して旅立っていった。
しかし120本の串焼きと100個のオーレンジどうするんだこれ。
まぁ、国から収納袋を借りているから持ち歩きに困らないが...
多分、店を手放すなら今が一番高く売れるだろう。
王都のお店がこの後に、沢山売りに出され暴落するかも知れないから、ある意味良かったかも知れないな。
最後の一人は何処にいるか解らない。
俺と同じでスラムにすら住む事が出来ない女の子だ。
そして、今現在、俺が唯一嫌悪感が湧かない女でもある。
今の俺なら助ける事も出来るしな。
【回想】
あの日は物凄い寒い夜だった。
スラム街にも入れて貰えない俺は街の外れで寝ていた。
塀の傍はスラム所じゃ無い位危ないので、夜詰め所の傍でなければ誰も近寄らない。
魔族や魔物が侵入してきたら確実に死ぬ場所。
そんな場所で好き好んで寝る人間は居ない。
だが、塀の外よりはまだ安全と思い此処を当時は寝床にしていた。
毛布も無く寝ていると夜中に背中に温かみを感じた。
横を見ると少女...の様な者がしがみ付いていた。
多分、齢の頃は10歳に満たないだろう。
「いひっ気がついちゃった?」
物凄く臭い...なんだ此奴
「お前、何しているんだ?」
「いひっひ、今日...みたいな...寒い日は暖め合わないと...ね」
孤児なのか?
そう思って見た、見た感じはなかなか可愛い、こんなのが孤児なら直ぐに犯されたり売られたりするだろう。
だが、此奴は...そんな事にはならない。
何故なら、此奴は半魔だからだ。
目が暗闇で光る事と忌み嫌われる青い髪。
これじゃ、此奴がどれ程の美少女でも抱く奴はいないだろう。
半魔とは魔族と人間の混血だ...忌み嫌われていて誰もが嫌う。
王都の片隅とはいえ住んで居るのは珍しい。
俺はどうせ嫌われ者だ。
「確かにな」
そう伝えそのままにした。
確かに彼女がくっついている分暖かい。
「いひひっだけど、あんた、ちゃんとすれば凄く綺麗なんじゃない?」
「まぁな、落ちぶれる前は貴公子と呼ばれていたが、今はこの面だ」
奇妙な関係が続いた。
俺はあの事があり、女嫌いになっていた。
女に触れられるのも嫌だとさえ今は思っている。
半魔だからか此奴に触られるのが嫌いとは思わなかった。
この国で唯一俺が話せる相手が此奴だった。
名前を聞いたらミーシャという事だった。
本当の所は本人も解らないが、死んだ母親は冒険者で、魔族に犯されたらしい。
魔族は気まぐれに女を犯す事もある...まぁ凄く少ないし、妊娠もまずしない筈だが、何故か此奴の母親は妊娠したらしい。
その結果生まれたのがミーシャと言う事だった。
「確かに顔にバッテンが無くて、ちゃんとしてれば美少年だね」
俺は意趣返しとして答えた。
「お前も青髪じゃなくて目が普通なら...可愛いかもな...まぁ凄く臭いけど」
「いひひっ臭いのは仕方ないさぁ...」
まぁ半魔だから獣臭がする、それにこの街で暮らしている此奴が風呂になんて入れる訳が無い。
別に俺はロリコンじゃない10歳満たないガキに手なんて出さない。
ゴミを一緒に漁り食べて。
ただ夜が寒いから抱き合って寝て。
話す相手がいないから此奴と話す。
それだけだ。
だが、俺はただ街に居るだけで暴力を振るわれる様になり...此奴が巻き込まれない様に距離を置いた。
【半魔だから巻き込まれて殺されるかも知れない】そう思ったからだ。
相手は勇者、魔族の血が入った奴なんか平気で殺してくるかも知れない。
王都から出る時に連れて行こうか考えたが、外の世界は死と隣り合わせだ。
ゴミを漁る生活でも王都の方がまだましだ。
俺は1人で王都から逃げる様に去った。
俺が逢いたい奴は此奴が最後だ。
此奴は騎士や衛兵を見ると逃げだすから、俺自ら探さないといけない。
城壁や塀の周りを探してみた。
もう見つからない、そう思っていたが、ようやく見つけた。
「久しぶりだな、ミーシャ」
「あれ、もしかしてセレナかな?」
「ああっ」
ミーシャは魔族の血が入っているからか、あの時と殆ど変わらない姿をしていた。
「ミーシャ、良かったら俺の所にこないか?」
「それは此処で前みたいに暮らすって事かな?」
「違うぞ、今ならちゃんと部屋があるから、そこに行こう」
「ミーシャは入れない」
「大丈夫、ミーシャが入れない場所なんて無い、これからはな」
面白い、この先王城にでも連れていくか?
国のお金で貴族でも買えないドレスや宝石を買うか?
教皇にでも遭う時に【俺のパーティー】だとでも言ってやろうか?
勇者の俺のパーティーなら誰も文句は言えないな...
あははははっ、勇者の仲間が半魔...楽しくて仕方ない。
まぁ、今の俺にはゴミを漁り異臭を放つ此奴の方が、王よりよっぽど、価値があるんだがな...
「本当に? 大丈夫なのかな」
「ああ、大丈夫だ」
少しだけこの世界も悪くない、そう思った。
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