第22話 冒険者になる

 朝日とともに目覚めた。


 普段から眠りは浅い上に、布団も固かったので、寝覚めはひどいものだった。

 風呂で水浴びをして、気分を切り替える。


 よし、今日は仕事を探すんだ。





 街に出て、散歩しながら店が開くのを待つ。


 それにしても、きれいな街並みだ。

 昼間の活気がある賑わいもいいが、早朝の閑散とした姿もまた趣がある。

 割と早くパン屋が開いたので、焼きたてのパンを買った。

 そいつをくわえて道を歩きながら考える。


 仕事といっても、どうしたらいいものか。

 俺にできることといえば、魔術と肉体労働くらいだ。

 魔術は初級魔術のみ。

 しかし、威力は上げようと思えば上げられるし、際限なく使うことができる。

 アピールポイントがあるとすれば、そこだ。


 まぁ、せっかく魔術協会にも所属したのだ。

 仕事をさがすなら、やはり協会の掲示板が一番手っ取り早いだろう。


 とりあえず、魔術協会の建物を目指すことにした。




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 協会の掲示板には、様々な依頼が載っていた。

 魔術の家庭教師、旅の同伴、護衛、魔術を利用した行事への参加などだ。


 しかし、そのほとんどがD級以上の魔術師に向けたものだった。

 E級に可能なのは、研究材料のお使いや実験助手など。

 魔術が使えなくてもできるようなものばかりだ。

 どれも時間がかかる割に小遣い程度の稼ぎにしかならず、これだけで生活するのは厳しい。


 D級に上がる方法を受付嬢に尋ねたところ、初級魔術が使えればすぐに上がれるらしいが、また銀貨5枚が必要とのことだ。

 もう俺の財布には銀貨5枚も入ってない。

 少し腹が立って尋ねる。


「初級魔術が使える、E級の魔術師じゃダメなんですか?」

「当会への依頼ですので、派遣する当会には責任が生じます。

 それゆえ、当会の審査基準をもって、依頼ごとに可能な会員を選別させていただいております」


 その審査基準に払った金が関係するというのは、おかしな話だ。

 いい依頼を受けたければ協会に金を払えと言っているようにも思える。

 毎月会費も取られるし。

 こんなの、E級の会員なんて暮らしていけないじゃないか。


 そう考えて、ふと思った。

 ……あれ。もしかして、魔術協会って仕事のために入るものじゃないのだろうか。

 話を聞いてると、商売よりも学術機関としての側面の方が強い気がする。

 協会員になって、ばりばり魔術で稼ぐんだ! って感じじゃない。

 魔術を学ぶ貴族なんかが、箔付けのために入る組織なのかも。

 会員になるのは、履歴書に書けるからって感じなのか。 


 そう考えると腑に落ちた。

 だとすれば、これ一本で仕事にしようというのが間違ってる。

 報酬も協会にピンハネされるようだし。

 たいていの人はすでに別で仕事があって、副業で協会のバイトをする感じなのかもしれない。


 だがそうなると、仕事のアテがなくなってしまう。

 自分で探すしかないか。

 さいわい魔術は使えるし。

 人のいるところで売り込めば、誰か雇ってくれないだろうか。


 そう考えていた時、受付嬢が言った。


「もしも早急に仕事をお探しでしたら、同じ通りに冒険者ギルドがありますので、そちらをお訪ねになるとよいかもしれません」

「冒険者ギルド?」

「はい。冒険者ギルドは国との関係が密な組織ですので、運営には国庫から補助がでております。かなり低い値段で登録でき、仕事も見つけやすいかと」


 ほほう。

 本では読んだが、本当に魔物を狩って暮らす、冒険者という人たちがいるのか。

 ニーナの父親もそうだったと、話には聞いていたが。

 ちょっとわくわくするな。

 確かに冒険者パーティーと言えば、一人は魔術師がいていい気がする。


「なるほど。教えてくれてありがとうございます」

「いえ、会員の皆様のために情報をお伝えすることが私達の仕事ですから」

「わかりました。行ってみます」


 俺は魔術協会を後にし、冒険者ギルドを目指した。

 通りを歩いて20分ほど。

 すぐに見つけることができた。


 大きな建物だ。魔術協会の5倍はある。

 石造りの無骨な建物だが、端々に戦士の顔や魔物退治の様子などが刻まれている。


 中に入ると、かなり人がいた。

 正面に大きな掲示板があり、無数の紙が貼ってある。

 その手前にはテーブルで酒を飲んだり、食事をしたりしている人もいて、かなりにぎやかだ。

 食事や酒は左手奥のバーカウンターで注文するようだ。


 右手奥に受付が見えたので、人をよけながらそちらに移動する。


「すみません」

「はい、いかがされましたか?」

「この冒険者ギルドって、どんな組織なんですか?」

「冒険者ギルドは、主に魔物の狩猟によって得られる利益を統括している組織です。

 魔物による被害の予防や、魔物から取れる素材、食材の売買を目的としています」

「なるほど。こちらでは、登録料が割安だと聞いたのですが」

「はい、魔物の素材は国の経済を回すうえで重要なため、冒険者育成のために国から補助があり、その分割安となっております」

「おいくらですか?」

「大銅貨1枚です」


 安い! それならまだ払える。よし。


「あと、登録したばかりの人ができる仕事ってどんなものでしょうか?」

「冒険者ギルドでは、冒険者の方々をA~Eの5等級にランク付けさせていただいております。

 登録したばかりですと、ランクはEです。

 可能な仕事につきましては、あちらの掲示板に主なものが載っておりますのでご参照ください」


 と、掲示板へと誘導される。

 見ると、魔術協会と同様に様々な求人情報が貼り付けてあった。


 その中で、Eランク対象のものを探す。

 虫の巣の駆除、家の掃除、畑仕事の手伝い、隣町へのお使いなど。

 どれも報酬は小遣い稼ぎ程度だ。

 ……あれ?

 おかしいな。こっちの方が稼ぎがいいって聞いたけど。


 隅々まで見てみると、端の方に「常時依頼」と書かれた枠があった。

 そこには、スライム捕獲、薬草採取、ゴブリン討伐、などの依頼が貼ってある。

 こちらは歩合制のようで、報酬は1匹につきいくら、とか1本につきいくら、と書いていた。


 ……なるほど。

 どれくらい取れるのか分からないが、こちらの方が可能性はありそうだ。


 受付に戻って聞いてみる。


「あの、あっちのほうに常時依頼、と書かれた枠があったんですけど、どういうことでしょうか?」

「ご説明いたします。

 基本的に、ギルドは依頼主から依頼を受けて冒険者の方々へそれを発注する組織です。

 しかし、需要に対して供給がいくらあっても問題ないものもあり、そちらに関しましては、全ランク対象の常時依頼として、常に掲示しております。

 主として、付近の安全性向上のための魔物討伐や、消耗品の補充がこれにあたります。

 また、依頼になくとも、魔物の素材や肉をギルドに持ち込んでいただければ、基本的にどのようなものでも買い取りをさせていただきます。

 しかし商店等から依頼があり、素材や肉の獲得がクエストとして募集された場合のほうが、依頼がない時に同じものをギルドに持ち込んでいただく場合よりも、当然ながら値は高くなります」


 なるほど。

 つまり、常時依頼のクエストは、狩れば狩るだけお金になるということだ。

 俺にとっては、これまで見てきた求人の中で、金を稼ぐ一番いい方法のように思える。

 なにしろ魔力が無限だからな。

 俺に狩りが可能だとしたら、いくらでも狩れるぞ。


「わかりました。冒険者の登録をお願いします」

「了解いたしました。では、こちらの書類に―――」


 魔術協会と同じような手続きをして、バッジと証明書をもらう。

 それらは魔術協会のものより少し安づくりな感じだった。



 こうして、俺は冒険者になった。

 さっそく明日から、クエストを開始しよう。

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