異世界に転移した僕は、勇者が憑依する天性の能力を使って、スクールカーストトップを目指す!!

緑のキツネ

第1話 

深夜2時を回り、外から車の音が消え始めた。静かで真っ暗な部屋の中から聞こえてくる音はボタンを連打する音。連打をする事で主人公の攻撃力が高まる。異世界ゲームのクリアまであと少しという所。ラスボスを目の前にして僕のテンションもMAXに上がっていた。


「行け、勇者!!」


独り言を言いながらラスボスの直前の敵と戦い中。この敵と戦い始めてもう1時間は経った。それでも勝てないぐらい強かった。こんな敵に苦戦していたらラスボスはどうなるのか……。もう勝てないかもしれない。そう思いながらもひたすらボタンを連打する。敵のHPも残りわずか。これは勝てるぞ……。さらに集中力を高め、敵の攻撃を避けながら敵に必殺技を繰り出す。


「行け!!ソードバスター!!」


勇者が持つ2つの大きな剣をクロスさせて繰り出す技は当たれば最強、外せば剣が地面に刺さって抜けなくなるという諸刃の剣のような技だった。それでも僕はロマンを求めて、繰り出す。敵の体に当たり、見事成功し、勝利した。


「やっと……勝てた」


昨日の0時に発売されたこのゲームを予約していたため、0時にゲーム機に追加された。それから何も食べずに休憩も1回もせずにノンストップでゲームを進めた。きっと日本最速クリア記録だと思う。いよいよラスボス戦だ……。小腹も空いてきたので、冷蔵庫からパンを取り出し、食べ始めた。勇者がいよいよ敵のアジトの城に到着する。


「ラスボス……絶対1発で勝ちたい」


隣に置いてあったペットボトルの水を全て飲み干し、パンも全て食べ終え、気合を入れた。


「よし!!行くぞ」







敵のアジトの部屋にたどり着いた勇者の目の前に、1人の女性が現れてきた。


【よくここまで来ましたね】


目の前にいるのは、ずっとこの異世界を支配してきたディアだった。


【おまえを倒すため、ここまで来た】


【何であなたは私を倒したいの?私は悪い事なんてしてないわ。この世界に住むモンスターを助けてあげたいの】


ディアはモンスターを助ける為、今まで、異世界に住む人間を捕まえ、殺していた。


【人間を殺さなくても良いだろ!!】


【私が子供の頃、人間が私の飼っていたモンスターを殺した。全て人間が悪い!!】


【……違う。お前は……】





突然、画面が切れてしまった。良い所だったのに。もう眠気が来ていた僕は、ゲーム機を充電して、布団に入ろうとした。


ピンポン


こんな時間に鳴るインターホン。こんな時間に起きている人すら珍しいのに……。玄関に行き、少しだけドアを開けた。暗闇の中、1人の男が持つ右手の方に銀色に光る物がある。はっきりと見えなかったが、剣だと判断した僕は、急いでドアを閉め、固定電話の所まで走って行った。もしかしたら殺されるかもしれない。


「早く、警察に、電話、しないと……」


あまりの怖さに声が震えていた。えっと……。110を押して、警察に電話を掛けた。


プルルル プルルル


「もしもし、緊急ですか?それとも……」


警察に電話がかかった瞬間、背中に強い痛みが走った。後ろを振り返るとさっきの男が立っていた。剣で背中を突き刺していた。


「ゔ、ゔ……」


背中から出る大量の血。声にならないぐらい痛くて、苦しかった。


「あなたを殺しに来ました……」


僕に向かって笑顔で言う男に対して、


「……何で、、僕を殺したいんだよ!!」


と言った。僕に恨みを持っているのかな。


「あなたは異世界のスクールカーストのトップに立っているディア様の結婚相手に選ばれました。これから異世界に転移してもらいます」


意味が分からない。痛みがさらに激しさを増し、意識が朦朧としていた。


「何で……僕なの?」


「あなたには才能があります。異世界で待ってます」


そう言って、男は消えて行った。才能って……そんな物、僕にあるのかよ。死にたくない。死にたくない。そう何度も思ったが、もう無理だった。異世界に転移するのか……。異世界はどんな世界が待ってるんだろう……。僕は生き残れるかな。僕は静かに目を閉じた。

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