目の前の巨体を眺める。眺めるというより、視界に入っているだけかもしれない。

 白銀に輝く毛並みは、若干その艶を失ったように見えた。その体からは血が流れ続けているが、まだ浅く息をしている。当然だ。長く苦しむよう急所を外したのだから。

 これで復讐は成し遂げた。

 市長とマホメガ。グローリーシティを狂わせていった者を自らの手で殺した。達成感も喪失感も、胸の内にある。否、そのどちらも感じていないのかもしれない。わからなかった。ただ今はこうして、座り続けたいと思った。動きたくなかった。

「ごめんね、ソウ」

 聞こえるはずないが、謝罪をしておく。あとから行くなんて言ったが、結局このままここにいそうだ。そもそも合わせる顔もない。ソウはリンヤを望んでくれているが、その純な思いに答えられるほど大人にはなれない。

(行かないのかい)

「うるさい、黙れ。耳障り」

(耳など使っていないだろうに)

 特に笑い声は聞こえなかったが、ユニコーンの口元が弧を描いた気がした。脳で会話する者たちは死に際でもペラペラ喋れるのが厄介だ。

(このままだとお前のリーダーと、大事なソウとエリーが、衝突するのではないかな?)

 リンヤの言葉など気にせず話し続けるマホメガ。頭を傾け、視界から排除する。

 ユニコーンは転生前になるとお喋りになる特性でも持っているのだろうか。これでは落ち着いてなどいられやしない。

「お前がちゃんと死ぬか見張ってるんだよ」

 マホメガを見ずに、言葉だけをぶつける。

(ほう……人間とは本当に面白い。そうやって本心と別の行動を繰り返す)

 苛立ちが募り、思わずもう一回刺したくなる。無意識に噛んでいた唇から血がにじんだ。だが何も言い返さない。マホメガ相手に言い合いをしても無駄だ。

 しばらくマホメガはリンヤを見つめていた。沈黙がその場に降りる。やっと静かになったと思えば、マホメガはまた脳を動かす。

(一ついいことを教えてあげよう。最後の余興だ)


               〇 ● 〇

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