第8話 マイン

私の名前はマイン。


聖女でこの国の第一王女、ソランが死んだ事で継承権は私に戻りこのままだと女王になるか、私と結婚した者が王になる可能性が高い。


否定したら私の息子の王子が王になる。


だが、私にはそんな事よりセレナが心配で仕方が無かった。


私が...私のせいでセレナが不幸になった。


セレナは私にとって弟の様な者だった。


ううん、多分今思えば、一番大事な男性だった。


だけど、【弟のような存在】と自分に言い聞かせた。


私は王家の第一王女に産まれたから婚姻の自由は無い。


もし私に自由があればマリアとセレナをとり合ったかも知れない。


だが、私にはその自由が無かった。


第一王女で聖女である私は、勇者ソランと結婚しなくちゃならなかった。


直ぐに婚約が決まったが...ソランは浮気三昧。


更に言うなら、最初に妊娠したのは私ではなく貴族の娘だった。


正室の私でなく、先に妊娠したのは男爵の娘、それなのに周りは文句も言わずにその男爵の娘のキャサリンは側室になった。



私はこの頃良く泣いていた記憶がある。


私はソランなんて好きでは無い。


なのに頭が可笑しくなったのかも知れない、嫌いな相手なのに浮気されると辛い。


何時も何故か泣いていた。


そんな私を見かねたセレナがソランを注意してくれた。


「将来の王で勇者の貴方が、聖女で第一王女のマイン様を愛さずにどうするのですか?」


大きく揉めない様に注意を促してくれていた。


だが、それが続くとソランは徐々にセレナが鬱陶しくなったようだった。



そして最初の事件が起きた。


いつもの様にセレナが注意をすると...


「そうか、俺がマインを抱かないのが悪い、お前はそう言うのだな」


そう言うとソランは私のドレスを破りそのまま犯した。


場所は社交界のパーティー会場、大勢の貴族の子息、子女がいるまで。


「やめて下さい、お願い、せめて人が居ない場所でいやぁーーーーっ」


セレナが助けに入ってくれたが


「なんで騎士が...」


騎士に押さえつけられて動けない。


「止めさせなさい」


命令を出しても騎士も貴族もだれも動かなかった。



だが、可笑しい...


無理やり抱かれていて、悍ましい行為をされているのに...数分もたつと私は自分から求める様にソランに口づけをし腰を振っていた。


多分、あれが勇者の魅了の力だったのかも知れない。


自分からソランの物を咥え...女としての尊厳は一瞬でなくなった。


王女で王位継承者の私がまるで娼婦のように振舞った。



あははははははーーーーっこれが私の大切な初めてだった。



大好きな人が無理やり押さえつけられているその前で...自分から喜んで腰を振る娼婦の様な私。


正気になった私は思い出すたびに吐き気がする。



セレナはさぞ絶望した...そう思う。



普通であれば、如何に婚約していようが婚姻前に王女を抱く事は出来ない。


それなのにソランはお咎め無し...


逆にセレナは第二王女の婚約者の癖に第一王女に手を出したとして厳罰を受けた。


周りの人間も全員がソランを支持しセレナを陥れていた。


自分でも狂っていたとしか思えない。


父である王に


「セレナに言い寄られて困っている」


「セレナに犯されそうになったのをソランに助けられた」


「万が一セレナに犯されたら困るから、自分からソランと契った」


嘘ばかり私は並べ立てていた。



うふふふふふふっーーあはははっ何をやっていたのよ私。


それからはソランは、ワザとセレナがいる時を狙って私を沢山の人間の前で犯していた。


私とソランは婚約者だ、セレナは止める事など出来ない。


最悪な事をしているし、正気に戻った今の私には穢らわしい記憶しか無い。


だが、王である父が何故か許してしまったから対外的には【勇者と聖女の愛の営み】【王女と未来の王の愛の営み】だ誰も文句は言えない。


貴族であるセレナにはただ見ている事しか出来ない。


今だからこそ解る...あの時のセレナは悲しそうに私を見ていた。


今の私ならあの顔のセレナに笑って貰えるなら...国すら捨てる覚悟はある。


だが、これだけでも最低なのに、私は、更に取り返しのつかない最低な事をした。


「なぁ、マイン、俺、マリアも抱きたいんだけど?」


本当に頭が可笑しかったんだと思う...


目に入れても痛くない程可愛かった妹マリア...


大事な最愛の弟のようなセレナの想い人。


それを私はソランに差し出した。


何故そこまでソランの言いなりになっていたか解らない。


夜中に話があるとマリアを自分の部屋に呼び出した。


部屋に来たマリアを私はソランと押さえつけた。


「いやいやーーーーっ姉さまやめてーーーっ」


マリアは涙ぐんでいた。


「不味い、舌を噛みそうだ」


私は毛布をマリアに噛ませた。


「ふうんぐっーーーいやーーっセレナ、セレナーー助けて」


「うるせい、もしお前が俺に抱かれないなら、そのセレナを殺すし、俺は魔族と戦うのを辞めて国から出て行くぞ」


マリアも王族だ...魔族の討伐を引き合いに出されたら拒めない。


ましてセレナまで大変な事になるとなれば諦めるしかなかったのだろう。


まるで人形の様に反応しないで抱かれていた。


「好きなだけ...だき..なさい」


そう言いながら泣いていた...


「何だ、人形のようでつまんねー」


そう言いながらソランは抱いていたが...


直ぐにマリアは自分から腰を振り、「んぐっ」唇を貪っていた。



多分、これが勇者のみが持つ「魅了」の力なのだろう...


殆ど洗脳に近い。



勇者ソランが死んで、私は正常になったのだろう。


とんでもない罪の意識が流れ込んできた。



「うああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっハァハァ、嫌いやいやーーーーーーっ」



頭の中に過去の記憶が走馬灯の様に流れ込んできた。


セレナの前で抱かれている自分の姿。


泣いていた妹を押さえつけソランに抱かせた私。


そして最悪なのは、マリアを巻き込んでソランと三人で如何わしい行為をセレナに見せつけていた私。



ガチャン...グラスを割って手にガラスが刺さった。


だがお構い無しに私は握り続ける。


そうしないと私は正気を失ってしまうかも知れない。



私は自分の息子に毒を盛るようにメイドに命じた。


ソランの間に産まれた子等要らない。


顔を見た途端、憎悪以外の感情は浮かばなった。


次期女王候補には、こういう事を簡単に行う闇メイドがいるから簡単だ。



私はセレナに何を返せば償いになるのだろうか?


美姫と呼ばれた私も今や37歳美貌も曇ってきている。


しかも子供まで産んだこの体...


幾度となく汚された体は捨てられる物なら捨ててしまいたい位で価値が無い。


いっそ死んでしまおうか?


そう思うが...償いもしないで死ぬわけにはいかない。


そう、私がセレナに与えられるのは...この国を与える事、そんな事しか思い浮かばない。



何も食べたくない...この体が汚く思えて、何か食べても吐いてしまう。


そんななか【勇者神託の儀】を行う事になった。


勇者なんて...クズ。


私は信仰すらもう薄れている。


ソランを勇者に選んだ神も...クズ。


どうでも良いわ...そんな物。


だが、ソランが死んだ以上、行わなければならない。


誰が選ばれても構わない...なんなら死んでしまってももう良いわ。


私も勇者もね...


世界なんてどうでも良い。



司祭が神の像に跪き祈りを捧げる。


王の後ろに私は跪いた。


司祭が、祈りを捧げていると、光の球が神像の前に降りて来た。


光の球がはじけて、セレナという文字が空中に浮かんだ。


それと同時に澄んだ声が聞こえてきた。


【新たな勇者は セレナ である!】



「セレナくん..ハァハァ、どんな顔して私は、私は会えっていうのよーーーああああああーーーーっ、聖女として肩を並べろっていうのあああああああああっーーーー!ああああーーーっハァハァ」


私は彼を沢山傷つけてしまった。


そして彼の最愛の恋人のマリアを奪うのに力を貸した。


「ハァハァ」


苦しい...そんな私が...どうして彼の横で杖を振るえるというの...


「ハァハァハァ 苦しい」



私は苦しさから意識を手放した。



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