第3話 狂乱のマリア
勇者ソランが死ぬ事により、周りの人間への洗脳に近い魅了が解けた。
知らないうちに勇者の魅了にこの世界の人間はかかっていた。
それが勇者が死ぬ事で正常に戻っていった。
そして今、勇者の妻になった元王女マリアは狂った様に泣き喚き散らしている。
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーっハァハァ」
片っ端から物を投げつけ壊し、綺麗だった頃の部屋の面影はない。
手を見ると骨が剥き出しになっていた。
自分の手が壊れるのも気にしないで物を殴りつけていたのが良く解る。
だが、マリアはそんな事も気にしないで物を投げ、叩き泣いていた。
最初は侍女も諫めようとしていたが...
「今は私の傍にいないで...子供もこの部屋に絶対に入れないで頂戴」
ただならぬ形相のマリアに侍女はただ首を縦に振る事しか出来なかった。
なんで、なんでこんな事を神は許すのよ...
マリアは心からセレナを愛していた。
セレナがマリアを好きになる前からセレナを好きになり、慕い、王である父にお願いして婚約者にまでなったのだ、どれ程好きだったかが解るだろう。
それなのに...そんな気持ちが何者か、いや解っている。
勇者ソラン、勇者なんてつける必要は無いわ。
ソランにより書き換えられてしまった。
ソランの魅了を掛けられてからの自分は今考えると、醜悪な者にしか思えなかった。
大好きなセレナを罵り侮蔑し...
時には、そんなセレナに見せつける様に大嫌いなソランといちゃついて見せた。
それどころか、娼婦のように、セレナが見ているのが解っていながら、ソランに跨り腰まで振っていた事すらある。
恍惚の顔を浮かべる気持ち悪く笑う女。
私はそんな女じゃない、そんな淫らな女じゃないのよ...
幾ら否定しても思い浮かぶのは娼婦の様にニヤ付きながらソランに枝垂れかかる姿の自分。
どんなに考えてもセレナと過ごしたような清楚で優しい自分の姿は浮かび上がらない。
15年間の記憶にある、自分の姿は一番自分が軽蔑する様な淫乱で淫らな女だった。
どれだけ、あの優しいセレナを傷つけたのか解らない。
今でも愛おしいセレナ...あんな悪魔の様な男に出会わなければ、きっと今も此処で優しい笑顔を見ながら私は紅茶を飲んでいた筈だわ。
大切な初めても騙され奪われて、この齢まで何度あの男に体を差し出したか考えたらこの体さえ焼き捨ててしまいたい位のおぞまじさを感じる。
あまつさえ、あの男が私に飽きて他の女を抱いた時には泣いて縋った。
魅了が解けた今...本当に惨めでみっもなく、薄汚れて思える。
「何でもするから捨てないで」そう言う私に、女として汚らわしい事を沢山させられた。
最早、私があの男にしてないような淫乱な事は無い、そう思える程の汚らわしい記憶沢山がある。
そして、そこ迄汚らわしい事をした私を見下してあの男は笑っていた。
子供二人と共にいる私の前で他の女を抱き、そして行為にすら及んだ事すらある。
あの男...ソラン、殺してやりたい、地獄を味わせて、命乞いを無視して残酷に処刑してやりたい。
だが、ソランはもう死んでしまった...
私や仲間が出来た唯一の復讐は王に頼み、その遺体を野ざらしにする事だった。
それ以上は何も出来ない。
今でも、セレナの最後の言葉が突き刺さる。
「もう、僕は誰も女を愛さないし、人は信じない」 そう言い、自分の顔にナイフを突き立てると十字に引き裂いた。
今の私なら、そんな事させない、正気の私なら例え指が落ち血塗れになろうとナイフを取り上げるよ。
だが、あの時の私は...
「それがどうしたの、私には関係ないわ、そんな事で私とソラン様の逢瀬を邪魔しないで」
そう言って服を脱ぎ捨てていた。
あの美しいセレナの顔がこれでもかと悲しい顔をして傷迄つけているのに...私は残酷にも笑っていた。
あの傷は深い、きっともう一生消えない...そしてあの優しい笑顔はもう見る事は出来ない。
あそこ迄の事をしたんだ、きっと一生セレナは私を愛して等くれない。
それに、こんな汚らわしい体ではセレナに会えない。
15年も嫌いな男に弄ばれて、好き放題された体。
私の初めては最早なにも残っていない。
あまつさえ、2人もあの汚らわしい男の子供を産んだこの体でどうやってセレナに会いに行けば良いと言うの。
「会いたいよ...セレナ...だけど...会う資格もないよね」
そう言うとマリアは自分の顔の斜めにナイフを押し付け引いた。
《あと半分は、もしセレナに会う事があったら引こう》
「セレナ...もし許してくれるなら、ううん、赦してくれなくても、私はなんでもするからね」
顔に大きな怪我を負ったマリアは、泣きながら治療もせず、部屋を壊しまくっていた。
誰が見ても狂っている。
そうとしか思えない位に....
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