第25話 串焼きと魔剣

ローゼンが指揮を執っていた市民の粛清は着々と進んでいた。


パン屋に酒場、それ以外では古着屋や食堂が既に粛清済みだ。


一言で言うと大した様に聞こえないが、古着屋は2件、食堂に至っては、セレナはかなり空腹を抱えていたのだろう18件が粛清された。


此処までの粛清で殺した市民は実に180名を越えていた。


それと同時に偽装工作もしなくてはならない。


各店は【都合により暫くの間休みます】【帝都の親せきに不幸があり暫く休みます】その様な張り紙を貼っていた。


まさか、貴族の詰め所で殺されているとは夢にも思っていないだろう。



「そろそろ、この樽も多くなってきたな」


「ああっ、新しい騎士のうちじゃノイローゼになる者もいるしな」


「そりゃそうだろう...戦場ならいざ知らず、普通の市民を殺しているんだぜ」


「ああっ、特にあの童貞小僧大丈夫かね?」


「女よりも先に殺しを経験でも悲惨なのに、初めて殺した相手が10歳の少女なんて病まないといいが...」


「それなら大丈夫だ...震えているからよ、俺が娼館に連れて行った」


「そうか...まぁ辞めるっていうなら、ちゃんと筋とうさせれば良いさ」


「そうだな、ただあんな臆病が王に言える訳無いから無理だな」



次の犠牲者が出ない様に【騎士を辞める作法】はしっかりと伝えられていた。


ただ、知らない騎士が多かった事を聞き、ジェイクは後日頭を抱えた。




今日は、宿屋黒猫亭の家族を呼んだ、勿論セレナを泊めなかった事により処刑する為である。


食べ物屋と服屋関係が終わり、これからは宿屋関係と薬屋、治療院関係の粛清が始まる...そう思うと皆が頭を痛めていた。



「話しは聞いた...ただ泊めなかっただけで、罰があるのか?」


「まぁな」


多分、死刑だなんて解っていないんだろな、取り調べの騎士はそう思った。


「はんっ、だけどよ、セレナを迫害したから罰を受けると言うならなんで、串焼き屋からじゃねーんだよ、あそこからじゃねーのか」



「まぁ奴らも後で罰するがお前もセレナ様を泊めなかったんだろうが」


「そうだな、それでどんな罰を受けるんだ」


「お前は、死刑で家族は鉱山送りだ」


急に宿屋は顔が真っ青になった。


「嘘だろう...冗談はやめてくれ!」


「嘘ではない」


「待ってくれ、俺や妻は良いが娘はまだ6歳なんだ鉱山なんかに送られたら死んでしまう」


「そうか、6歳かなら8歳以下だから鉱山送りではなく期間奴隷落ちですむな、良かったな」


この国の法律では子供の場合は若干罪が軽くなる事がある。


期間奴隷とは永久奴隷でなく期間限定の奴隷で5年、10年の限定が多くその期間を過ぎれば市民に戻れる。


「ふざけんなーーーっ」


騎士は慣れてきたのか家族の前で簡単に首を跳ねた。


家族は泣いていたが、毎日処刑をする様になった騎士は悪い意味で慣れ気にしなかった。



騎士ジャコブは宿屋の話が気になって、調べたら何故か屋台の串焼き屋と果物屋の名前が無い。


セレナに伺いの連絡をしたが..間違いないと報告を受けた。



【過去】


セレナはその時まだ王都にいた。


全てが敵に回り家族や恋人すらも助けてくれずただ王都をぶらついていた。


冒険者の登録も何故か抹消され、商業ギルドの登録も抹消されていた。


だが、セレナは財布には暫くの生活に困らないお金はあった。


だが誰も何も売ってくれない。



仕方なく噴水の傍の水飲み場で水を飲んでいると子供が石を投げてきた。



「あはははっ、落ちぶれたもんだ、貴公子なんて呼ばれてもこれだ...いいよぶつけたければ、ぶつければ良いさただ顔は覚えた、もし俺が貴族に戻ったら覚えていろよ」


セレナは父親が貴族籍を抜いて無い事を知らなかった。


家族から嫌われたから抜かれただろうと勝手にそう思っていた。


「ああっぶつけてやるよ、お前みたいな嫌われ者、石をぶつけても騎士もとめーねんだからな」


「そうそう、バーカ、バーカ」


彼等は孤児院の子だ...いつも馬鹿にされ迫害されたその鬱憤をセレナに向けた。


あはははっ助けなきゃよかった。


子供が可哀想だからって俺の商会から結構な金額を孤児院に寄付してやったのに。


シスターは良く感謝してたけど...金が欲しかっただけなんだな。


俺が困ったら助けてくれない....


借金で困っていて娼館行きが決まっていたのを助けたのに、落ちぶれたらこれか。


【神の御使い勇者の敵は私の敵】だって


まぁ良いや良く解った...お前も俺の敵なんだな...いいよ。



しかし、腹が減ったな。


近くから串焼きの良い臭いがしてきた...


チクショウ、多分俺は金があるけど食えない。


「何だ、嫌われ者のセレナじゃないか?これでも喰らいやがれ」


「いてーーっなっ」


串焼きが俺にあたり下に落ちた...


俺は串焼きを拾って串焼き屋の親父の顔を見た。


ウィンクしてやがる...そうか俺はお礼が言いたいが言ったら迷惑なんだろうな。


そのまま持って立ち去った。


次の日またつい顔を出すと親父がこっちを見た。


「あーあ俺も焼きが回っちまったな、焦がしちゃったよ、これは廃棄だ」


そう言いゴミ箱に串焼きを3本捨てた。


今の俺にはプライドは無いからゴミ箱を見た...屋台の後ろのゴミ箱は新品だった。


そして中にあった串焼きは焦げて等いなかった。



「....」


「何気持ち悪い目で見やがる、気持ち悪いからあっちにいけ」



ありがとう...涙が止まらなかった。



それだけじゃなかった...


「汚い体でうろつかないで頂戴、疫病神め腐ったトマトでも喰らいやがれ」


「やめ...」


腐ってないじゃないか...



俺がうろつく度に何かぶつけてくるが...それはちゃんとした食料だった。



俺は昔、屋台を荒らしまわる人間を懲らしめた事がる。


助けて良かったよ...ありがとうな。


落ちぶれたセレナにとって唯一受けた親切だった。



【現在】


セレナはこの国に戻ってきて久々に外に出た。


騎士の護衛付きだ。


まだ世間では勇者として発表されてないから歩いた所で貴族の散歩としか思われない。


15年もたっているからセレナだと解る人も少ないだろう。



串焼き屋の前に来た。


「美味そうだな」


「貴族の旦那、ああっ口に合うかどうかは解らないが有名だぜ」


「そうか、なら9本くれ」



流石に老けたな、もうこういう場所での商売は難しいんじゃないか。



「あーあ、そう言えば俺、剣折っちゃったんだ、此処に捨てて行くから、好きにしてくれ」


「剣?」


俺は魔剣エクゾーダスを捨てた...まぁ柄からしっかり折れているが。


護衛の騎士がギョッとしていた。


《セレナだ...その剣は有名な剣だから折れていても金にはなる、果物屋のババアと折半しな、礼だ礼》


「じゃあな」


セレナは手を振り去っていった。


まぁ、聖剣の次だなんていう剣だ金になるだろう、セレナはそう思った。




後日、串焼き屋と果物屋は武器屋に持ち込んだが買い取って貰えなく「これは王宮に持っていくしかない商品です」そう言われ仕方なく王城に持っていった。


王に会うだけでも恐れ多いのに、凄く感謝され、金貨2000枚ずつと何故か空いている王都のお店を1軒ずつ貰って腰を抜かした。




※ 過去のセレナの口調が少し変なのは、まだ絶望しきる前だからです。


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