第22話 ジョアンナとジュークサル

「すまんな、ジョアンナ、後で娘のポロンを連れて詰め所迄きてくれ」


「解ったわ、昼休みにお伺いします」


笑顔でジョアンナは答えた。


此処は冒険者ギルドに併設した酒場。


ジョアンナはそこの経営者だ。


とは言ってもギルドに併設した酒場であり、正式なギルド職員では無い。


その事が彼女の明暗を分けた。


もし彼女がギルド職員であったなら、国とておいそれとは手出しが出来ない。


だが、彼女はギルド職員でなかった。


冒険者に好かれ、一部の冒険者からは母親の様に慕われているが、実質は酒場のオーナーだ。


彼女はシングルマザーで1児の母。


貧乏だった彼女が冒険者でお金を貯めてこの酒場を買った。


その苦労話しも含み、彼女はギルドでは人気者である


更に娘のポロンは器量が良く、冒険者に人気がありマスコットの様に扱われている。




「何だい? 娘も連れて来いってどういう事? 私達なにかやっちゃったのかな?」


「ああっすまないがジョアンナ、ポロン、更迭させて貰う」



「流石にそこ迄の事される謂れは無いんだけど?」


ジョアンナは冗談だと思い笑っている。



「すまないが、ジョアンナ、これは冗談ではない」


何時になく顔が青い騎士の顔にジョアンナも顔色が変わった。


「なんでそうなるんだ! 教えて貰えるかな!」


「かなり昔の事だ、お前セレナ殿がお金を払い食事を求めた際に断っただろう?」


「ああ、それなら覚えているよ、だがあれは街中でやっていた事だろうが」


ジョアンナには記憶があった。


だが、それは自分だけでは無い王都の人間の殆どが彼を迫害していた。


それこそ、そんな事で罰されるなら恐らく数百、いや数千が罰されるだろう。


誰もが自分と同じ様にしていた筈だ。



「だがな、セレナ殿はあの時も今も、貴族籍を失っていない、不憫に思ったスマトリア伯爵は、そのまま席を抜かずに居た」


「何だって...そんな、今更...」


「これがどういう事か解るな」


「まさか、あたいを死刑にしようっていうのかよ!」


ジョアンナの顔が冒険者時代に戻った。


「すまないな...」


「ふぅ、仕方ない、あたいを舐めるな、あたいはこれでも元C級冒険者...風の...? ポロン」


スカートの下のナイフを取ろうとした瞬間、娘のポロンに他の騎士が剣を宛がった。



「あぶねーな、良いぜ、そのナイフ抜きな、そのかわりお前の娘は確実に死ぬ」


「騎士が女相手に人質を取るのかよ!」


「すまない、俺も、たかがこれだけでと、個人的には思う、だがこれも職務だ」


「はん、騎士は辛いね...なぁポロン、この先惨めに犯されながら生きる人生と、清らかに死ぬ人生どっちが良い?」


「そうね..清らかな死の方が良いわ」


震える唇でポロンはそう答えた。


「良く言った」


それをジョアンナは聞くと騎士の制止を無視してナイフを握った。


そしてそのナイフでポロンの首筋を一瞬で切り裂いた。


「お母さま...」


「そのまま目をつぶりな、楽に死ねる」


「はい...」



「なぁ、ジュークサル、少しは付き合いがあるんだ! 自分で死ぬ自由位くれるだろう?」



「ああっ、詰め所で大暴れをして、取り押さえる間もなく自殺した...そうしてやる」



「良いね、それ...セレナの糞野郎に言ってくれ、たかが食事を売らなかっただけで、娘とあたいを追い込みやがって、死んで会ったら、今度はあたいがおまえを殺すってな」



「ああっ調書にそう言って死んだ、そう書いてやる」


「そうかい、じゃーなジュークサル、あばよ」



そう言ってナイフを首に宛がい自殺した。


娘の死体の上にかぶさるようにジョアンナは死んだ。



「ジュークサル、これどうするんだ?」


「俺はありのままに調書に書くよ【たかが食事を売らなかっただけで、娘とあたいを追い込みやがって、死んで会ったら、今度はあたいがおまえを殺すってな】そう言っていたと」



「おい、それじゃ不味く無いか?」



「大丈夫だ! 責任は俺がとる、というか辞めた辞めた辞めた、この調書提出したら騎士なんて辞めてやる」


「おい、それは騎士爵を返上するって事か?」


「やってられるかよ! こんなのよ、幸い俺には家族がいねーから、帝国でも行って冒険者にでもなるさ」


「そうか...」


「ああっ、確かにセレナに酷い事はしたさぁ、俺も見たよ...だがな、彼奴は生きている、なら此処までする必要はねー、少なくとも此奴は飯を食わせなかったそれだけだ...なぁ、もしあの時に此奴がセレナを店に上がらせて飯食わせていたら、多分常連から非難されて店が潰れていたかもしんねーだろう?」


「そうかもな」


「娘を育てる為、そんな危ない事できねーよ」


「そうだな」


「だから俺はこの報告が終わったら、もう辞める」


「そうか、俺は...」


「お前は家族がいて入り婿だ、まぁ頑張れや」


「すまない」


「仕方ないさ」


そう言うと、騎士ジュークサルは死体の処理にかかった。



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