第7話 せめて騎士らしく
騎士隊の隊長リチャードは顔は青ざめた状態で立っていた。
本来なら、王や国の重鎮がいる部屋に入る為には帯剣は許されない。
だが、王や重鎮の前に帯剣で入る事を、王宮騎士団団長が許した。
「王の部屋に帯剣で入るなど、決して許されぬ」
「俺が許した、もしリチャードに咎があるなら、俺が受けるから許してやってくれないか?」
全ての騎士の統括を任されている、王宮騎士団団長のジェイクがそう言い切った。
しかもどう見ても、リチャードは片手を無くした状態で、簡単な治療だけを施したのだろう、傷口からは血が流れている。
その様子はどう見ても目に光を宿していない。
光も無く、何処までも暗い目をしていた。
「それで、セレナ殿は連れてこれたのか?」
誰もが失敗した事は解っていた。
此処にセレナがいない。
その事が任務の失敗を物語っている。
国王であるアレフ六世は話を経緯を聞いた。
「下がって良いぞ、腕の治療は王宮の治療師に頼むが良い、おって褒美をとらせよう」
だが、リチャードは下がらない、リチャードが目くばせすると樽を二つ、他の騎士が持ってきた。
その二人の騎士は暗い顔をしている。
その目には涙を流した後があった。
「もし、お許し頂けるなら、褒美を二つ頂きたく思います」
時は少し遡る。
リチャードは国に戻ると家族の元に帰った。
任務中の騎士が私用で家に帰る等許されない。
ましては今回は一時を争う様な事態だ...だが騎士達は誰も咎めない。
「貴方、その腕はどうされたのですか?」
「ああっ、任務中にちょっとな...」
「それで、いったい貴方どうしたの、何かあったんじゃないの?」
「ああっ」
リチャードの顔は青かった、腕を斬り落とし貧血になっているだけじゃない。
今迄の経緯を妻と子に話した。
「まったく、騎士の妻になんてなる物じゃありませんね、私も騎士の妻覚悟は出来ていますわ」
「僕もお父さんの子供に生まれた時から覚悟は出来ています、世界を救うために僕の首が必要ならどうぞ」
二人は真っすぐにリチャードの目を見て答えた。
リチャードは泣きながら家族の首を跳ねた。
少しでも苦痛が無い様にまさに神速のスピードで剣を振るった。
リチャードが剣を納めた時には二つの首が床に落ちた。
「許してくれとは言わない、もし死後の世界があるなら、死んだ後も償いの道を歩もう」
そう言うと部下に首を樽に詰めさせた。
「何と無礼な」
「良い、言ってみよ」
その声を聴くとリチャードは言った。
「この樽二つをお持ち頂ければ、セレナ殿を此処まで連れて来れる筈です、全てが終わった後にこの樽に入った家族と一緒に私も弔って下さい」
「おい、何をいっておるのだ...」
王が声を掛けた瞬間リチャードは剣を抜いた。
「王の御前で剣を抜いた事をお許し下さい」
そう言うと、リチャードは首に剣を宛がい力強く一気に引いた。
「ジェイク様、後は頼みました」
「ああっ」
首から一気に血が噴き出しそのままリチャードは冷たくなっていった。
その目は憎しみは何も見えず、見ようによっては笑顔に見えた。
「リチャード...済まない」
王はその服が血で汚れる事も厭わずにリチャードの遺体を抱きしめた。
「すまない、本当にすまぬ...そして最大の感謝をする」
そう言うとジェイクに声を掛けた。
「騎士が、その命を賭けて、セレナ殿を招いたのだ、必ずやこの場所にセレナ殿を連れてくるのだ」
「王よジェイク、この命に代えても連れて参ります」
「ああっ、この英雄の首も持参して必ずや頼む」
「はっ」
リチャードは死ぬ必要は無かった。
セレナが欲したのは【家族の命】だけなのだから...
リチャードは家族を愛していた。
だが、騎士として生きて来た彼には【世界の平和】と【家族】を天秤に掛け、家族を選ぶ事が出来なかった。
命より大切な家族...
それでも騎士として生きてきた彼には【家族】を選べなかった。
リチャードの行為はやがて物語になり、三人の首と体は役目を果たした後、騎士でありながら英雄墓地へと弔われた。
そしてやがて物語として語られるようになった。
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