第12話 宰相 ローゼンの戦い

俺は今、王の前で、五体投地という形でいる。


良く一般的に最大の謝罪は土下座という話があるが、本当の謝罪という意味では更にその上がある。


その謝り方こそが【五体投地】だ。


許しを請うのではない...相手の好きなようにして良い。


そう言う意味では、殺されても体を切り刻まれても構わないという覚悟を決めた謝罪。


それが五体投地だ。


(※諸説あります。)



俺は今迄の経緯を全て王に跪き話した。


こんな失態は今迄に無い。


二つと無い魔剣を失しない、名馬を失い、あまつさえ部下迄失ったのに...目的は達成できない。


そんな俺に出来る事は【全てを受け入れる】それしか出来なかった。


王を始め名だたる貴族は冷ややかに俺を見ている。


実際には数分の事だろう。


だが、俺には数時間、いや数日間此処にいる様な錯覚すら感じた。


重い口で王は口を開き...一言だけ言った。


「赦す、下がれ」



聞き間違いに違いない。


だから、俺は動かなかった。


「下がれと言ったのだ...説明が必要か?」


「はっ、もし宜しければ」


王は不機嫌そうに口を開いた。


「直ぐに勇者を連れて来る為にどうするか考えなければならぬから時間が無い、お前は今回失敗をしたが、勇者を含む四職以外なら強い騎士だ、もし勇者抜きで戦うなら必要な戦力だ、故に赦す、もし本当に反省するというのなら、この先の魔族との戦いのなかで示せ、1人でも多くの魔族を殺して示せ...以上だ、今はお前に構っている時間が惜しい、下がれ」


「はっお赦し頂き」


「とっと去るが良い」



俺の言葉を遮り、王は立ち去った。



冷静に話してこそいたが、心の底からお怒りになっていた事は解る。


だが、最悪、貴族籍と騎士団長を解かれても致し方なかった。


それが許されただけでも感謝しなくてはならない。


だが、これで俺の人生は決まってしまった。


かの物語の【罪人騎士】の様に罪を償う様に、生涯を魔族の殺戮マシーンの様に過ごさなければならない。


もう、俺には魔族との戦いの末にしか栄光は無いだろう。





【国王SIDE】



まさか、2回目まで失敗をするとは思わなかった。


セレナが怒る気持ちは良く解る。


勇者の魅了に洗脳に近い位の状態で掛かっていた。


だから、誰にもどうする事も出来なかった。


あれ程、セレナを愛していたマリアすら可笑しくなっていたのだ、誰も多分あの魅了には勝てなかっただろう。


だが、これは加害者のこちらの言い訳だ。


被害者から考えたら言い訳がましいとしか思えないだろう。


仕方ない、次が無いとしたらもう儂が行くしかないだろうな。



「皆の者、こうなっては仕方ない、儂が行く」


だが、宰相のローゼンが土下座し、ひれ伏しながらそれを止めた。



「王よそれはなりません、お願いでございますから、その様な行動をお慎み下さい」


「だが、此処まで事態がこじれては儂が行くしかないだろう」


だが、ローゼンは頑なに反対する。


「無礼を承知で言わして貰います、王が死んでしまったら、この国の王位はマイン様が継ぐ事になります、今の精神の病んだマイン様にこの国を回せるとお思いですか?」


「儂は死なぬ」


「そうでしょうか? 人類を守護する貴重な魔剣を壊す程までに世界を恨んでいるのです、かっての明るく優しいセレナ殿と違います、場合によっては王の殺害、そこ迄の事をしても可笑しくありません」


確かに、その可能性が無いとは言えぬ、だがそれ以外に方法は無いだろう。


「その可能性は否定せぬ、では誰が行くと言うのだ」


「私が行って参ります」


「其方がか?」


「この話、命に代えても纏めて参ります」


「そこ迄言うのだ、ローゼン、お前に任せるとしよう、だが今度は失敗は許されぬ解っておるな」


「はい、もし纏める事が出来ぬ時は、この地を二度と踏まない、そのつもりで行って参ります」


「ローゼン、期待しておるぞ」


「はっ、お任せ下さい」



だが、今度が最後というのであれば、今迄の経緯からその場で報奨の話までしなければならないだろう。


そう考えたら早急に、話しを纏める必要がある。



話は難航したが、今度がジェイクの話では最後のチャンスだ。


ならば、最早出し惜しみ等していられない。


私は、最大限の条件を纏めあげた。




まずは地位であるが、他国も含み公爵以上の爵位があるのかどうか調べた。


これはセレナが過去に実家から独立して伯爵の地位が確定していた。


それでは王位継承権はどうだったか考えたら、もし問題が起きなければ、あの時点の継承権は1位ソラン2位マイン様、3位はマリア様だが、恐らくマリア様は問題無くセレナと結婚していた筈だ、そう考えたらマリア様の夫のセレナが王位継承権3位の可能性が高い、マイン様は政治事が嫌いだから恐らくは押し付け...ゲフン、譲られただろう、そう考えるなら王位継承権2位だ。


その事も加味しなければいけない。


わだかまりが無ければ、マイン様とマリア様を娶って貰って次の王の約束する...そこ迄勇者になったセレナなら手が届いても可笑しくない筈だ。


だが、お二人自体がセレナを傷つけた原因だ、地位とは切り離さないとならないだろう。


勇者にならなくても王位継承権すら持っていた事も考えれば、公爵でも足りない気がする。


そこで過去に遡って、王国、聖教国、帝国を調べたら、公爵以上の地位を貰った者が居た。


帝国に大公という地位を過去に貰った者がいた。


王家から分家して貰ったらしいが、今は【公爵より上があった】それだけで良い。


随分、反対の声も上がったが、無理やり決めさせて頂いた。




次にお金だが、国から出て行く前のセレナ殿は年間金貨3千枚稼いでいた。


それに15年をかけて金貨4万5千枚(約45億円)を支払う。


それプラス、王家が持っている王都近くの良い土地を与え領主とする約束も取り付けた。



そして女性についてはマリア様、マイン様 リオナにアイナを望むのであれば側室に出来る権利を与える事とする。


特に、今迄如何なる例外であっても許されなかったアイナとの近親婚も認める事とする。


これは反対が多く難しかったが彼女たちに奴隷紋を刻む権利もつけた。


これは反対を押し切り他ならぬ王が認めてくれた。


王族である二人に逆らえなくなる、奴隷紋を刻むなど前代未聞ではあるが裏切られ続けていたセレナには【絶対に裏切らない者】でなければ好いていても受け取らない可能性も高い、と考えてのことだ。


それプラス王妃以外の女性を当人や周りの意思に関係なく5名正室もしくは側室に出来る権利も与える。


この辺りはソランの様な規格外を除けば、あり得ない好待遇だと言えると思う。



かって此処までの待遇を正式に手に入れた人物はいない。


履かせられるだけの下駄は履かせた。



これは私の戦だ。



何としても、勇者としてセレナを国に迎え入れてみせる。


出来ないときには私には死より辛い人生しか無いだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る