第16話 俺は憎む、だがお前らは感謝しろ。
そのまま、洞窟を後にした。
俺はもう此処に戻る必要は無い。
この場所はもう既に知っている人間が多すぎる。
だから、もしまた外で暮らすにしても此処に戻って来る事は無い。
俺は今迄、雨露から守ってくれていた洞窟を振り返り頭を下げた。
マインやローゼンは一緒の馬車に乗る様に勧めてきたが慣れ合うつもりは無い。
まだ心の整理も出来てないのだから、荷馬車の方に乗る事にした。
元々俺にくれるつもりだったのか食料やらなにやら乗っていた。
そのまま馬車の中で横になった。
ただの木の床だが、洞窟の地べたに比べて柔らかく感じた。
そのまま横になり、一緒に乗っていたアプルの実を齧った。
久々に食べた甘い物はそれなりに美味かった。
きちんと味のする物は久々だ...今迄は獣や草だからか2つ目につい手が伸びた。
馬車で揺られると何とも言えない眠気に誘われ、気がつくと俺は眠ってしまったようだ。
馬車からは既に王都の門が見えていた。
門から少し離れた所に見知った鎧が見える。
あの紋章は勇者ソランの紋章。
という事はあの屍はソランと言う事か?
多分、俺にとっては一番憎い相手だ...殺しても殺し足りない相手...まぁ死んでしまったのだがな。
この手で殺してやりたい、そう何度思ったか解らない。
だが、気がつくと俺は馬車を飛び降りていた。
「セレナ殿~」
「セレナ様ーーっ」
前を走っている馬車から二人の声が聞こてきたが無視した。
目の前にはムカつくガキが三人いた。
「お前は何をやっているんだ?」
「なんだ、お前汚いなーーっ」
「お前田舎者なんだろーーっ、罪人ソランに石を投げているんだ」
「お前はソランに恨みがあるのか?」
「別にねーよ、だけど悪人に石をぶつけて何が悪いんだ」
見た感じ只の子供だ。
だが、ソランは女とお金に汚かった...だから母親寝取った、姉を寝取ったとか一瞬考えたがそうではないらしい。
俺みたいな人間がソランをいたぶるのは良い...復讐だ。
ここに晒すように命じた奴...それも良い、酷い事されたから復讐したんだろう。
だが...この糞ガキは...なにしているんだ...
「お前にとっては悪人じゃないだろうが」
「バーカ、そ..ぶべばぁ」
俺はクソガキの胸倉を掴むと顔を殴った...勿論グーで。
まぁ流石に本気では殴らない。
「お前、なにしてふぉばっ」
「ふん、ふん、ふん、ふん」
ひたすらビンタを繰り返した。
「やめりょおーーーっ」
泣いているから、これ位で良いだろう...あと二人いるしな。
「やめろよ...グス、大人が」
「じじい、やめりょーーっ」
傍に王宮の馬車や騎士がいて止めないのだから...他の人間も遠巻きに見てはいるが、無視している。
誰も助けてくれないと解ると大泣きして逃げていった。
まぁ手加減はしたがあの顔は暫くは腫れているだろう。
ソランに恨みがあるなら、何をしても構わない。
だが、恨みが無いのに彼奴を馬鹿にしたり傷つけるのは間違っている。
彼奴は、世界を救ったのは確かだ...だからって俺は恨みを忘れない。
だが、恨みが無いのなら、助けて貰った事に感謝位してもいい筈だ。
最低最悪の人間だが【勇者】ではあったのだ。
クソガキ、お前は救ってもらったんじゃないのか?
しかし、汚くなったな、肉なんて殆ど無く、ほぼ骸骨だ。
誰も手なんて合わせてくれないのか...花一つ無い。
更に沢山の投げつけられた石がある。
俺は馬車の近くの騎士に頼み剣を貸して貰った。
ソランの死体を見ていると何ともいえない感情が込み上げてきた。
「この野郎ーーーーっ勝手に死ぬんじゃねーよ」
「馬鹿野郎ーーーっ、なにもかも奪いやがって、野垂れ死にしてんじゃねーーーってんだよ」
何度も何度も俺はソランの死体を剣で殴りつけた。
もう骸骨も粉々だ。
そのまま、剣で土を掘り、ソランだった骨を埋めてやった。
別に弔う訳じゃない、晒されてなければやがて皆から此処の埋葬場所の記憶も無くなるだろう。
此奴の存在を皆が忘れてしまうのが、俺の此奴への復讐だ。
ソランはクズでゴミみたいな奴だった。
だが、世界を救った奴なのは本当だ。
もし、ソランが戦わなかったら、世界はどうなったか解らない。
どんなにクズ野郎でも【そこだけは認めなくてはならない】俺やマリアやマインのように被害にあった奴が恨むなら当たり前だ。
だが、被害にあっていない者は【救って貰った】その感謝だけは持つべきだ。
俺はクズ野郎のソランは嫌いだ。
だが【世界を救ったから】石をぶつけられない様に土に埋めてやる...こっちは感謝だ。
俺から全てを奪ったのだから、ぶん殴り粉々にした...そして埋めてしまえばもうお前なんて何処に遺体があるのか解らないから、花を手向ける様な人が居たとしても祈りすら出来ない...こっちは復讐だ。
こんな事しても何もならない事は解っている...
散々、やる事だけやって去っていた男へのせめても意趣返しだ。
だが、被害にあってもいないのにソランに石を投げた奴、お前はソラン以上のゴミだ、【自分を救ってくれた者】に遺体とはいえ危害を加えたんだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます