第6話 報奨会議

王国の重鎮を直ぐに招集した。


その中にはセレナの実家である、スマトリア家の当主、スマトリア伯爵も居た。


スマトリア伯爵は顔は老いてまるで老人の様に思える程憔悴していた。


国王は騎士を使い、セレナの場所を特定し使いを出していた。



重鎮を集めたのは、勇者セレナの待遇をどうするか決めなくてはならない。


恐らく、騎士が戻るまでそれ程の期日は無い。


召へいしました、待遇はまだ決まらないでは済まされない。


本来なら、僅かな金子(きんす)を渡して、手柄次第では爵位、姫との婚約、その辺りの条件で良い。


そこからは《手柄次第ではどんな願いも叶える》それで良いのだ。


だが、セレナの場合は【追放されるまで伯爵家】【商才にもたけ財産も既に持っていた】【王族であるマリアと婚姻が決まっていた】


しかも、マリアと結婚した後は新たな家を興し、そこの初代当主になる予定もあった。


その時には王族の婚姻相手だからと伯爵位の授与とユリにゆかりのある紋章を授ける事すら決まっていた。


つまり、取り上げなければ、元から全て手にしていたのだ。



「持っていた物を全て返すべきだ」


「待ちたまえ! セレナ殿は不当な扱いで全て失ったのだ、それらは元から彼が持っていた物だ、他にそれに追する恩賞を渡すべきだ」



「具体的に何を渡せば良いのというのだ?」


「元が伯爵なのだから、最低で侯爵、可能なら公爵の爵位は必要では無いのかね?」


「待て、待て幾ら何でも公爵は無いだろう、実質王族につぐ地位だ」


「だが、平民であっても勇者になれば爵位が貰えるのだ、元から伯爵なら2つ位があがっただけだ、平民のソランが勇者になり活躍したからと伯爵になったのだ当たり前の事では無いか?」



「待て、ソランの時は皆が可笑しかった、参考には出来ない」



結局、位についてはいったん保留となった。


続いてお金について話し合うもこれも難航していた。



「金貨1万枚(日本円で10億円くらい)、そんなふざけた事を言うな」


「ですが、セレナ殿は商会を持っていた、払っていた税金からして、既に年間金貨3千枚(約3億)の収入があった、そう考えるならあのまま王国に居れば、金貨4万枚以上稼いでいた可能性が高い、少ない位だ」



これについても決まらない。



この時点での方針では【爵位は侯爵以上】【金貨は1万枚以上】それは最低限必要と言う事だ。



だが、一番の問題は婚姻相手だ。



「それこそ、相思相愛だったマリア様を返してやれば良いのでは無いか?」


「コホン、無礼を承知で言わせれ貰う、元王族とはいえ子持ちの中年女では報奨ではなく【押し付けた】そう取られますぞ」


「ならば、他にもセレナ殿が好いていた、マイン様に、本来は決して結ばれる事が出来ない筈の妹ぎみアイナ殿をお付けすればどうかね?」


「貴殿の案が良いのは解る、聖女で元王族のマイン様、元王族で相思相愛だったマリア様...それに目に入れても可愛いとセレナ殿が愛していた妹ぎみのアイナ、更に、親友だった賢者のリオナ殿まで考えれば一見問題無い、だが無礼を承知で言うが、彼女達は全員30過ぎの子持ち女だ! しかも手を付けたのは、ソランなんだぞ、私が同じ立場なら【おさがり】を貰った気になるが他の方はどう思う?」


「ならば、どうだソランが婚姻していた者全部をそのまま渡すと言うのは?」


「それこそ、ギルダー卿がいう様なおさがりではないか?」


幾ら話し合っても話が進まない。


傍で護衛している騎士が手をあげた。


「何だね君は」


「私は一介の騎士です...ですから発言権は無いですが、意見が述べたいのです」



「本来は許されぬが、今回の話は先が見えぬ、意見があるなら聞こう」


国王が認めた。



「では、失礼ながら王族や貴族の婚姻は一般的に未通女、処女が前提の筈です、それ以外の場合は綺麗な女性で若くても【持参金つき】になるのが当たり前だと思います、皆さまそこをお忘れでは無いでしょうか?」



「ああっその通りだ、意見感謝する」


「いえ」



「ならば、マリア様達の事は一旦保留にして、不敬を承知で言わせて貰えば、セレナ殿が欲しいと言われるなら側室にでもすれば良い、別に若くて綺麗な正室になる女性を考えれば良い」



「おいっ」


「ああ、不味いな!」



王を含む貴族の全員が気がついてしまった。


この国の美形の女性の多くはソランのお手付きばかりだ。


お手付きでない、貴族の女性は幼い者も含み、ソランの子が多い。


特に、11歳~14歳までの器量の良い子の多くはソランの子が多い。


幾ら考えても美しいと言われる少女の多くはソランの関係した物が多く、更にあの鬼畜なソランは実の子にすら手を出していた。



そうこの国にはセレナに差し出せる様な美女や美少女は居ない事になる。


「最悪、儂が頭をさげて帝国か聖教国から養女を貰うしかない」


「国王様、御恐れながら、その辺りでもソランの血脈を考えねばなりません」


「そこ迄手を出していたのか?」


「流石に少ないですが、ゼロではありません」


「そうか...」



話が長引くなかロックワーク伯爵が言い出した。


「あのよ、恐ろしい事だし、不敬だが今考えてしまったんだ...そもそも、ソラン関係者を生かしておいて良いのか? 当人にその気は無くても、ソランの身内だ、ソランがやった事は国の乗っ取りとも考えられる」



「流石に今回の事で罰するのは酷じゃないかね」



「いや、それもあるが...重要なのはセレナ殿の気持ちだ、ソランを憎んでいない訳が無い、そしてこの国に来て目にするのは、ソランの女と化していた女達とその子供達なんだぜ、救おうなんて気無くなるんじゃないか? ならば、今ならソランの関係者として処罰する事ができる、死刑とは言わないが国外追放するべきなので無いか?」



最悪の考えだが...無いとは誰も言えなかった。



「息子を勇者等にしないで、我々だけで魔族と戦う、そういう考えは無理でしょうか?」


「スマトリア伯爵、それはどういう事だね」


「息子はこの国を去る際に顔に十字の斬り込みを入れ、誰も信じない、誰も愛さない、そう言っていました、それをマリア様に宣言し家族にも宣言して出て行きました...正常な今なら解る、全てに息子は裏切られ【人の社会と決別】したのです、噂では何処の国にも行かずに洞窟でまるで魔物の様な生活をしていると、様子見を頼んだ冒険者が言っていました」



「その様な事が...」


「はい、かって命より大切と言っていたアイナにすら敵意を向けていましたから、ソランへの憎しみは計り知れません」


「だが、我が国は勇者が必要なのだ」



「ですが、憎んでいる国を助ける...そんな事を誰が出来るのでしょうか」



会議は数日に渡るが結論は出なかった。



そんな折、使いに出した騎士が帰ってきた。


片手を無くし瀕死の状態で...


話は更に最悪の事態へと進む。


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