第3話

ディアに案内され、体育館の中に入って行った。体育館の中には5人いた。2人が女子で、2人が男子だ。


「これより、入学試験を始めます。ルールは1つだけ。お互いを倒し合い、最後まで残り続けた3人が合格します。2人は入学する事は認められません。入学出来なかった者は、牢獄で2ヶ月間捕まってもらいます。まずは、お互いの事を知るために自己紹介を始めてください!!」


ディアがそう言うと、左端にいた女の子から自己紹介が始まった。


「私は、セレーナ。トップクラスに居たけど、ディア様に負けて、退学を命じられて……。また、入学を認めてもらうためにここに来たの。能力は昔は持っていたけど、カースト最下位に堕ちる時に、取られたから、今は何も持っていません。よろしくお願いします」


「俺は、アンジェロ。天候を操ることが出来る天性の能力を持っています。その代わり、雷を出せる確率は1%。99%出す事が出来ないから弱いと思います。でも、全力で戦うのでよろしくお願いします」


「私は、マリア。私もモンスターを操る事が出来る天性の能力を持っています。その代わり自分も操られやすいので、催眠術にはよくかかります。よろしくお願いします」


みんな、天性の能力を持ってるのかよ……。勝てる自信がなくなってきた。


「僕は、ピースト。銃を使うのが好きで、いつも両手に2つ銃を持っています。能力は持っていませんが、銃の腕前なら誰にも負けません。よろしくお願いします」


そして、自分の番が回ってきた。そう言えば……。名前を考えないといけない。名前……。名前……。


伊狩修


頭の中に浮かんできたのは、僕が現実世界で使っていた名前だった。イカリ……カイリ……。


「僕の名前は、カイリです。まだ異世界に来たばかりで何も分かりませんけど、よろしくお願いします。能力は勿論、持ってません」


「それではこれから入学試験を始めます。バトルスタート!!」


まず、お互いに距離を取るため、少し離れた。誰から先に動くか……。行動の読み合いが始まった。僕も誰かが動くのを待っていた。


「雷を起こせ!!天候変化の術!!」


アンジェロが小さな声を出した。その瞬間、ピーストが銃を両手に構え、打つ体制に入った。ピーストが狙いを定めたのは、アンジェロだった。アンジェロが、手を合わせると、空が暗くなり始めた。


パン!! パン!!


銃が撃たれた音が部屋中に響き渡る。あまりの大きさに僕の心臓が飛び出しそうだった。放たれた弾丸は、アンジェロに向かって飛んでいったが、強い風が吹き、弾丸は右に逸れて行った。アンジェロの能力で強風が起きたのだ。


「雷は来なかったか……」


強風により、立つだけでも精一杯。でも、逆に考えれば、銃が全て外れるからピーストは不利になる。最初に狙うべきはピーストだ!!


僕は、ピーストに狙いを定めた。強風の中、何とか立ち上がり、大きな剣を持ち、距離を詰めて行った。時々、バランスを崩す事もあったが、確実に近づいている。


バン!! バン!!


ピーストが銃を撃ちまくるが、風により全て流れていく。セレーナもピーストに狙いを定め、走ってきた。強風の中、あんなに走れるなんて……。セレーナの戦闘能力に尊敬していた。


「カイリ、手を組まない?」


「うん。一緒にピーストを倒そうよ」


僕は剣を持ち、ピーストに振り下ろそうとした瞬間、手に持っていたはずの剣が消えてしまった。


何で……。その時、ディアの言葉が蘇る。




「ここは立ち入り禁止だから、ここで手に入れたアイテムは全て学校に戻ると消える可能性があるから。気をつけてね」




この剣は立ち入り禁止エリアから持ち出した物だ。武器が無くなった僕は怖くなった。誰かに狙われるかもしれない。セレーナはズボンの右ポケットから大きな拳銃を取り出し、ピーストに向けて撃ち始めた。


バン!! バン!! バン!!


ピーストの銃よりも大きな音が響き渡る。みんながあまりの大きな音に怯み始めた。それを狙っていたのか。セレーナはピーストの背後に回り、左のポケットから短剣を取り出し、背中を刺そうとしていた。


ド、ド、ド、ド!!


突然、強い地震が起こり、セレーナはバランスを崩してしまった。何で地震が起きてるんだ!?突然、視界が暗くなる。後ろに何かがいる気がする。振り返ると、そこには巨人が立っていた。


「オマエタチ、ゼンイン、タオス」


カタコトで話す巨人を操っているのはマリアだった。


「巨人よ、まずはカイリを倒せ!!」


マリアが巨人に命令した途端、僕の方に巨人が近づいて来た。やばい……。巨人に勝てる自信は無かった。武器も無い僕はとにかく逃げるしか方法がない。巨人から出来るだけ遠くに逃げたが、体育館の広さには限りがある。


段々と強風も止んでいき、アンジェロの能力が切れてきた。ピーストが再び、銃を持ち、僕を狙い始めた。巨人もピーストにも狙われている。武器も無い僕にはもう勝ち目が無いのかな……。


「カイリ、これ使って!!」


セレーナがさっきまで持っていた剣を僕の方に投げてくれた。その剣が空中を舞い、僕の方に近づいてくる。そして、地面に突き刺さった剣を取り出し、僕の手元にやっと剣が戻ってきてくれた。巨人は、もう僕の目の前まで来ていた。


パン!! パン!!


ピーストの弾丸も僕の方に向かって飛んでくる。剣を持ったとしても……絶体絶命の危機に代わりはない。たった1つの剣で形成逆転するには……。


マリアを倒せば、巨人のコントロールは出来なくなる。巨人が暴れてくれれば、チャンスがあるかもしれない。まずは、ピーストの弾丸を避けないと。


ドクン!! ドクン!!


さっきの感じだ……。心臓が強く動き始める。


「ゔ、ゔ……」


心臓が痛い……。痛い……。意識が朦朧としてくる。もう無理だ……。僕は静かに目を閉じて行った。





意識は無い……。だけど、何者かが体を動かしている。視界は真っ暗なはずなのに。体だけが動いている。




ドク ドク ドク ドク


いつもの心拍数に落ち着いた。

再び意識が戻り、目を開けると、目の前にはセレーナとアンジェロしか居なかった。


「あれ?マリアとピーストは?」


セレーナに聞くと突然、笑い始めた。


「あなたが倒したんでしょ?カッコよかったなあ。剣を使いこなしてて……」


やっぱり、無意識に体がコントロールされてたんだ。でも、何なんだろう……。この体は。


「カイリ、セレーナ、アンジェロ、入学おめでとう」


ディアが近づいてきた。


「これからあなた達は1年1組です。強い闘争心を忘れずにスクールカーストを駆け登り、トップクラスを目指してください」


それだけ言って、ディアは体育館を去って行った。


「カイリ、お前凄いな!!」


アンジェロが僕の肩を叩いてきた。


「あ、ありがとう。でも、何も覚えてないんだよ」


「それって、天性の能力の予兆じゃない?」


「予兆?」


「俺も、能力に全然気づかなくて、周りから雨男って呼ばれてたんだ……。でも、ある時自分の思い通りに天気が変えられることに気が付いたんだ。能力が宿る前に何かしらの予兆が起きやすいんだよ。それが起きてるのかもしれないな」


「……何の能力だろう?何かに乗っ取られた気がしたんだ」


「うーん。何だろうなあ」


「カイリ、おめでとう」


セレーナも僕のところに近づいてきた。


「セレーナも凄かったよ」


「ありがとう」


「入学試験を合格した3人をこれから教室に案内します」


ディアがそう言うと、教室に連れて行ってくれた。教室は1年1組。最下位が1組で最高位が5組。その上にトップクラスと呼ばれるものが存在するらしい。1組には、50人ぐらいの生徒がいた。これから僕のスクールライフが始まる。

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