第17話 決心


 翌朝。

 目覚めると、シータとニーナは既に準備を終えていた。

 時計を見ると、予定の時刻をかなり過ぎている。

 どうやら寝坊してしまったようだ。


「おはようハジメ」


 ニーナがニヤニヤしながら言ってきた。


「おはよう、ニーナ」

「今日はずいぶんとゆっくりお目覚めね」

「いつものニーナほどじゃないだろ」

「あら、そんなことを言うの?」


 頬っぺたをつねってきた。


「いてて、悪かったよ。着替えるからちょっと待っててくれ」


 起こしてくれてもいいだろうに、とも思ったが。

 多分俺を気遣って起こさないでいてくれたんだろう。

 顔を洗って、着替えてから朝食に向かう。




 朝食はバイキング形式だった。

 長テーブルに、料理が所狭しと並んでいる。

 ニーナが山盛りの皿を抱えて、その周りをウロウロしていた。

 アレにまだ足すつもりなのか……。


 結局ニーナはその皿を平らげた上におかわりし、さらにデザートを食べた。

 それだけ食えばさすがに満腹のようで、「もう食べられないー」と天を仰いでいる。

 しかし、食う割にニーナはスレンダーな体系だ。

 いったいあの食べ物はどこに消えているのだろうか。

 残念ながら、胸でないことだけは確かだが。


 食べ終わって少し雑談した後。

 荷造りをして、宿を出た。


 馬車の店に荷物を預けたら、出発時刻まで少し時間が空いた。

 するとシータが、少しひとりで買い物をしたいと言いだした。

 それもあって、とりあえず出発までは、各自で好きに過ごすことにした。


 俺は思うところがあり、いくつか買い物をして過ごした。


 馬車の店に戻ったら、2人はすでに待っていた。

 2人も買い物をしていたようだ。

 紙袋を抱えている。

 シータの袋はけっこう大きい。

 荷物を馬車に置き、皆で乗り込む。


 それからは来た道と同じく。

 馬車に揺られ。

 獣道を歩き。

 家へと帰った。


 楽しかった。

 本当に、楽しい旅行だった。


 ……おかげで、踏ん切りがついた。



―――――



 帰ってから、シータが街で買った食材で夕食を作ってくれた。

 相変わらず、シータの料理は美味しい。


 それを食べると、ニーナは早々に寝てしまった。

 この2日間、めちゃくちゃ早起きだったからな。

 疲れが溜まってたんだろう。


 俺も眠い。

 昨日の酒がまだ残ってるのだろうか。

 もう、今日は寝てしまうとしようか。


「ハジメ、ちょっといい?」


 迷っていたら。

 シータに声をかけられた。


 声の方に行くと、シータはダイニングの椅子にかけていた。

 もう馴染んだ光景だ。

 しかし何故か今日は少し、違って見えた。

 そして俺と目が合うなり、シータは言った。


「ハジメ、あなた。

 村を出ようか悩んでいるんでしょう?」


 ドキリとした。

 図星を突かれたからだ。


「……いつから、気づいてた?」

「あなたが魔術を覚えた頃からかしら。

 話しかけても上の空だったり、遠くを見たりしてることが多くなったわ」


 そんな中二病みたいなことしてただろうか。

 恥ずかしい。


「……もし私達のことで悩んでるなら、気にしなくていいのよ。

 あなたを家に迎えたときから、その覚悟はずっと持ってたもの。

 そりゃ、あなたがずっといてくれるなら、その方が嬉しい。

 でもね、それは、あなたを縛り付けたいってことじゃないの」

「……理由とか、聞かなくていいの?」


 そう尋ねると、シータは首を振った。


「いいわ。なんとなく、分かるもの。

 私から、あなたに言いたいことは1つだけ。

 私とニーナはね、あなたの家族よ。

 これからどんなことがあっても、変わらない。

 それだけは、覚えておいて」

「……わかった。ありがとう。シータ」

「こちらこそ、ありがとうね。ハジメ」


 シータは近づいてきて、俺を抱きしめた。

 俺はしばらくの間、シータのぬくもりに身を預けた。




 ……その日、俺は。

 旅立つことを決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る