03話.[問題はなかった]

「よう」

「……六野君がごめん」

「いやいいんだ、俺も暇だったからありがたいよ」


 優しくしてくれるから甘えてしまう可能性も高いけど、それ以上に振り回されることの方が多いから会わないようにしようと決めた。

 どうせ家でゆっくりしているときに突撃してくるだろうから無駄になる可能性の方が高いけど、まあうん。

 というか、本当に来なくなってしまったらそれは嫌だから変な風に考えるのはやめようとすぐに捨てておいた。


「色々道具を持ってきたんだけど上がらせてもらうのは悪いよな」

「あ、いいよ?」

「んー、やめておくわ、だからいまから出かけようぜ」


 それなら着替えてこようか。

 あまり使うつもりはないけどお金もしっかり忘れずに持って行くことにする。


「川を見に行きたいんだけどいいか?」

「あ、絵の背景にするの?」

「ああ、キャラだけじゃ寂しいからな」


 何度も言っているようにぼうっとしているのは得意だからありがたかった。

 変にお店を見たりすると彼にそういうつもりがなくてもデートみたいになってしまうからね。

 仮に複数の場所を見ることになったとしても一回一回の時間を長めにしてくれればこちらとしては問題はない。


「こういう家の裏とかを流れている川で遊ぶのもいいよな」

「浅いから事故に繋がる可能性はゼロではないだろうけど、ここだったらプールに行く方がいいかな」

「女子だったらそうかもな」


 あ、やば、いまのすぐに否定をする感じはよくない、そう思っていなくてもそうだねと合わせられるようなスキルが必要なのだ。

 この先上手く生きていくためにも直せるところは直していかないといけないな。


「吉柳君の友達の話を聞かせてほしいな」

「俺のか? はは、あいつらはみんないい奴なんだ」

「いい人達そうというのは近づいたときに分かるよ」

「我慢してくれているだけだろうけど悪い雰囲気にするようなことは言わないし、相手が困っていたらすぐに動ける奴らだからな」


 羨ましい、私にもそういう存在がいてほしい。

 でも、そういう人を求めるのであればもっとしっかりしなければならないことを分かっている。


「最近は寺戸のことを彼女だと言ってきて困っているんだけどさ」

「はっきり強く言えばいいんだよ、友達でも言わなければならないところはちゃんと言わないとね」


 相手に迷惑がかかりそうとかそういう状態ならなにも気にせずに言える、それで逆ギレとかをされて一緒にいられなくなったとしても仕方がないと片付けられる。

 自分にだけしか影響しないことなら適当にへらへらして合わせるけどさ、やっぱりそこはね。


「寺戸、そこに座ってくれないか?」

「分かったと言おうと思ったけど、ちょっと坂なのに吉柳君の方を向くのは筋力的に厳しいかも……」

「いや、そのまま川の方を見ていてくれればいい」

「それなら大丈夫だよ」


 うん、少しだけ場所が変わっただけだから特別よく見えたりはしない。

 あと、後ろ姿を描かれるぐらいなら正面から描かれた方がいいのだと今回で初めて分かった。


「き、吉柳君?」

「ん? どうした?」

「あ、いたんだ、静かすぎて放置されたのかと思った」

「そりゃいるだろ」


 ぐっ、は、早く帰ってきてくれ六野君!

 私一人で最後までやれる気はしない、毎回毎回こういう雰囲気になっていたらメンタルが保たない。

 ぼうっとしているのは得意(笑)とか言っておいてこれはださかった。


「あ、魚だ」

「ここ、意外と釣れるんだよ」

「釣ってどうするの? た、食べるとか言わないよね?」


 否定するつもりはないけど私ならお金を払ってスーパーなどで買ってくる。

 ご飯を作れない私が捌けるわけもないし、血とかはなるべく見たくないのだ。

 それにほら、仮に捌かれるとしても上手な人にやってもらえた方が魚も~的な考えがあった。


「ふっ、どうすると思う?」

「分かった、飼うんでしょ」

「どうだろうな、よし、描けたぞ」


 うん、相変わらず本当に私をモデルにしたのと聞きたくなるような感じだった。

 ただ、彼の絵は好きだった、こうして特に頼まなくても見させてもらえるというのは分かりやすくいいことだと言える。


「そういえばこの前の、えっと――あ、六野のことだけどさ」

「あの子、私のためによく動いてくれる子なんだけどたまに暴走しちゃって、だからごめんね」


 結局、あれでも彼の中に私に対する特別な気持ちなんかはないのだと分かる。

 別に残念とかそういうことはないけど、好きだとかそういうことではないならもっと自分のために時間を使ってほしいとしか言えない。

 それが普通だ、でも、いまは普通とは言えないのだ。


「年上に対しても全く臆せずにいける奴ってすごいよな」

「うん」

「でも、ちゃんとどこまでやっていいのかを分かっているんだよな、俺もああいう人間になりたいぜ」

「え、吉柳君はそのままでいいよ」


 同じような存在が増えてしまったらもっと駄目になってしまう。

 なので、そのままでいてねと重ねていおいた。




「ぐぇ」

「ふふ、やっぱり僕はまりんといられないと駄目みたいだ」

「さっきも聞いたけど今年はどうしてこんなに帰ってくるのが早いの?」


 初日から最終日まで帰ってこないなんて連続だったのにこの結果はおかしい。

 ないとは分かっていても馬鹿なことを優先した結果なのではと不安になってくるから帰ってきていたとしても来るのは最終日にしてほしかった。

 ちなみに彼は「元々三日とかしか泊まらないからね、あとはいまも言ったようにまりんといられないと調子がよくならないからかな」などと本当かどうかも分からないことを言っていたけど……。


「吉柳さんとは遊んだの?」

「うん、初日に夕方頃まで遊んだよ」

「どんなことをしたのか参考にしたいから教えてくれないかな」

「絵の練習のために色々な川を見に行ったんだよ」


 途中からは紙を貰ってこちらも描いたりしたものの、残念ながら幼稚園や保育園の園児よりも下手くそな絵が出来上がった。

 多分練習をすれば多少はマシになるだろうけど、人が見たくなるような絵を描けるようになることは延々にこないと分かった。


「そうだ、タブレットを利用したのかどうかを確認しないとね」

「はい、結構楽しませてもらったよ」


 まあ、嘘だけど。

 この子はずっとリビングに置いてあった、ローテーブルの上に置いてあったから適当にしていたわけではないことは確かなことだ。

 あれ、だけどおかしいな、何故かこちらを優しく押し倒して見下ろしてきている六野君がいるよ。


「使っていないよね、使わずに返したらいたずらをするって話をしていたと思うんだけど」

「できるものならすればいいよ」

「じゃあ失礼して」

「ちょっ、躊躇がな、あははっ、く、くすぐったいってっ」


 ちょいちょい、さすがに異性にしていいことではないでしょこれは。

 こういうことは同性同士だから許されることだ、それだというのに彼はあくまで楽しそうにやってきた。


「はぁ、仕方がないからこれぐらいで許してあげるよ」


 このまま近くにいるとまた襲われそうだからご飯を作るために台所に移動する。

 あれから練習もしたし、なんなら吉柳君にも食べてもらって問題もなかったから食べてもらうことにしよう。

 GW中に作ってどれぐらいなのかを確かめたかったのもあったから本当のところを言うと来てくれてありがとうという感じだった。


「お、やっと自分で作るようになってくれたんだね」

「うん、だからあんまり期待はしないで待っていてよ」

「楽しみだな~」


 うん、食べてもらった後も特訓をしてチャーハンは上手く作れるようになったから笑われるようなことも、食材を無駄にしてしまうようなこともない。


「もうちょっとフライパンを熱した方がいいよ」

「え、ちょ」

「そろそろいいよ、チャーハンなら一気にやらないとね」


 えぇ、って、これについては信用されていなくて当然か。

 いい、こうやって教えてもらいながら上手になっていけばいいだろう。

 そうすれば両親にももっと堂々と作ってあげられる、そわそわしなくて済むというのはいいことだからそうなれるようにと頑張ればいい。

 これは絵と違って分かりやすく上達できそうだから内側は複雑さよりもドキドキやワクワクの方が大きかった。


「ふぅ」

「お疲れ様、運んで食べようか」

「うん、手伝ってくれてありがとね」

「ううん、自分が作ったご飯を自分で食べるよりもまりんが作ってくれたご飯を食べられた方が間違いなくいいから」


 まあ、お世辞だろうとなんだろうと悪い気にはならないからいいけどさ。

 ちなみにチャーハンで失敗はしようがないから味については問題はなかった。

 お弁当に入れていくと味がついているから白米よりはいい気がする。

 多分、朝におかずを温めたり焼いたりするのは大変だろうからそういうことで楽になるようにしたかった。


「明日からは毎日行くから安心してね」

「うん」

「え、まりんが否定をしなかった……」


 彼とは一緒にいる時間の長さ的になにもなくても気まずくなることはない。

 もちろんこれからも吉柳君がいてくれるというのなら仲良くしたいと思っているけど、いますぐにどうこうできることではないからそれ以外の時間は彼といたいという考えになっているのだ。

 今回も無理やりこちらが頼んでいるわけではないから大丈夫だろう。


「洗い物も無駄なところがあるかもしれないから見ていてくれないかな」

「わ、分かった」


 普段から迷惑がっていたとかそういうことでもないのにいちいち変な反応をしすぎだと思う。

 私なんてこんなものだ、優しくしてくれる人がいたら結局すぐに甘えようとしてしまう。

 何故なのかはよく分かっている、それは私が自分に甘いからだ!


「ふふ」

「え、あ、もしかしたら熱が出ているのかもしれないね」

「気軽に触るのはやめていただきたい」

「それだよそれ、まりんはやっぱりそういう顔をしていないとね」


 鏡がないからどういう顔をしているのかは分からないけど、彼が楽しそうだったから問題はないと終わらせて洗い物を始めたのだった。




「よう」

「あ、GWはありがとね」

「あの日も別れる前に言ってくれただろ」


 それよりお昼休みなわけだけど友達と遊ばなくてもいいのだろうか。

 積極的に外に出ようとするのは絵のモデルを探すためでもあるだろうから校舎内に留まっておくのはもったいない気がする。

 私でよければ別に自由に描いてくれればいいけど、この前の発言的に色々なものを描けるようになりたいだろうからそうするべきだ。


「友達と外に遊びに行かなくていいの?」

「ああ、今日は他の友達を優先しているからどうしようもないんだ」

「ほう、彼女、とかかな?」


 一人だけそうやって他のことを優先するとだんだんと付き合いが悪くなって関係に亀裂が、なんてね。

 絶対に自分を優先してくれとか考えられる人の方が少ないだろうから優先してくれればいいと私でなくても終わらせると思う。

 ただ、なんとなく少しだけ寂しそうに見えるのは何故だろうか。


「ん? ああ、寺戸のことを彼女扱いしているあいつには彼女がいるぞ、年上のな」

「おお、それなのにちゃんと優先してくれるとか優しい人なんだね」

「はは、まあ、そうだな」


 お、いい笑みを浮かべるな。

 もしの話だけど、六野君が私のことを誰かに話しているときはどういう顔をしているのか。

 変に恥ずかしがって敢えて悪く言ってしまうとかそういうこともないだろうから、大丈夫……だよね?


「吉柳君にはいないのかな?」

「いないよ、寺戸だっていないだろ」

「いないなあ」

「この先どうなるのかは分からないけど、そういうことは一度もなかったな」


 ……こんなことを考えるのもあれだけど好きな友達と遊ぶか絵を描くかの二択だったのかもしれない、暇な時間はぼうっとすることで終わらせてきた私とあまり変わらな、いわけはないか。


「六野は?」

「聞いたことはないけど、彼女の一人や二人はいるんじゃないかな」

「あ、多分だけど寺戸の反応的にいないな」


 いや、あの子だってなんでもかんでも言うというわけではないからそういうことがあってもなんらおかしくはなかった――というか、むしろそういう存在がいてくれた方がよかった。

 だっていまのままだとありがたいけど怖いじゃん、でも、好きな子がいるうえでならただただ優しいということだけが分かるから安心できるんだ。

 ま、まあ、それならそれで気軽に触れてきたりしているのはいいの? と聞きたくなってしまうけど……。


「そういえば六野を描いてみたんだけど」

「うん……って、この手を繋いでいるのってもしかして私?」

「ああ、距離が近いからお似合いの二人だと思ってさ」


 というか、彼の場合だと男の子を描いたときでも女の子みたいに可愛い感じになってしまうのか。

 ネットとかにあげてみたら絶対に好きだと言ってくれるような人が現れるだろうけど、あげるつもりはないのかな。

 ちゃんと手とか足まで描いてあるし、背景も頑張っているからなんにもしないままで終わらせてしまうのはもったいない気がする。

 でも、余計なことは言わなくていいか。


「描いた絵を見ていたら描きたくなってきた、だから今日もよろしく頼む」

「うん」


 私は何気に絵を描いているときの彼の顔が気に入っていた。

 真剣な表情ってやっぱりいいよね、部活を頑張っている人達を見ていたのはそういうところからもきている。

 そうなると、自分が例えば勉強をしているときなんかはどういう顔をしているのだろうか……。


「その日その日でやっぱり違うな」

「私が?」

「ああ、こう……ちょっとずつどこかしらが違うんだよ」


 分かりやすく違う点は今日は自作のお弁当を食べたということだ。

 あ、ある程度美味しく作れるようになったけどちょっとテンションが上がらないのはそこからきているのか。

 こうして言葉にしてくれることで自分でも気づいていないことを気づけるというのは普通にいいことだった。


「今日特に違うのはご飯粒を口の横につけていることだな」

「教えてくれてありがとう」


 はぁ、心臓に悪い、笑みを浮かべる余裕もなかった。

 人のせいにするのは違うけど、こういうときは笑ってほしい。

 笑われた方が結果的にダメージが少なくなるから――なんて違うよね、感謝こそすれというやつだった。


「もっと上手に作れるようになったらまた食べてね」

「普通に美味しかったぞ?」

「でも、半分ぐらいはお世辞みたいなものでしょ?」

「いや違うって、そりゃなるべく言わないようにしているけど無理なら食べきれないからな」


 そうか、でも、頑張った方がお互いにとっていいわけだから無駄にはならない。

 一人のときでもご飯を作って楽しめるようになるまで上達すればなによりも自分のためになる。


「終わりだ」

「笑顔だね」

「寺戸はもっとにこにことした方がいいな」


 彼は満足できたのか「じゃ、また放課後にな」と歩いて行った。

 私は暇になってしまったからここでゆっくりしていこうと思う。

 汚れることなどは気にせずにぐてんと寝転んだら真っ白い天井が見えた、高くて手が届かなくて掃除とかもできていないはずなのに白色でほーと呟く。


「って、私って無表情キャラというわけじゃないけどな」


 それどころか他者なら真顔になりそうなギャグとかでも笑えてしまえるぐらいだけど……。

 まああれか、関わった時間が短いから分からなくても仕方がないか。

 さすがになんにもないときに笑うような人間ではないし、うん、これから関わっていけば変わっていくことだろう……と思いたい。

 でも、それは先の話でいま気にしていても仕方がないことだから、


「いまは休憩!」


 そう、これが大切だった。

 しっかり休めるときは休んでおかないとそれこそ吉柳君が来てくれたときにへばっていて付いて行けない~なんてことになるかもしれないので、それがいま一番嫌なことだから回避するためには仕方がないことだった。

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