サクッ……サクッ……

 静かな音が部屋に響く。男の手にあるナイフが、何度も何度も人形の腹を突き刺す。布はその勢いに耐え切れず、少しずつ中身を露わにしていく。白いわたが宙を舞う。

「……ダストリーはいつ消えるのかな」

 男は瞬きもせず人形を見つめる。かわいらしい男の子の人形は、何度腹を抉られても、決して笑顔を崩さない。男と同じでその表情は動かない。

 サクッ……サクッ……

「早く、早く消さないと。救世主……友……師……。あの人の仇を、仇を、取らないと」

 男の口角がゆっくりと上がっていく。少しずつ、少しずつ、笑い声が隙間から漏れ出る。その間も手は止まらない。一回一回確実に、同じペースで、人形の腹が抉られる。わたが外気に触れる。舞っていく。

(時の子もそろそろ手に入る。それまでの辛抱だ)

「ははっ。脳での会話か」

(君が導入したんだろう)

 サクッ……サクッ……

 男がゆっくりとまぶたを閉じ、顔を声の主に向ける。同時に双眸が現れる。

(ああ。いい手段だとは、思うよ)

 男は静かに言葉を発した。

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