第23話 初クエスト
冒険者登録をした後、狩場の地図を購入した。
それを見ると、魔物はエリアごとに棲み分けがあるようだ。
基本的に魔物は森を好むらしく、狩場は全て森だ。
危険な魔物がひしめいている地域もあれば、弱いやつばっかりの地域もある。
混在している地域ももちろんあり、概ね街や道に近いほど安全なようだ。
俺は、その中で最も初心者向けとされる、南の森の一区画に向かうことにした。
そこに主に生息しているのは、スライムとゴブリンだという。
スライムとは、体が液体でできている、何とも不思議な魔物である。
よく観察すると、液体の中に微小な器官があり、それによって生体維持しているとされる。
器官が破壊されると活動を停止し、死骸から油が獲れる。
その油は、ランプなどの照明に広く使われているらしい。
煤が出なくて長持ちする、良質な油なのだという。
対してゴブリンは、大人の腰くらいの大きさの魔物だ。
ヒトに似た形をしていて、簡単な道具も使う。
1対1なら丸腰でも負けることはないが、2~3匹で行動していることが多く、まれに旅行者がこいつに襲われて死ぬこともあるんだとか。
ゴブリンは倒しても特に得られるものはない。
しかし繁殖力が旺盛で、活動範囲が広い。
放っておくとすぐに増えて悪さをするため、常に駆除の依頼が貼ってあるという。
右耳をギルドにもっていけば、いつでもお金に替えてくれる。
ゴブリンのお値段、銅貨5枚である。
乗合馬車に乗り、まずは城門を目指す。
アバロンには東西南北に城門があり、来たときは東門から入った。
今度は南門から出る。
城門までは、乗合馬車で30分ほどだ。
大丈夫だとは思うが、やはり少しドキドキする。
多くの人は、パーティーを組んでクエストにあたるらしい。
しかし俺は1人だ。
一緒に冒険者をやってくれる心あたりなどいない。
ユリヤンの顔が頭をよぎったが、あんなのでも王族だ。
城に戻れば仕事は多いだろう。
それに、やつにとってこの国で過ごす最後の時間なのだ。
そっとしておくことにした。
「スライムにビビったか」とか言われても癪だしな。
馬車を降りて、城門をくぐる。
あとは徒歩だ。
いずこへと続く道を、ただ歩く。
すぐに森が見えてくるので、道から逸れて森へと入っていく。
森の浅いところには、同じ目的らしい、駆け出しっぽい冒険者が何人かウロウロしていた。
……さぁ、来るなら来い。
そう思って徘徊すること30分ほど。
ついに、記念すべき最初の討伐目標を発見した。
スライムだ。
薄い青色で、プルプルと振動している。
大きさは、ボウリングの玉くらい。後ろの景色が、やや透けて見える。
こちらに気づいていないのか、逃げたり襲って来たりする気配はない。
先手必勝。
「ストーンバレット!」
俺はそいつに狙いを定め、魔術を放った。
出力はかなり抑え目だ。
小さめの石弾が、目標へ向けてまっすぐに飛んでいく。
ぱぁん! と音を立ててスライムは弾けた。
避ける動作もない。
初の討伐だが、あっけないものだった。
近づいて、残骸を回収する。
液体というか、ゼリーの様な感じだ。
あんまり嫌悪感は沸かない。生物という感じがしないからか。
買っておいた袋に、草などをよけながらできるだけ入れる。
7割くらいは回収できた。
とりあえず、1匹ゲット。
どんどんいこう。
しばらく歩くと、またスライムを見つけた。
同じように、魔術で倒す。
袋が少し重くなる。
また、歩き始める。
しかしこうして森を歩くと、一角ウサギを狩ったときのことを思い出す。
あの森は魔物などいなかった。
魔族の住む西の大陸に近づくほど、魔物の数が増えるらしい。
それなら東の方が安全で住みやすそうなものだが、実際はアバロンを含め大陸の中央付近に多く人が住んでいる。
その理由は、魔物から獲れる素材や肉の価値が、非常に高いからだ。
危険を補って余りあるほどに。
周辺に魔物が多い都市の方がむしろ、発展が早く、人も集まるという。
サンドラ村は、魔族の大陸から最も距離が離れた村の1つだった。
だからあの辺には全然魔物がいなかったのか。
東に少し進めば、この世界では大陸の端に行かないと見れない、海が見えたらしいが。
興味がないので行ってない。
海なら見たことがあるしな。以前の世界で。
ちなみにこのアバロンから海に行こうとしたら、最低でも1か月はかかる。
それにしても、ニーナやシータは元気にしてるだろうか。
まだひと月しか経っていないが、懐かしく感じる。
今度手紙をだそう。
ローブと杖を見ると、あのふたりの顔が浮かんでくる。
何事もなく過ごしているといいが。
歩いていると、遠くからゲキョゲキョと奇妙な声が聞こえてきた。
ガチョウがハードロックを歌ったら、こんな感じかもしれない。
辺りを見渡すと、左前方にゴブリンがいた。
4匹の群れだ。
聞いた通りの姿。
1匹は木の棒を持っている。
何事かを話している様子だ。
見敵必殺。
「エアスラッシュ!」
風の刃を放つ。
2匹の首を切りとばした。
残りのやつらがこちらに気付き、向かって来る。
「エアスラッシュ!
エアスラッシュ!」
残りは1匹につき1発で、戦闘は終了した。
離れたところで発見できれば、近づかれる危険はほぼなさそうだ。
落ちているゴブリンの頭から、右耳をナイフで切り取る。
嫌な感触だが、ウサギを捌くのに比べたらマシだ。
しかし、ナイフで切るのは抵抗あるのに、魔術で切るのは無感情にできてしまうな。
自分の手に感触がないからだ。
ボタン1つで相手を殺せるような感覚。
自分が命を奪っているのだということだけは、忘れないようにしよう。
早くも耳が4つ。
スライムとは別の袋に入れる。
腹が減ったので、食事を取ることにした。
水魔術で手を洗い、リュックからパンを入れた袋を取り出す。
さらに小さな鍋を取り出し、水魔術で水を入れ、火魔術でそれを沸かす。
沸いたお湯を、カップの上のバッグに注げば、ドリップカシーのできあがり。
立ち上るいい香り。
ついでにパンを火魔術で軽く焼けば、昼食の完成だ。
腰掛けに良さそうな岩を探し、カシーを啜りながらパンをいただく。
いい天気だ。
これまでの経過で、特に危険は感じなかった。
魔術があれば、ゴブリンとスライムを倒すのは余裕がある。
少し寂しいが、1人も気楽で悪くないかもしれない。
誰かと一緒だと、報酬も半分だしな。
食べ終わって、また森の中をうろつく。
そういえば、森には魔物以外の生き物もたくさんいる。
ここに来てからも、鹿やリスなんかを見かけた。
魔物は動物を襲わないのだろうか。
魔物と動物だと、戦ったら魔物に軍配があがりそうだが。
襲われたら絶滅してしまいそうな動物達が、現在でも森にたくさん生息している。
ということは、魔物は動物とは争わず、共存しているのかもしれない。
本当に魔物というのは、ヒトにしか興味がないらしい。
昔読んだ本によれば、ヒトが死んだら魔力になり、それを魔物が食ってるかららしいが。
まぁ、どうでもいいか。
とにかくこちらを見ると襲ってくるやつらだ。
襲われても文句はあるまい。
その後、新たにスライムを3匹捕獲し、ゴブリンを6匹討伐した。
日が落ちてきたので、そこまでで引き上げることにする。
さて、今日の稼ぎはいくらだろうか。
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