第5話 勇者選択の儀
勇者ソランが死んだ事で王であるアレフ六世は我に戻っていた。
そして、自分が如何に愚かな事をしていたのか気がついた。
沢山の貴族から、婚約者を寝取られたという陳情も受けていた。
話を聞くと殆どの者は【婚約者より勇者の方をとった】その為無視するしかなかった。
だが、その数は50名を下らない。
どう考えても可笑しい、嫌可笑しすぎる。
普通に考えて何か可笑しい事をしている、その位は考える筈じゃ。
だが、その時の儂は「当人が勇者ソランを愛している以上仕方ないじゃないか?」と言い取り合わなかった。
何だかの影響を受けている...そう考えない理由が普通に考えて無い。
そう考えたら、儂もきっと魅了の様な事をされていたのかも知れぬ。
ソランが死んで正常になった女性からは悲痛な声が聞こえてきた。
その数は今の段階で28名、子供がいたり平民で泣き寝入りしている者もいるかも知れない、それを除いてもこれからどれだけ数が増えるか解らない。
28名の女性は復讐したいと言ったが、もうソランは死んでおる。
だから、せめてもの想いを汲んで、ソランは英雄墓地には入れず、勇者の碑に名前も刻まず、そのまま遺体を城門前に野ざらしにした。
歴史書からも名前を消し、功績も全て無かった事にする。
そんな事しか出来なかった。
こんな事では話は終わらない。
ソランの我儘に付き合いきれない貴族は、貴族籍を返上して国を去った者もいる。
それも1人や2人じゃない。
国力もその為かなり低下していた。
そりゃ当たり前の事だ、自分の息子の婚約者を寝取られ面子を潰されたら、そうもなる。
今朝がた、マリアの話を聞いたが、今は謹慎だけに留めた。
無罪放免とはいかぬが心情を考えたら出来るだけ軽い物にするしかないだろう。
これから先は恐らく、正常に戻った者がどういう行動にでるのか解らぬ。
だが、それより先にしないとならない事がある。
【神託で勇者を決める事】だ。
この国は世界が認めた勇者輩出国、ソランが亡くなった今、新しい勇者を神託によって決めなければならぬ。
そして、勇者が決まったら、その後は隣の聖教国に送り【聖剣の儀】を受けさせなければならない。
この国の司祭と枢機卿に頼み、神託の儀式を至急行う必要があった。
問題を先送りにして、【勇者神託の儀】を行う事にした。
本来なら沢山の貴族が並ぶのだが、今はまばらだが仕方が無い。
我が娘、マインは今現在、精神が可笑しくなっているが出て貰うしかない。
マリアと違い、マインは聖女でもあるのだ。
もう一人の三職(勇者 聖女 賢者)の賢者はやんわりと辞退してきた。
四職(勇者 聖女 賢者 剣聖)の剣聖は行方不明になっている。
まぁ、最悪、聖女と司祭さえいれば、神託の儀は行える。
本当に寂しい状態だが、今は仕方ない。
今の状態じゃ勇者を招いた後のパレードすら危ういかも知れぬ。
そんな状態でも、行わないという選択はとれなかった。
「司祭、祈りを捧げてくれ」
「はい国王アレフ六世様、これより私は神の声を伝えます、故にこれには国王とて文句は言わせません」
「うむ、解っておる」
司祭が神の像に跪き祈りを捧げる。
その後ろに王に聖女であるマインが同じ様に跪きその後ろに同じ様に参列した者が跪いた。
祈りを捧げていると、光の球が神像の前に降りて来た。
光の球がはじけて、セレナという文字が空中に浮かんだ。
それと同時に澄んだ声が聞こえてきた。
これが、神の声なのだと誰もが解った。
【新たな勇者は セレナ である!】
その声が聞こえると王は動揺を隠せず声をあげてしまった。
「セセセ...セレナだとおーーーっどうすれば良いのじゃーああああっあーーーっ」
だが、それ以上にマインが取り乱していた。
「セレナくん..ハァハァ、どんな顔して私は、私は会えっていうのよーーーああああああーーーーっ、聖女として肩を並べろっていうのあああああああああっーーーー!ああああーーーっハァハァ」
「マイン様が倒れた、誰か、誰か、ああっ王も倒れた、だれか運ぶのを手伝って下され」
こうして、波乱の勇者神託の儀は終わった。
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