寝取られる位なら

石のやっさん

第1話 

僕の名前はセイル..普通の村の農夫の息子に産まれた。


僕には、可愛いい幼馴染がいる。


彼女の名前はユリア、凄く可愛い僕には勿体ない女の子..


小さい頃から一緒にいて、僕たちはまだ子供なのに将来は結婚するのかな..そう思っていた。


少し前まではそうだった...


今の僕は...彼女を虐めている。


虐めていると言ってもそんなに酷い事はしていない..


ただ、無視をしたり、スカートめくりをしているだけだ。


何故、そんな事をしているのか?


それは彼女に嫌われたいからだ...


「セイル..何でそんな事するの?..本当に見たいなら見せてあげるのに?」


ユリアは顔を赤くして震えながらスカートを上げようとしていた。


「煩いな..お前の嫌がる顔が見たいだけなんだ..」


「そんな、何で...私セイルに何かしたの? 元の優しいセイルに戻ってよ!」


ごめん..今のユリアは悪い事は何もしてない...だけど将来するんだよ


「俺はこんな奴なんだよ!」


心が痛いな..だけど、ユリアに好かれる訳には行かないんだ


「そんな事無いよ..セイルは優しい人だもん」


「煩いな」


僕はユリアを突き飛ばすとそのまま走り出した。


......................


...........


10歳の誕生日に僕は昔の記憶を取り戻した。


昔の僕はいわゆるオタクだった。


そして、その時に気が付いてしまったんだ..此処が小説の中の世界だという事を。


そして、ユリアはヒロインで将来、聖女になる。


僕は、ただの村人で、勇者にユリアを寝取られる役回りだ。


物語通りに話が進めば、僕とユリアは婚約をする。


だが、その後にこの村から聖女が誕生するという女神の神託が降りる。


そして、その後、迎えに来た勇者一行と旅立つ。


「ずうっと愛しているから」


そう約束したのに..待っていたのに..裏切られて勇者とユリアは結婚する。


しかも、勇者との間には子供もいて、更に勇者に嫌われる事を危惧した僕は村を追い出される。


そんな話だ。


その記憶を取り戻した時は涙が止まらなかった。


僕は前世の記憶を取り戻してもユリアが好きだった。


近くにいれば居るほど手が届かないもどかしさに包まれた。


勇者さえ死ねば..そう考えた事もあるが..そんな事をしたら世界が終わってしまう。


いっそ、ユリアを殺して死のうか..そう考えたけど出来なかった。


ユリアの笑顔を見たら出来なかった。


だから、諦めるしかない..ようやくそう思えるようになった。


なのに、ユリアは僕の傍にいる。


ユリアが僕も好きで好きで仕方ない...だけど、絶対に結ばれることは無い。


しかも、勇者が魔王を倒して帰ってきた時にはもうユリアも僕も24歳だった。


この世界は、前の世界と違い、24歳と言えば子供の2人もいるのが当たり前だ。


それから、結婚相手を探すのは至難の業で、しかも農夫なのに家が継げず、土地も無い僕は寂しい老後を過ごし..最後はスラムで死んだ。


ハーレムで暮らしている勇者とは大違いだ。


それなのに、ユリアは僕の傍に居る..ユリアが僕の傍に居るから、他の女の子が僕とは付き合わない。


どんなに虐めても、意地悪をしても傍にいる。


これが、もしかしたら物語補正なのかも知れない。


物語のヒロインのユリアと寝取られ役の僕は...何があっても勇者に寝取られるまでは別れないのかも知れない。


2人の歳が14歳になった。


ますますユリアは綺麗になった。


それなのに、幾ら虐めても、性格の悪い振りをしても傍から離れない。


親からも、「あんなに良い子なのに何故虐めるのか?」


良く怒られた。


あと半年で僕やユリアは大人になる。


そして、その時に、僕は農夫のジョブを貰い、ユリアは聖女のジョブを貰う。


もう半年、そこでお別れなのにユリアは何時も僕の傍に居る。


大好きだけど..僕の人生を壊す女..好きだけど..今は愛してくれているけど裏切る女。


こんなに大好きなのに...愛してくれているのに..不幸しかない未来。


だから、僕はユリアを押し倒した。


ユリアは何時も僕の傍に居る..簡単だった。


最初の一回目の時にユリアは拒んだ。


「大人になったらね? 結婚するまで待って..お願いよ」


だが、僕は手を止めずに犯した。


それが終わった後にユリアは僕に聞いてきた。


「セイルは私を愛しているの?」 目には涙が溜まっていた。


勿論、愛している..ここまでしてしまったのだ、違うとは言えない。


「愛しているよ..」


記憶を取り戻してから初めて素直に気持ちを伝えた。


「じゃぁ、昔みたいに優しくしてくれる? もう、冷たいセイルを見てるの辛いの..」


「わかったよ..これからは優しくする..ごめんね」


多分、この恋は後、半年で終わる。


それまでは、彼女を愛そう...そう思った。


それからの僕は、狂ったように彼女を求めた。


仕事以外は彼女と過ごし、溺れるように毎日体をあわせた。


最初、うちの親やユリアの親から注意を受けたが..構わず続けた。


いつも、べったりしていて、夜はどちらかの家で体を合わせて過ごす。


ユリアの親は難色を示していたが、ユリアの幸せそうな顔と僕の「将来一緒になる」という約束で安心したのか


「若いから仕方ない...子供が生まれたらちゃんと育てるんだぞ」


と最近は冷やかされるだけになった。


いよいよ、明日が成人の儀式、ジョブを貰う日だ。


横でユリアが僕との逢瀬が終わり、安心したようにスヤスヤ寝ている。


僕はユリアの髪を手でとかした。


やっぱり可愛いいな..明日儀式でユリアは聖女になる。


そして僕は農夫になる。


そして一週間後には、彼女は勇者と旅立ち、もう僕の元には帰ってこない。


僕の初恋は実った。


大好きな人と死ぬほど体も重ねた。


もういい、この半年間は信じられない程幸せだった。


それだけで良いんじゃないかな...少なくとも前世も含んでこんな幸せな時を過ごしたことは無い。


明日は、精一杯祝福しよう。


そして、勇者とユリアが旅立つ時には、精一杯笑顔で送ろう...その後は


旅にでも出ようかな..そうしよう。


僕は、幸せだ...


なのに、さっきから何で涙が止まらないんだろう。


幸せなのに、こんなに幸せなのに...なんでだ。


僕は井戸で顔を洗った。


そして、ユリアの胸に顔をうずめて眠った。


ユリアの心臓の音が聞こえる。


《ユリア..思い出をありがとう...本当にありがとう..愛しているよ》



................................



..........


そして成人の儀式の朝になった。


「どうしたのセイル、眠れなかったの?」


「うん、眠れなくて..」


「それで昨日の夜抜け出したんだね...お互い良いジョブが欲しいね」


《君は大丈夫だよ..聖女のジョブを貰うから》


泣きたいのを我慢して笑顔を作る。


この一週間がユリアと過ごす最後の一週間だからだ。


「セイルは何のジョブが欲しいのかな?」


「そうだな、農夫か、猟師が良いかな..村で生活出来るし」


《農夫確定だけどね》


「そうかー私もセイルと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」


「そうだね、お互い希望のジョブだと良いね」



...................................




............


やはり、僕のジョブは農夫だった。


「良かったねセイル、希望のジョブで」


「うん、ありがとう..」


「元気ないね、セイル、あっもしかして騎士や冒険者に憧れていたとか?」


《笑顔でいなきゃ..彼女の笑顔を壊したくない》


「うん、ジョブなんて実は何でも良いんだ..ユリアと一緒に居られさえすれば」


「そうなんだ...何だか照れちゃうよ..ありがとう!」


いよいよ、ユリアの番だ。


僕の時と同じように近隣からきた5人と一緒にユリアが並ぶ。


神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げる。


すると、紙に自分のジョブが出てくる。


普通、それだけだが、僕が読んだ本ではユリアの時は天使が降りて来た。


《やっぱり》


周りの人は嬉しさで興奮しているけど..僕にとっては悪夢だ。


天使が降りてきて...真っすぐにユリアの方に向かった。


《ユリア、幸せにね..》


僕は泣きたくない..だから立ち去ろうとしたが...


《あれっ..何で天使がユリアに手を差し出さないんだ》


天使はユリアの前で戸惑うように震えている。


そして、暫くユリアの傍に居たが...寂しそうに隣の女の子の手をとり、暫くすると帰っていった。


...........................



.........


「セイル、やった! 私のジョブはお針子だったよ、これでずうっと三人で暮らせるね」


「えっ三人って」


「今日からセイルも大人でしょう! 責任とってくれるわよね?」


「当たり前じゃないか」


そうか、噂では聖女って処女じゃないとなれないって聞いた事がある。


他にも、子供が居る状態の女性なら、聖女になれないという話もあった。


あくまで幻のジョブとか言われて小説でも詳しくは書いてなかったけど..


結果オーライだな。


「そう、幸せにしてね!」


「ユリア、愛しているよ!」


僕はユリアを抱きしめた..抱きしめたら涙が止まらなくなった。


「どうしたの、急に泣き出して」


「ユリアが傍に居てくれる..ユリアと結婚できる...ユリアがこれからも傍に居てくれる..それが嬉しいんだ」


「そう、私も愛しているわ!セイル」


僕の涙が止まるまで、ユリアは僕を抱きしめてくれた。


この幸せを噛みしめながら、僕はユリアと共に生きて行く。


もう、絶対に離さないと決めて....







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寝取られる位なら 石のやっさん @isinoyassan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ