05話.[いつもの通りだ]
「――という感じで、中学生のときはあんまり他の人といなかったんですよね」
「いまも同じじゃないか?」
「吉柳さんといる時点で違うじゃないですか」
一応言っておくと彼がいてくれればいいと判断して一人でいたわけではなかった。
意識しなくても自然とそうなっていただけで、私はあくまで私らしく過ごしていたにすぎない。
でも、あんまり他の人とはいなかったというところは事実のため、あまり強く言えないのも確かなことで黙るしかなかった。
今日は二人がどう盛り上がるのかを見たかったというのもある、出しゃばったら見られなくなってしまうからこれでいいのだと終わらせた。
「学校ではどんな感じなんですか?」
いまも同じと学校で直接見ることができる吉柳君が言っているのにまだ聞こうとするのか。
どれだけ聞こうが変わらないよ、そもそも彼だって去年まで自分の目で見てきて分かっているのになにをしているのかという話だ。
あと、吉柳君は六野君に興味を持って今日ここに来ているのに私の話ばかりだったらつまらないでしょうが、そう内で呟く。
「クラスが違うから授業中のことは分かっていないけど、別に拒絶とかをしてくるわけではないぞ」
「なるほど、ということは吉柳さんが行かないと駄目ってことですよね」
「寺戸から来てくれたことはないな、でも、俺が行けば問題もないからな」
しかもなんかこれだと相当やばいやつみたいじゃん。
仮に用があっても自分からは絶対に行くことがないみたいに聞こえてきて、違うからと説明をしたくなる。
ただ、そんなことをしようものなら言い訳と判断をされて余計に立場が悪くだけなのだろう、だから結局はこうして聞いておくしかない……。
「いつもの寺戸らしくないな」
「空気を読んでいるつもりなんですよ」
「でも、六野といるときは喋りまくるんじゃないか?」
「どうせ吉柳さんのときもそうですよね?」
さすがに前に進めなさすぎるからそれでもそろそろ止めようか。
そうしたら今度は彼中心の話題に変わったからほっと安心できた。
彼のことならよく分かっているからたまに参加し、あとはなんか姉的な目線で二人を見ていた。
二人が弟だったら大変そうだけど、この二人がいてくれたら楽しそうだから妄想が捗る。
弟だったらあのじょりじょり頭にも気軽に触れられるし、毎日癒やしの時間があってよかったのにな。
「できた、六野はどうだ?」
「僕も描けましたよ、見てください」
というかさ、なんでお出かけではなく彼の家で集まることになっているのか。
参加してほしいとのことだったから参加を決めて出かける気が満々だったというのに、結果はこれで残念だった。
だってここにはいまの彼のままでいてくれている限りいつでも上がらせてもらうことができるわけで……。
「これ、寺戸か?」
「そう言う吉柳さんの方こそそれはまりんですか?」
「「そのつもりで描いたけど」」
……細かいことを気にしたら負けか。
絵を描いて盛り上がっているみたいだったから私も紙を貰って参加させてもらうことにした。
自分を描くなんてナルシストな趣味はないため、彼や吉柳君を描いていく。
ただね、やはり私に絵の才能はないのだと再度すぐに分かったよ。
「駄目だあ、吉柳君みたいにはできないよ」
真剣に描いている相手を見ておくぐらいがお似合いだった。
だけど一つぐらいは人に勝てているところがあってほしいと考えてしまう自分もいて難しい。
「そりゃそうでしょ、すぐに追いつけると思ったら大間違いだよ」
「うん。でも、楽しいよね」
「そうだね、まりんの真面目な顔を見られて僕は大満足だ」
それでも上手く描いてやろうとしていたから変な顔になっていないか心配だったけど、一応相手に見せても問題のない顔だったらしいので安心できた。
他の人がいる前ではやめてほしいけどね、たまにマイナス方向の指摘もずばっとしてくるから彼は怖い。
「……この前は変な顔をしていたけどな」
「変な顔、ですか?」
「ああ、絵を描いていたときにふと見てみたら寺戸がさ」
って、そっちから口撃されるんかい。
あのときは「い、いや」と言って否定したのに敢えて彼がいるところで言うなんて意地悪だ。
そのときに言えばいいのに敢えてダメージが残る選択をする彼にむかついたので、気にせずに頭に触れることにする。
「吉柳ちゃんは構ってちゃんなんだね~」
「……六野、なんで俺は頭に触られてこんなに自由に言われているんだ?」
「変な顔をしていたとか言うからですよ、仮にしていても気づかないふりをするのが男というものです」
そうやって分かっているのにすぐに破ってしまう彼の方にも同じようにしておく。
今回は髪に触れても文句は言ってこなかったけど、かわりににやにややらしい笑みを浮かべていたからすぐにやめた。
結局いつだって勝てないのだと分かってしまったのもある。
「まりんはやっぱり僕のことが好きすぎるね」
「それはき――んー!」
「まあまあ落ち着いて、まだまだ時間はあるんだからゆっくり楽しもうよ」
忘れそうになるけどこうして大人の対応ができているつもりの彼は中学生で、……誰か叱ってくれないかなと内で呟いたのだった。
「て、手が疲れた、君も吉柳君も絵を描きすぎなんだよ」
「悪い」
「僕は謝らないよ、別に悪いことをしていたというわけではないんだからね」
やはりこれぐらいのメンタルが必要な気がする。
謝ってほしかったわけではないけど吉柳君が謝っているのにスタンスを貫く姿は見ていて気持ちがいい――ような、ないようなという感じだ。
私といるときだからこそなのかもしれないものの、もしこれを他の人相手にもしたら生意気などと言われてしまいそうだった。
「それよりお腹が空いたからまりんにご飯を作ってもらいたいな」
「じゃあ今日もチャーハンね」
「うん、それでいいからお願い」
人によって分かりやすく味が変わるチャーハンというのは簡単なようで簡単ではないためと、今回は吉柳君がいるということで手に力が入る。
そして何故かこちら側にやって来て「頑張れー」などと応援してきている彼や、まだ絵を描こうとしている吉柳君によって力が抜けた。
やっぱり弟として家に存在していてほしい二人だ。
「ただいま」
ぎゃっ、お、お姉さんが帰ってきてしまった!
別になにか悪いことを言われたとかではないけど、なんとなく苦手な対象になってしまっている。
「たいき、その子は?」
「まりんの友達の吉柳せいさんだよ」
「そっか、弟と仲良くしてくれてありがとね」
「いえ」
ちなみに眼鏡で長髪で~というこの前の考えはこの人からきている。
「それよりまりんはさあ」
ぐっ、こちらに触れずに戻る、なんてことを大人しくしてくれる人ではないか。
こちらにやって来たお姉さん、みさこさんはこちらの肩に手を回してきた。
「そろそろたいきを貰ってくれるとありがたいんだけど?」
「ちょ、本人に聞こえちゃいますよ」
幸い、お喋りに集中してくれているからマシ――とはならない、それとお互いにそういう気持ちがなければ意味がないことだ。
苦手な理由はここだ、出会ってからはすぐにこれだから困ってしまう。
これに比べたら彼がいきなり呼び捨てにしてきたことなんて可愛いぐらいのことだと片付けられるぐらいだ。
「あんた達は一緒にいるくせになにもなさすぎて呆れているの、だから聞こえちゃっていいんだよ」
「み、みさこさんが誰かと付き合い始めたら考えますよ」
「言質は取ったからね、さ、彼氏でも作ってきます――あ、いい子がいるじゃん」
お、おいおい、まさか今日出会ったばかりの吉柳君を、とか言わないよね?
あ、でも、目がマジだ、……声をかけると面倒くさいことになりそうだからやめておこう。
それにいまの私にはチャーハンを作るという仕事がある。
「なんか連れて行かれちゃったね」
「みさこさんは苦手だあ……」
「はは、ずっとあんな感じだからね」
笑っている場合ではない、そもそもこれは彼のせいでもあるのだ、彼がはっきりとしてくれないからあの人はずっとあのままなのだ。
「でも、姉さんが吉柳さんに集中してくれるなら、吉柳さんが姉さんに集中してくれるなら不安にならなくて済むなあ」
「はいはい――うわっ、あ、危ないでしょ」
「適当に言っているわけじゃないんだよ」
姉弟で好き放題しよってからにっ。
はぁ、だけど私も全く成長していないから反省するしかない。
いちいちこうして反応してしまうからこういう人達が喜んで同じようなことをしてくるのだと分かっているのに馬鹿だ。
「できた、食べようよ」
「楽しみだなあ」
もうこうなったらこっちが好きで好きで仕方がないぐらいになればいいのにと考えてしまう。
そうなら一生懸命に振り向かせようと行動するし、なんてことはないことで喜びを感じることだろうけど、いまの状態は中途半端すぎて喜ぶにも喜べないというね。
優しくしてもらっている分、こちらが好きになる理由はたくさんあるわけだから、そう難しいわけではないような気がするけど……。
「みさこさんと吉柳君が戻ってこなかったら君が食べてね」
「いいよ、じゃなくて、もう食べちゃおうかな」
「一応呼んでくるとか形だけでもしてよ」
「しょうがないなあ」
で、すぐに行動をしてくれた彼だけど、残念ながらすぐに一人で戻ってきた。
細かいことは説明せずに「いまは邪魔をするべきじゃないから」と口にして、ついでに私作のチャーハンも口にしていく彼がいた。
肉食系だからもう自由にやりまくっている可能性があるのかと考えたら気分が悪くなってきたからすぐにやめて食べることだけに集中をした。
「ごちそうさまでした」
「私が食べ終えても戻ってこなかったらちょっとお散歩をしようよ」
「いいよ、じゃあ来ないことを願っておこう」
自宅ではなく彼の家にいることからどちらにしろ帰らなければいけないのでいちいち願う必要なんかなかった。
暗いのは苦手だけど幸い、まだ暗くはないから数時間が経過した後にちょっとお散歩をすることになっても構わない。
でもあれだ、これも悪い気にはならないからいちいち言うことはしないでおいた。
「この前は酷いことになったな、寺戸さんは先に帰ってしまって酷いですね」
「ちなみにどういうことをしたの?」
六野君が大人しく言わないぐらいだから期待はしていなかったけど、結果は想像通り教えてくれないというものだった。
彼はむしゃむしゃとお弁当を食べてからまた紙と向き合い始める、私は早く戻っても仕方がないからそれを見るといういつもの通りだ。
「たいきとみさこさんって似ているよな」
「姉弟だからね」
「でも、ああいう人は好きなんだよな」
おお、意外と悪くないのかも? 少なくとも本気度がどうであれみさこさんの一方通行ということにはならなさそうだった。
それだけで恋というのは救われるものだろう、未経験でもそれぐらいは分かる。
「寺戸もさ、真剣に考えてみたらどうだ?」
「でも、本気になってから『好きな人ができた』とか言われたら病むよ?」
「あの感じで他に好きな人間はできないだろ」
「そんなの分からないじゃん」
両思いでないと前には進めないのだから簡単な話ではなかったのだ。
だからもう好きで好きで仕方がない状態になればいいのにと考えたあれは悪い面を全く意識していなかったことになる。
大体、恋なんかをしてしまったら一緒にいたいとか寂しいとか言いたくなってしまって困ってしまうだけだ。
「協力してやるからさ、な? だから頑張ってみようぜ」
「こっちには微塵も興味がないんですね」
「別にそういうわけじゃないけど六野には勝てないよ」
これは不味いパターンだ、興味を失くされて離れて行ってしまう。
だってみさこさんと会うためなら六野君と仲良くしておけばいいしね、それに想像である程度は描けてしまう人だから敢えて私といる必要はない。
「まあいいや。みさこさんは苦手だけど困ったら言ってよ、私にできることならするからさ」
「まだそういうのじゃないけど、そのときがきたら頼むよ」
行かないでくれえ! 学校では君がいてくれないと駄目なのだ……って、最低だ。
都合が悪いときだけ利用しようとするなんてありえない、だからこうなってよかったのだと考えておこう。
一緒にいる相手にはなるべく迷惑をかけないようにするという自分が決めたことを守れるわけだからなおさらそうだと言える。
「これまでありがとう」
「別に離れたりしないぞ、それはそれ、これはこれだろ」
「え、いいの?」
「当たり前だろ、俺らはもう友達なんだぞ?」
こうなってくるといいのかどうかが分からなくなってきてしまう。
でも、自分のことだけを考えるのであれば間違いなくいいことだからじょりじょり頭に触れつつありがとうと重ねておいた。
「はえ~、吉柳君は優しいねえ」
「寺戸は放置して一人で帰る酷いやつだけどな」
「ま、まあまあ、私達なりに邪魔をしないようにしたんだよ」
そもそも私が六野家で自由に移動できる範囲はリビングと台所までだ。
客間に行かれてもあれだし、二回に行かれてしまったらどうしようもない。
また、彼は連れて行かれる際に助けてくれなどと頼んできていたわけではなかったため、私だけが悪いというわけではなかった。
「嘘だよな」
「ち、近いよ、それに嘘……じゃないよ?」
「まあいいか、友達なんだからそれぐらいは許さないとな」
ちなみに彼はノートを開きつつ「まあでも、男子といて女の顔をしている友達を見るのは微妙だな」と……。
「実際、どうしたらいまの距離感が変わると思う?」
「寺戸から行動するしかないな」
「そ、それで私はどうすれば?」
積極的に触れていくようなキャラでもないし、本当はいたいのに敢えて逆のことを言うような人間でもないし、私の脳ではこれ以上の変化は見られない。
そういうのもあって彼が未経験だろうと経験済みだろうとどちらでも構わないからなんでも言ってほしいのだ。
「そんなの名前で呼ぶとかだろ、というかなんで名字呼びのままだったんだ」
「え、そんなの求められなかったからだけど」
「おいおい、いちいち相手が求めてくるまで待つつもりか?」
え、普通はそういうもののような……。
六野君みたいにいきなり呼び捨てに~なんてできる方がレアなのだ。
おかしなことをしているみたいに言われても困る、求めておきながらこれは勝手だけどズレは仕方がない。
「いまはいいか、いまは吉柳君といるわけだからすぐにどうこうって変わるわけではないことを考えも意味が――なんでそんな真面目な顔なの?」
「みさこさんじゃないけど不安になってきた、そうやって後回しにした結果がいまなんじゃないかと思ってな」
「まあまあまあ、ほらいまはいないからね?」
「駄目だ、作戦会議をしよう」
ぐぅ、このじょりじょり頭君も結構頑固だな。
こういうタイプに協力を求めるのはやめておいた方がいい、何故なら無茶なことを言い始めるからだ。
ゆっくりやっていかなければならないところをショートカットなんてしてはいけないわけで、もう大丈夫だよと言っておいた、もちろん謝罪も忘れずにしておいた。
「俺の悪い癖なんだ、止めてくれてありがとな」
「ううん、ありがとう」
そこからはあくまでいつも通りの時間となった。
ただ、じっと見たり、触れたりするのはやめようと決める。
そういうつもりではないのであればやはり触れるべきではない、と言うよりも、本気で恋をした際に後悔をしたくないからやめておくだけだけど。
「はい、寺戸も一緒に描こうぜ」
「うん」
うん、紙がもったいないけど受け入れておこう。
なにも描かなくても合わせておくというのが大切だろう。
練習のためだけに二人といるわけではないけど、二人といることは=として大人の対応をできるように練習をしているということになるから、これからも色々な意味で一緒にいたかった。
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