第23話 見逃した為に...

現場には出ないものの、ローゼン自らが指揮をとり市民の粛清を急いでいた。


本来なら、民衆の前でギロチンにかけるのだが、その際には罪状を読み上げなければいけない。


それを行えば【自分達も】そう考え逃げる者が多く出るだろう。


幸いな事に、法に【死罪】【鉱山送り】としか書かれていないから問題は無い筈だ。


とはいえ、人の口に戸は建てられない。


出来るだけ早急に事をかたずけなければならない。


しかもこれで終わりではない、これが始まりだと思うと頭が痛い。


「確実に国が傾くな」


ローゼンはそう言い溜息をついた。


だが、もう止める事は出来ない。



「パン屋と酒場の方は方がが付いたのだな」


「はっ」


ローゼンは上がってきた調書に目を通した。


「この酒場の方はなんだ! しかもこの内容は、これを持ってきた者を呼び出せ」


「それが、騎士爵を返上してこの国から出て行くと...」


「お前は、それを見逃したのか」


「騎士が責任をとり辞める、その行為に何か問題でも御座いましたか?」


ローゼンは顔を下に向け頭を抱えた。


「平和ボケしたのか? どこぞの物語と混同したのか? それともアホなのか?」


報告した騎士自体訳が解らず首をかしげていた。


「確かに数百年に渡り、騎士を自ら辞めた者などいない、だから混乱したのかも知れぬな、よく物語だとその様な話があるからな」


「ローゼン様?」


「お前、騎士を舐めているのか...良いか? この国は王国、そして騎士はちゃんとした騎士爵という爵位だ」


「あっ...」


「ちゃんと王に、剣を手に生涯の忠誠を誓った筈だ、その上で騎士になった、それが何故勝手に辞められるのだ? 王への報告なくして勝手に辞める事など出来ぬわ」


「ですが、責任を取り辞める話を聞いた事があります」


「それは他国の話しだ、騎士を辞めた者などこの国に居ないからな、昔話や帝国の話と混同したのだろう、基本生涯の忠誠を誓って爵位を貰った者が簡単に辞められる筈がなかろうに、仕方ない、ジェイクを呼んで、その騎士を粛清させるしかない」



「そんな...それじゃジュークサルは...」


「王の許可なく、任務に失敗して逃亡、死を持って償う重罪だ...この国始まって以来騎士を辞めた奴はおらんだろう、しいて言えばバーバリー殿だが、あの方は長年忠義を尽くし体を壊して騎士が勤まらなくなった、更に後継ぎも居ないから、正式に王に爵位を返された。そんな話しかない筈だ」



ローゼンはジェイクを呼び出し、ジュークサルに追手をかけた。



ただでさえやる事が多く、頭が痛いのに余計な手間をかけさせおって。


調書には、ジュークサルが責任を取る、そうも書かれていた。


「あと、ジュークサルと共に取り調べををした騎士は自害するように伝えよ」


「自害ですか...それはあんまりだと思いますが」


「任務に失敗した挙句、逃亡を計った騎士を逃がし、更にこんな人を怒らせるような書類をあげてきたんだ、この書類は王が見るんだぞ、自害ですませた方が良い、それで家族には咎が無く、騎士爵は子供に渡せるからな、こちらから処罰を提示した後は家族まで咎人だ」


「はっ急ぎ伝えます」




【騎士SIDE】



「騎士、ヌマーズ、悪い事は言わぬ、自害しろ」


「何ゆえ私が自害しなければ、ならぬのでしょうか? 心当たりは御座いません」


「お前、ジュークサルが騎士を辞めると言った時にそれを許したそうじゃないか?」


「責任を取って辞めると言う事でしたから、それが何か?」


やはり気がついていないか...確かにこの国で騎士を辞めた者は殆どいない。


訓練続きのこいつ等、脳筋が多いから下の方の騎士など、こんな者だろう。


「それが問題なのだ、任務に失敗して職務放棄した騎士を逃がすなど、言語道断だろうが」


「だから任務に失敗した責任を騎士を辞める事で...」


ここから説明しなければならんのかと、騎士隊長は頭を抱えた。


騎士ヌマーズが事の重大さを知り理解するまでに実に小一時間かかった。



「そんな...私は死なないとならんのですか?」


「まぁ、これが宰相であるローゼン様の温情だ、本来なら家族まで害がいくがお前一人の命で納めて下さる、そして騎士の地位はお前の子供に受け継がせて下さる」


「そうですか、ならば仕方ありません」


ドンッ


「やってられません、俺もこんな国逃げ出します」


騎士ヌマーズは騎士隊長を突き飛ばすとそのまま家族の元へ走り出した。




僅かな時間も惜しい。


家族の元に馬を走らせ、家に着くなり



「時間が無い、俺と共に来てくれ」


「どうしたのですか? 貴方、事情を教えて下さい」


「お父様、一体何が起きたのですか?」


ヌマーズは妻であるキャサリンと息子ヌマンに事態を掻い摘んで話した。



「解りました、それでは急ぎましょう、但しちょっと寄って貰いところがあります」



「解った、急いでくれ」


三人で一頭の馬に乗り走り出した。



「貴方、此処で降ろして...」


「お前、何をするんだ、此処は奴隷商じゃないか?」


「良いから黙って、これは生き残る為に必要な事なのよ」



訳が解らずにヌマーズはキャサリンについて奴隷商に入った。



「いらっしゃいませ、今日はどういった御用でしょうか?」


「奴隷として売るわ、売る人間は私と息子ヌマン、但し如何わしい者でなく、私は家事奴隷、息子は護衛奴隷、価格は安値で良い代わり二人を親子と認め引き取って貰う条件...お願いできる?」


「お前、何をいっているんだ」


「馬鹿ね、逃亡にはお金がいるのよ? 貴方が生き延びるには」


「そんな」


「訳ありですね、恐らくはソラン絡み...まぁ余計な詮索はしません、条件が厳しいので金貨10枚で如何でしょうか?」


「構わないわ」


「お前幾らなんでも」


「良いから、貴方は黙ってなさい...構わない契約する、その代わり契約を急いで下さる」


「それでは商談成立ですな」


そう言うと奴隷商は証文を書き、奴隷紋を二人に刻んだ。


間に合った、これは夫が罪人になったら成立しない。


今は、まだ罪人じゃない。


「貴方、サインを...」


「お前」


「いい、お金が無ければ逃げられない、更に言うなら馬一頭で三人は無理だわ、だからこのお金を持って逃げて」


「すまない、キャサリン」


「良いのよ、追手が来ると困るわ、早く」


「解った」


ヌマーズは急ぎ馬に跨り去っていった。


その目には涙が滲んでいた。




【キャサリンSIDE】


「店主様、それで私はこの子と一緒の檻でよいのでしょうか?」


「そういう約束だから構わない、しかも好条件の奴隷だから部屋タイプの檻に入れてやる」


「有難うございます、感謝します」


「しかし、馬鹿な旦那を持つと大変だな、まぁ良い、確かにこれしかないもんな」


「そうね」


「お母さま、僕は奴隷になったのですか?」


「そうよ...馬鹿なお父様の為に騎士になれなくてごめんね」


「お父様と僕は行きたかったです」


「駄目よ..お父様が向ったのは...地獄だからね、此処の方が遙かにましだから」


「お母さま?」


キャサリンは知っていた、逃亡者の末路を。


法に守られないと言うのは「何をされても仕方ない存在」女だったら犯そうが何をされても訴えられない。


面白半分に腕を斬られようが、どうする事も出来ないこの世の地獄。


実際にその状態の者を見た事は無いが...近い者は見た。


セレナだ。


あの美しく気高い【貴公子】と名高かったセレナ。


女なら、少なからず彼との恋や婚姻の夢をみた者も多いだろう。


だが、そんなセレナですら、誰も助けなかった。


乙女時代には彼と結婚出来るなら全て引き換えにしても良い...そこまで神に祈った私でさえ見捨てた。


そして貴族でありながらあの扱いだ。


本物の逃亡者になる位なら奴隷の方がマシだ。


家事奴隷や護衛奴隷なら性的な事も無い。


まぁ、こんな歳をくった女を今更抱こうなんて奇特な者はいないだろう。


後はどうにかお金を貯めれば自分を買い戻せる。



キャサリンは結婚するまで事務の仕事をしていた。


だから、こういう場合の対処を知っていた。


自分が罪を犯した場合は別だが、身内が犯罪を犯し、巻き込まれた場合はすぐに【奴隷】になれば良い。


嫌な話だが夫婦の繋がりよりも奴隷契約の方が強い。


罪が確定する前に奴隷になれば、家族ではなく所有者の奴隷という扱いになる。


売られてしまった後は最早私達はヌマーズの家族でなく、買った相手の財産だ。


つまり、他人の者なので...追及はされにくい。



「貴方、逃げ延びて下さいね」



無理なのは解っている。


だが、嫌いで別れた訳じゃない。


子供を守るためにこうしただけだ。


鉱山に行ったら、こんなおばさんでも女だ無理やり犯す人間もいるだろうし...息子だって何時まで生きれるか解らない。



それは叶わないそれは解っているが、元夫のヌマーズの幸せをキャサリンは祈った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る