第2話
木が揺れる音が微かに聞こえてくる。ゆっくり僕は体を起こしながら目を開けた。そこは森の中だった。あれ?どうして僕はここに居るんだろう……。ここはどこなんだろう。まだ何も分からない。頭が混乱している中、立ち上がり、森の奥へと歩き始めた。ここは夢の世界なのかもしれない。頬をつねってみたが、普通に痛かった。と言う事は、夢ではない。現実だ。
ドン ドン
何かの音がどこからか聞こえてくる。今までに聞いた事ないような大きな音だった。何の音なんだろう。音のする方に向かって歩き始めた。
ドン ドン
少しずつ大きくなる音。確実にこの音に近づいている。何かを作っている音なのかな。何の音なのか色々な妄想をしていた。
突然、音が消えた。確実に近づいていたはずなのに、周りには何も無い。気のせいだったのかな。
「ウォーーー」
空から聞こえる声。空を見上げて、ようやく何かが飛んでいることに気がついた。鳥かな。
ドン!!
空から降りてきた何かが勢いよく着地をした。その音は今まで以上に大きかった。あまりの衝撃に目を閉じてしまった。目を開けると、そこには僕の5倍近くある巨大なドラゴンが立っていた。
「え……」
頭上にはレベル20と書かれていた。ドラゴンが出てくる世界……。その瞬間、前世の最期の記憶が蘇った。
「あなたは異世界のスクールカーストのトップに立っているディア様の結婚相手に選ばれました。これから異世界に転移してもらいます」
急に僕の家にやってきた謎の男に殺されてしまったんだ。異世界でディアという女と結婚するために。という事は……ここって異世界!?本当に転移出来るんだ。男の言うことを僕はあまり信用していなかった。
「ウォーー」
ドラゴンは僕に向かって炎を吐いてきた。炎は僕に向かって一直線に伸びてくる。炎に当たったらどうなるのかな。そんな事を考えている間に目の前まで炎が来ていた。そして、僕の体全体に炎が当たってしまった。
「熱っ!!」
服も燃えてしまい、黒焦げになっていた。黒焦げになった服はすぐに元通りに戻った。現実世界なら炎に当たるだけで皮膚が破れるはずなのに……。炎を受けても特に皮膚にはダメージは無かった。少しだけ熱いと感じただけだった。でも、このまま攻撃を受けていたら……体力が持たない。とにかく逃げよう。そう思い、今まで来た道を全力で走り抜けた。
はあ……はあ……。息切れが激しい中、とにかくドラゴンから逃げないと。その思いで走り抜けた。
「ウォーーー」
でも、無理だった。ドラゴンは空を飛び、僕の前に回り込んでいた。逃げてもダメなら戦うしかない。
「早く……倒さないと」
でも、ドラゴンってどうやって倒すんだろう?ゲームではAボタンを押すだけで剣を振ってくれるが、そんなボタンはこの世界には存在しない。まず、武器を探さないと……。
武器は確か……宝箱の中に入っている事が多い。と言う事は、宝箱がどこかにあるのかな。
「ウォーー」
ドラゴンは僕の方に少しずつ近づいて来る。僕も目を合わせながら1歩ずつ下がっていく。
コツン
足が何かに当たったような音がした。足に当たったことで、バランスを崩した僕は何かの上に倒れ込んでしまった。
「何だろう……これ」
起き上がってようやくその何かが宝箱だと気づいた。
「何が……入ってるんだろう」
ドラゴンはもう1度炎を吐こうとしていた。それまでに決着をつけないと……。また、ダメージを受けてしまう。次、受けてしまったらもう死ぬかもしれない。待てよ……。この世界に死の概念はあるのか?僕はもう現実世界で死んでいるはず。そんな事は後で考えよう。恐る恐る宝箱を開けると、その中には大体1メートルはありそうな剣が入っていた。
いざ持ってみると、重すぎて持ち上がらない。
「ウォーー」
ドラゴンが炎を僕に向かって一直線に吐き始めた。さっきは赤い炎だったのに、今度は青い炎になっていた。つまり、威力が上がっているということか。もう無理だ……。もう負けるんだ……。
目の前に迫る炎を見ながら僕は死を悟った。
ドクン ドクン
勢いよく心臓から血液が身体中に行き渡る。何だろう……。この感覚は。身体中が血液のせいで、一気に熱くなる。今までに味わったこともない感覚が僕の体を襲う。力が腕に漲ってくる。剣の重さを感じなくなった。
目の前にくる炎に対して、剣を縦に振り下ろした。炎は見事に左右に裂け、自分に当たらなかった。
「はあ……はあ……」
何故だろう。息切れが激しい。意識が朦朧としてきた。心臓の音も無くなり、僕は倒れ込んでしまった。
「白虎、召喚!!」
その声がどこからか聞こえてきた。誰だろう。うっすらと見える視界には、2匹のドラゴンに立ち向かう白虎の姿があった。
「ドラゴン、落ち着いて……」
1人の女の子がそう言った。どこかで見た事がある顔だった。ドラゴンは、空を飛び、遠くに逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
「う……う、」
全然、体が動かない。何でだろう……。さっきのあの心臓は何だったんだろう。
「これ、飲んでください」
そう言って、女は何かのドリンクを飲ませてくれた。それを飲んだ瞬間、体が動くようになった。
「ありがとうございます」
「あの、ここは立ち入り禁止ですよ」
「すいません。あの、あなたの名前は?」
「私はディア。この世界の学校のトップクラスにいます。あなたの声が禁止エリアから聞こえてきたので、助けに来ました」
ディア……。
異世界ゲームのラスボスであり、僕の結婚相手だ。顔は可愛いと思うが、ラスボスだと考えると少し怖くなってしまう。
「あなたが僕を招待したんですか?」
「何の事ですか?」
「え?あなたの結婚相手として僕が選ばれて……」
「何言ってるんですか?私はまだ15歳ですよ。この世界で結婚が出来るのは20歳からですよ。それより、何であなたはここに居たのですか?」
え……。じゃあ僕はどうしてこの世界に来たんだよ。
「現実世界で殺されて……目が覚めたらここに居たの」
「現実世界?現実世界って何ですか?」
「この世界とは別の世界だよ」
「楽しそうですね。いつか行ってみたいなあ」
「うん。行ってみてよ」
「じゃあ今から入学試験を受けてもらいます。私に付いてきてください」
「入学試験?」
「この世界には学校が存在します。その名もパラレルスクール。この学校に入学して3年間この世界の法律や戦い方について学ばないといけません」
そう言われ、僕はディアに付いて行った。まだ頭の中が混乱している。なぜ、僕をこの世界に呼んだのか?殺した奴は今、どこにいるのか?現実世界と異世界には時差があるのかな……。考えながら、僕は歩き始めた。
「着きましたよ」
目の前には、巨大な学校があった。周りは柵で囲まれていて、警備員も4人ぐらいいた。現実世界の学校とあまり変わらない。
「入学試験ってなんですか?」
「あなたを入れて5人で戦ってもらいます」
「まだ来たばかりの僕でもなんとかなりますか?」
「今年の入学希望者は能力を使える奴が多いから難しいかもね……」
「能力?」
「能力には3種類あるんだ。普通の能力と異世界転生した時に100人に1人の割合で目覚める天性の能力、そして、最強のチート能力だ」
「チート能力とか普通の能力はどうやって得られるの?」
「私の友達の博士が作る薬を飲めば、能力は宿る。その薬は、大会の優勝賞品になる事が多いんだ」
優勝か……。僕には到底無理だな。
「頑張ってね!!」
「ありがとうございます」
意外とディアって良いやつなのかもしれない。でも、どうしてこんな奴がラスボスなんだよ……。
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