第10話 ある子供の死

「お前、よくも今迄やってくれたな?」


複数の少年が一人の少年に暴力を振るっていた。


その少年は、見方によっては美男子かも知れない。


普通に考えれば、こうも一方的に嫌われる事は無い。


だが、今の彼に助けは来ない。


【何故、僕が虐められなくちゃいけないんだ】


彼はそう思っているだろう。


「止めろ、フォルダ」



「お前さぁ、なんで男爵の子供のお前が、俺に命令している訳」


「何だと! 俺に逆らうとどうなるか解っているのか」



「俺が許すから、此奴ひん剥いてボコれ!」



「フォルダ様がそう言うならやっちゃいましょう」


「俺も此奴ムカついていたんですよね...それじゃ足りないな」


「俺、ファイヤーボールを覚えたんで的にしていいすか?」



「今日から此奴は玩具にして良いぞ、なぁニール? おまえさぁ仕方ねーよな? 身分が低い癖に俺が頼んでも言う事聞かないで、俺の婚約者を傷物にしたんだからな」



まぁ、本当はそんな生優しい物じゃ済まさないがな。



「だが、それは話が付いた筈じゃないか」



「ついてねーよ! お前が終わったと思っただけだろうが、良いか貴族社会じゃ【婚約者には手を出さない】と言うちゃんとしたルールがあるんだぜ、王族だって守っている事だ、それでもどうしてもという事ならちゃんと家同士で話し合って婚約を解消してからだ、それを破ればどうなっても文句は言えねーんだよ」



「だが、それは彼女だって同意だ」


その言葉が余計に苛立たせた。


「無理やりだったそうじゃねーか...まぁ良い、お前等、気が変わった、謝らないんじゃ仕方ないな、ニールこれから俺たち全員と決闘だ」


そう言うとフォルダは手袋をニールに投げた。


「おい、まさか本当に決闘するのか?」


「もう手袋は投げたぞ..行くぞ」


「お前は上級生じゃないか...卑怯だぞ」


「関係ない、これは決闘だ」


決闘は貴族であれば騎士爵でも持っている権利だ。


勿論、子供ですら持っているが、普通はまずしない。


学園は貴族同士が将来揉める事なく、仲良くする為の土台としてある。


将来、貴族同士だから揉める事もある。


だが、一時であっても一緒に過ごしたことあれが争いは回避できるかも知れない。


そういう良好な関係を作る意味もある。


だから、こんな事は普通は起きない。


だが...いま現在は起きている。



フォルダは剣を抜き、素早く斬りかかると剣でニールの耳を削いだ。



「うわぁぁぁぁ痛い、やめてくれーっ」


「止めてじゃねーんだよ、やめて欲しければちゃんと言うんだ」



「ハァハァ...この決闘は僕の負け...です」


「それで? お前の命を幾らで払い戻すんだ?」


これは決闘法に則った正規のルールだ。


決闘に負けると言う事は【殺されても文句は言えない】。


だが、負けを認めて降参して、自分の命を買う事も出来る。


「金貨5枚...」


「足りないな、お前ふざけているのか? 俺は侯爵家でお前が傷物にしてくれたロザリアは伯爵家だぞ? そんなはした金で済ます訳?」


「お金は持ってないんだ」


「それじゃ終わらないな」


勿論、赦すかどうかは勝者が決める。


結局ニールは両耳を失い右目を失った所でこの決闘は終わった。


「ほら、ニール金貨5枚で良いぞ...ちゃんと言え」


「僕の負けですーーーーっ助けてーーーっ下さい」


「良いぜ、じゃぁな」


俺は金貨5枚を受取り終わりにした。


次が待っているからな。



「ハァハァ...医者を呼んでくれ、誰か助けてくれーーーーーーっ」


だが誰もニールには手を貸さない。


寧ろ周りの人間は冷たい目で彼を睨んでいる。



「悪いなニール君、今度は僕が君に決闘を申し込むよ」


「そんな、こんな状態の僕に決闘、ハァハァなんて卑怯だ」


「煩い」


そう言い、その少年も手袋を投げた。



結局ニールはその日12人の学生に決闘を挑まれ、最後には絶命した。



普通に考えたらどう見てもフォルダが悪役だだが...これにはこうなる理由があった。



【時は少し遡る】



「頼むから、ニール俺の婚約者に構わないでくれ」


「僕はお父様に似て美形だからね、女の子が放っておいてくれないのさぁ」


「そんな訳あるか..俺とロザリアは婚約者で、そこには家同士の付き合いもある、ただの恋愛だけの話じゃないんだ」


「モテない男は嫌だね...そんなの僕には関係ない」


「ふざけるな、婚約者には手を出さない、貴族としてのマナーだ」


「知らないな...だが良いのか? 僕は勇者ソランの息子だ、そして母様は男爵だが側室だぞ...お父様かお母さまに言いつけてもいいんだぜ...フォルダに虐められたってな」



「俺は、真面な事しか言ってない」


「世の中はどう判断するのだろうね」





結局、勇者であるソランから話がいき、勇者の子供に危害を加えようとしたとされ...俺は停学2週間となった。


幾ら俺が貴族法に則り話をしても教師は聞いてもくれなかった。



そして、俺が復学した時にはロザリアは居なかった。


俺の取り巻きやロザリアの親友に話を聞いた。


「すまない、俺じゃ助けられなかった」


「悔しい、本当に悔しい...だけど勇者と側室相手じゃ...親友があんな目にあったのに...ごめん」


俺が停学になって直ぐにニールは夜這いを掛けた。


そして無理やり...事に及んだ。


誰が見てもロザリアが拒んだのが解ったそうだ。


衣服は乱れ、体は痣だらけで顔は殴られたせいか腫れていたらしい。


こうなってはもう婚約は自動的に破棄になる。


俺がどんなにロザリアが好きで婚姻を求めても、侯爵家である以上無理だ。


そこを押して無理やり結婚しても社交界で「傷物で嫁いだ」と噂され一生笑い物の人生しかない。


だから、どんなに愛おしくても俺から身を引くしかない。


ニールの勝ちだ。


【俺から此処までして奪ったんだ、結婚して大切にしてくれ】


勇者ソランは嫌いだが、女にだらしないが責任をとり、そして傍に居る女は皆が幸せだと聞いた。


ニールも同じだろう...そう思った。


直ぐに俺の所に婚約破棄の手紙が来た。


そして、ロザリアは神の元シスターになるという話も書かれていた。


理由はもう解った...これは婚姻前に汚された女性で、その汚した相手が婚姻に相応しくない、もしくは婚姻を断った時の話に多い。


つまり、ロザリアはニールにとってその程度の人間、つまり遊び半分だった。


そう言う事だ...


勇者の息子のせいか、俺の実家やロザリアの実家が話しても王家は動かなかった。


貴族の権利、裁判すら認められなかった。


誰も復讐してくれないなら俺がやるしかない...そう思ったら、同じような目にあった奴が沢山いた。



何時か、同じ戦場であったら、もし研修でパーティーを組みチャンスがあったら、後ろから刺し殺そう、そう仲間と誓った。



だが、そんなに待つ事は無かった。


【勇者ソランの戦死】【過去の功績の剥奪】【側室の権利喪失】



ニールを守っていた物は全て無くなった。


ついてないなニール。


勇者の力は遺伝しない、そしてお前はまだ実戦すらしてないガキだ。


今のお前はただのガキなんだよ...


これからお前に貴族の怖さを教えてやる。


俺は侯爵家、今この学園には公爵家も王族もいない。


地獄を見せてから...皆でなぶり殺しだ。




もし、ニールが分をわきまえていたらこの悲劇は起きなかったかも知れない。


だが父親の勇者ソランを見ていたニールには、自分が何故酷い目にあうのか、それすら解らないだろう。


その結果は、死という形になって自分に帰ってきた。


ただ、それだけだ


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