第21話 勇者ソランの欲しかった者

俺の名はソラン。


中位の商会の商人と妾の間に産まれた。


俺の母親は綺麗な美貌であったが、元が娼婦だと言う事で本妻や他の家族から蔑まされていた。


父親と母親は愛し合っていたとは言うが俺は実質、二番目だったと思う。


なぜなら、クリスマスを始めとする大切な家族の行事の時は何時も家族と過ごしていて、俺や母の住んでいる小さな家には来た事が無い。


俺は母に「あんな奴とは別れた方が良い」と子供ながら言ったがいつも母は「あの人を愛しているから」と頑なに別れなかった。


確かにあの男は金はくれる。


だが、それは本当に微々たるものだ。


そんな金額なら女給やお針子になれば簡単に稼げる。


実際に俺は一応冒険者登録をして家の為に薬草採取をしているが、そのお金とトントンだ。


女一人を縛り付けるには安すぎる金だ。


母親にお娼婦など勧められないが、娼婦になって3人も客の相手をすれば、その方が多分は金は多いだろう。


まぁ、あの男は家に【ヤリに来る】だけだ。


あの男が来ると俺は僅かな小遣いを貰い外に出される。


それだけの関係だから、父親とは言えないだろう。


そして、やがてその男は病気で死んだのだが...母は葬儀にも参列させて貰えなかった。


俺にとっては、ざまぁ見ろだが、その男の家族は男の浮気を許せず、墓地に埋葬しないで湖に骨をまいた。


恐らくは母が墓をお参りするのも許せなかったのだろう。



遠巻きに男の家族がいた。


娘は凄く綺麗に着飾りまるで人形の様に綺麗だった。


多分、あれが腹違いの妹なんだろう...その横に居るのが母親だ。



俺や母がボロを着て生活に困っているのに、遺産をもらって悠々自適に暮らしている。



母は妾だから、何も貰えなかったし、お参りも出来なかった。


この時俺は「愛にも序列がある」そう思う様になった。


どんな綺麗ごとを言っても1番愛した者に2番目以下は敵わない。


あの男にとって家族が一番だった、そして母は2番以下だった。


そう言う事だ。



それから暫くして母が亡くなった。


最後まであんな奴を愛していた、病気になり苦しみながら死ぬなか、あの男の事ばかり言っていた。


幸せそうに話す母に腹がたった。



結局はあの男は死んでなにも残さなかった。


俺は、子供ながら苦労をして母親を食べさせていた。


病弱で働けない母の代わりに必死になって働いた。


薬が欲しいから俺は、男娼になり体すら売った。


男が男に体を売る行為は屈辱的で尚且つ、自分の体が汚く感じる様になった。


そこまでして、頑張ったんだ、だが、母親が...それでも愛していたのはあの男だった。



母が死んで一人になった。



愛と言う物は俺にとって残酷な物にしか過ぎない。


一番以外はなんの価値も無い。


一番愛されなければ2番以外は斬り捨てられてしまう。



俺は顔がそこそこ良かった。


子供の時は男に体を売っていたが...よく考えれば女に売れば良い。


多分、俺程女を抱いた人間は少ないだろう。


数をこなせば、こなす程、俺の技術は磨かれ、どんな女も感じさせる事が出来る様になった。


俺が欲しいのは愛だ...金じゃない。


綺麗な服も、大きな屋敷も要らない。


だが、どれ程の数の女を抱いても、俺は男娼、抱いた女の中で常に2番。


彼奴もこいつも、旦那や恋人に呼ばれれば行ってしまう。


そんな中でも俺を愛してくれた人も居た。


女冒険者のエイダだった。


決して美人ではない、スタイルは良いがおかっぱ頭に顔はそばかすだらけ、そして歯は味噌っ歯、そんな感じだ。


最初は俺の客だった。


だが、此奴は冒険者だ、何時も金があるとは限らない。


いつの間にか転がり込んできて、金が無いのに俺を抱くと言う、とんでもない奴になりやがった。


ある時叩き出そうとしたら「あたいは、お前が好きで愛しているんだ」そう真顔で言った。


何故だか俺は顔が真っ赤になった。


どうせ、男娼相手の戯言と思い、ギルドで調べたらエイダは俺以外の男を買ったり抱いたりしないのが判明した。


だから言ってやった。


「そんなに俺が好きなら嫁になってやるよ」


そうしたら此奴は照れ臭そうに


「凄く嬉しいが、逆だよそれっ」


と鼻を掻いていた。


まぁ、冒険者や男娼だから、事実婚を選び、ギルドの酒場で仲間内で祝ってもらった。


エイダも俺も13歳、お互いがヤリタイ盛りだ。


俺はこれを機に男娼をやめ、昔の様に冒険者に戻った。


二人で仕事をして、飯を食って、やりまくる。


そんな日々。


貧乏だがそれで充分だった。


エイダは性欲が強い女だった。


多分、俺は男娼をしていたからか、女を抱くのが一番になっていた。


簡単に言えば、服も財産も気にしない...ただ女だけがいれば良い。


そんな男だ。


良く、男で身を持ち崩す女がいるがそれの男版が俺だ。


だが、そんな関係も1年も続かなかった。


何時の様にラビスター(ウサギの獣)を狩っていたら突然オーガに出くわした。



「逃げろ、ソラン、私が食い止めるから...」そう言い俺を突き飛ばした。


俺は崖から落ちた。


そのおかげで助かった...崖をよじ登り上がったらオーガはいなかった。


その代り上下に引き裂かれたエイダが転がっていた。


俺は泣きながらエイダの上半身を背負い帰ってきた。


金がない俺はエイダを共同墓地の片隅に埋めた...すると涙が止まらなくなった。


エイダだけが、此奴だけが俺を1番にしてくれた。


暫く泣いて、涙が止まると、もう何もしたく無くなった。


そこから、立ち直るまで半年かかった。



そして、何の因果なのか俺は勇者に選ばれてしまった。



【正直どうでも良い】



だが、勇者に祭り上げられた俺は城に連れていかれあれよ、あれよと言う間に王にあわされた。


王よりもその横にいた二人の美女が気になった。


そのうちの一人がマインと言い、第一王女で聖女だと言う事だった。


多分、俺が平民だったせいなのか、今思えば随分と割愛されたもんだった。



報奨について聴いたら。


「魔王を倒せば思いのままにとらす」


そう王は言った。


それから聖剣の儀が終わり、俺たちは旅に出た。


この旅は最悪だった。


聖女のマインにしても賢者のリオナにしても意中の人が居た。


相手はセレナ、貴公子と名高い美少年だった。


リオナはまだ解る、だが、マインは聖女だ、聖女と勇者はかなりの率で婚姻を結ぶ。


そういう習わしがある。


二人は、聖女と賢者の義務は果たしていた。


だがそれだけだった。


魔王討伐の旅は長くかかる場合もある。


だがらこそ【仲良くならなければならない】と思う。


場合によっては10年掛る場合もあるのだ、そういう付き合いも必要だと思う。


だが、2人は【俺を見ようとしない】


ドラゴンのブレスから二人を守って俺が火傷しても手当はしっかりして看病はしてくれたが、俺が眠ると二人はセレナの話をしていた。


命懸けで彼女達を守り、魔王討伐の旅をしているのは俺だ。


それなのにセレナ、セレナ...安全な所で商売をして金を稼いでいる男の自慢。


それでも俺は、我慢して魔王討伐の旅をした。


もうどうなっても良い、俺を愛さない女等死んでも良い。


そう思い、旅をしていたら、魅了のスキルが身についた。


これは思ってもない位素晴らしい事だ。


俺はクズだ。


だが死んだ母の影響で【約束は守るクズ】になった。


だから、このスキルはまだ使わない。



約束を満たしてないからだ。



このスキルの使い方は頭で解った。


ただ、見つめるだけで相手から嫌われなくなる。


そして、肉体関係になれば【愛される】ようになる。



そのスキルを更に磨いた。


その結果、傍に居る者は全て俺に好意を寄せるようになるまでレベルを上げた。



無茶に無茶を重ねた結果、魔王討伐は終わりを告げた。


これで良い筈だ。



「魔王を倒せば思いのままにとらす」それが王と俺の約束だ。


【魔王を倒す】それをすれば【思いのまま】そう言う約束だ。



ならば、この世界の女全てを俺が貰って良い筈だ。


勿論口には出さない、だが、俺は魅了の封印を解いた。



この能力を使えば簡単だった。


目を見つめれば簡単に誘いに乗る。


そして犯せば俺を好きになる...


だが、俺は解ってしまった。


魅了で俺を好きになった女はただの人形だ。


意思も持たずにただ言う事ばかり聞く人形。


俺にとってはただのオモチャだ。


多分、普通の男ならこれで満足だろう。


どんな女も直ぐに股を開くんだ。


だが、俺には【違いが解ってしまった】


【本物のSEXは違う】


簡単に言えば、【見かけだけで愛が無い】


上手く言葉で言えないが、本物のSEXは【相手を喜ばせる、その対価として自分も気持ちよくして貰う、いわばキャッチボール】だ。


だが魅了ではそうはならない、只の肉人形...そこに相手の愛情や意思はない。



とはいえ、SEX依存症に近い俺はただの人形を使い続けるしかない。


俺が男娼をしてなければ、この違いに気がつかなかっただろう。


だが、俺は気がついてしまった。


俺が欲しいのは【愛のある本物のSEX】 それ以外は要らない。



約束はした、王が【思いのまま】と、ならばこの世の女は全ては俺の者だ。


本物のSEXに出会うまで、女とやりまくっても文句は無い筈だ。


俺を一番に愛し、本物のSEXをする女に出会えるまで俺は止めない。


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