第11話 ジェイクの大失態

俺はとんでもない失態をしてしまった。


魔剣エグゾーダスを失ってしまった。


確かにあれは【今は俺の物】だ。


だが、聖剣など特別な物を除けば最高の剣。


世界三大名剣の一つなのだ。


ゆえに有事の際には俺の手元を離れ、別の者に貸し出される。


先の戦争の時には、剣聖に貸し出された。


今までの歴史で考えると有事の際には剣聖に貸し出される事が多い。


剣聖がこの剣を振るう事で、その力を発揮する。


この剣の力を本気で引き出せる人間は恐らく、勇者と剣聖しかいない。


勇者は、中央教会で祈る事により、神から聖剣を授かるから、この剣は剣聖専門ともいえる。


騎士の名家の当時の当主の俺の祖父が大きな大きな手柄を立てた時に望み下賜された。


それを、今回破壊されてしまった。


もう取り戻せない。


つまり、勇者パーティーに加わるかもしれない剣聖の剣を壊されてしまった。


この失態は取り戻せないだろう。


更に勇者を連れて帰れない俺は今後どんな責任を負わされるのだろうか。


正直怖くて仕方ない。


だが、あの段階で壊すなんて誰が考え付くだろうか。


普通に考えてこれ程大切な剣を壊すなんて考え付かない。



だからこそ、セレナは狂っている、そう考えられる。


だが、不破と言われる魔剣をへし折るのだから、確実に勇者の力は宿っている...


そして、俺はこの失態をありのまま話さなければならない。


時間が無さすぎるのだ。


汚名返上どころか、次こそが最後のチャンス。


対策を考えて貰う時間を1分でも多くするために素早く帰らねばならない。


「ジェイク様...」


「すまないな、完全に失態だ、どう弁解して良いのか解らない、ただ責任は俺がとる、だから心配するな」


「...すみません」


副官は掛ける言葉が無かった。


他の部下も【責任は俺がとる】その言葉を聞いてほっと安心はしている物の王命の失敗だ、幾らジェイクが責任をとると言っても飛び火は覚悟しなくてはならない。


此処に来て本格的に騎士達の士気は下がっていた。



途中、ゴブリンに教われている商隊を見かけたが今は一時が惜しい、だから、見捨てるしかない。


だが、騎士の一人が俺を見る。


明かに【行かなくていいんですか?】顔が物語っていた。


どうするか?


「すまない、先を急ぐ、カル、2人を引き連れ助けに行ってくれ」


「了解」


カルは2人を引き連れゴブリンを狩りにいった。


「討伐が終わり次第、直ぐに追いかけて来い」


カルは俺に手を振ると商隊を助けに走り出した。



俺は何をしているんだ。


ゴブリン等騎士が行けば簡単に倒せる、それを見捨てるだと...


正気を取り戻せ、冷静に判断しろ。


自分で自分が情けなくなる、こんな事も判断できなくなっているのか。


そのまま急ぎ王国を目指す。


可笑しい...何が可笑しいと言われれば解らないが何かが可笑しく感じる。


不思議な違和感があった。


だが、こんな予感だけで引き返す訳にはいかない。



今は急がなくてはならないんだ。



そのまま予感を無視して馬を駆けさせた。



この時、ジェイクが予感に対して真剣に考えていたら...


もしくは、正常な判断を下せるような状態だったら、これから起こる不幸を回避できたかも知れない。


だが、任務に失敗して落ち込むジェイクには正常な判断が出来なかった。


そのつけは...大きく彼等にのしかかって来る事になる。



暫く、道を進むと何者かがこちらを見ている気配がした。


此処まで来ると最早違和感がではない。



完全に囲まれている。



「王家の馬車だ、しかも人数が少ないぞーーーーっ」



大きな声が聞こえてきた。


魔物では無く、盗賊だった。



ジェイクはほっと胸をなでおろした。


もし、オーガ等の魔物だったらどうしようかと思っていた。


だが、盗賊だ。


確かにみた感じ人数は多く、ざっと30はいる。


だが、ジェイクにとってはそんな数は大した物では無い。


自分は王宮騎士団団長だ...甘く見られた物だ。



この位の数なら、恐れる事は無い。


敵から大きな声が聞こえた。



「王家の馬車だーーーっ、勝てば暫くは生活に困らないぞーーっ抜かるなーー」


「「「「「「おーーーっ」」」」」



盗賊が襲ってきた。



「盗賊など恐れるに足らん、騎士の誇りを見せつけてやれ、抜剣っ...?」



「「「「「「「抜剣」」」」」」」


騎士が剣を抜き馬で突進していくなか、1人だけ馬を止めた者がいた。


それは...他ならぬジェイクであった。


腰に手をやったジェイクは驚きが隠せない。



け...剣が無い。



そうだ、俺の愛剣、魔剣エグゾーダスはセレナに差し出して折られてしまった。


7騎の騎士が盗賊団に突っ込むなか、ただ一人馬を止めざる負えなかった。


その結果、ジェイクは槍で馬を突かれ、馬を死なす事になった。


ジェイクの乗る馬は白馬で、この馬も王から下賜された物であった。



馬から落とされて我に返ったジェイクは我に返り、ナイフを抜いて応戦した。


例え剣が無くともジェイクは一流だった、たかが無名の盗賊など無傷で倒せる。


だが、部下の騎士はそこ迄では無い。


ジェイクがカバーする筈だった箇所からの攻撃を受け二人が死んだ。


だが、後から二人の騎士が駆けつけてきてカバーをし、流石は騎士30人の盗賊は簡単に蹴散らし倒す事ができた。



「すみません、ジェイク様、ゴブリンの中にゴブリンジェネラルとゴブリンアーチャーがいたのでコブルを失ってしまいました」


「上位種がいたのなら騎士であっても討ち取られても仕方ない...ご苦労だった、お前は馬車で休むが良い」


怪我をしたカルから馬を取り上げ自分は馬に乗り、何とか王都にたどり着いた。


ジェイクは今回の任務で


魔剣エグゾーダスと愛馬を失い、部下を三人失った。


確実に任務としては失敗と言わざる負えないだろう。

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