第62話 絵夢、麗華会からの決別

「黒木様、一体どうしたのですか?」


「白金さん...ごめん」


それだけ言うと僕は意識を手放した。


私は園崎に指示を出すと黒木様をベットへ運ばせた。


一番の役得だが、譲らなければいけないのが辛い所だ。


古木には念のため風呂を沸かすようにお願いした。


そして私はタクシーの運転手に車を汚してしまったお詫びにお金を渡した。


「いいんですよ、美少年のゲロですから...寧ろご褒美です」


うん、確かにそう思うが、それとこれは違う。



「園崎さん、黒木様の容態はどうだ」


「見た感じでは足を挫いたみたいです、、その他は問題無さそうです、一応処置は済ませておきました、足の事を考えるとお風呂はやめた方が良いと思います。 気が付いたら念の為、北條邸の施設で検査してみます」


「流石は園崎さん、医者の資格を持っているだけありますね」


「実務経験は少ないですけどね」



僕は目を覚ました。


「黒木君、大丈夫ですか?」


真っ先に貴子さんの顔が飛び込んできた。


その眼には涙が浮かんでいた。


良いな、こういうの前の世界では心配なんてされた事はなかった。


周りを見ると心配そうな顔でこっちを見てくる。


「何があったのですか、黒木様」


僕は、今日の出来事を話した。


流石に、少女が醜く見えて気持ち悪かった事は内緒にして。


「流石は黒木くんだね、少女とは言え女を助けるなんて」


「普通に小さい子が怪我していれば助けるでしょう?」


「そうだよね、お兄ちゃんならそうするね、歩美の時もそうだったし」


他の皆んなは遠い目をしている。


この世界の男は、、そんな事はしない。


精々が、救急車を呼ぶ位だ。


少なくとも、手当をしておんぶ迄してタクシーを呼ぶ、そんな事をする男はいないだろう。


ドラマや映画のなか以外は...


去年上映された映画のシーンで「僕の彼女を助けて下さい」そう男が叫ぶ映画があった。


その映画のヒロインになりたい...そう思う女性がどれ程いたか...その数分後に死んでしまうのに。


「「「「黒木さん(様)(君)なら仕方ないか」」」


「あれっ僕おかしな事を言ったかな」




「麗華の会を抜けるって...何を言い出すの絵夢...本気なの」


「本気ですよ...麗華お姉ちゃん...もうこのキャラ必要ないか...麗華さん」


「何でまた急に、せっかく序列2位まで上がってきたのに...」


「私、真実の愛を見つけちゃいましたから...もう偽者のお兄ちゃんやイミテーションじゃ満足できないのよ」


「黒木翔の事ね?」


「そうよ、多分、麗華さまは目が腐っているんじゃないかな、、イミテーションばかり見ていたから、、あの人こそが、本当の男よ、まるで小説から飛び出して来たような方」


「確かに良い男だけど、彼が貴方を選ぶとは限らないんじゃない?」


「選んでくれなくても良いのよ...私が彼を選んで好きになっただけだから...こういう気持ち麗華さんには解らないでしょうね?」


「そう、なら勝手にしなさい...」


絵夢には私だけが知っている重大な弱点がある。


ここを出て行くなら破滅させてあげるわ。


麗華は怪しく微笑んだ。



【絵夢の受難】


絵夢は実は住む所がない。


全ての男性の妹を自負する彼女にとってはお兄ちゃんの所へ転がり込めば良い。


この世界の男性は性欲が少ない為に安心して泊まる事が出来る。


今日泊まるお兄ちゃんを物色していた。


真実の愛とは言うけど生活を考えるとそういう訳にいかない。


あっお兄ちゃんめっけ。


「お兄ちゃん、絵夢」


「おい、絵夢が見つかったぞ」


私は、、お兄ちゃんその1に殴られた。


そして、車で拉致られた。


気が付くと私は裸で縛られて寝転がされていた。


見た感じ工場のようだ。


周りには私がお兄ちゃんと呼んでいた男が沢山いた。


「絵夢、どうやら気が付いたようだな」


「なんでこんな事するするのお兄ちゃん」


「お兄ちゃん? ふざけんなよ、お前本当は24歳なんだよな」


いきなり顔を踏みつけられた。


「純情な俺たちを騙して子供の振りしやがって」


「痛い、辞めてよ お願い、 ぎゃぁー、ぐっ」


いきなり、顔を蹴り上げられた。歯も何本も抜けたかも知れない。


「汚ねえな、靴が汚れちゃったよ」


「汚れるといけないから、俺ビニール持ってきたよ」


「いいね」


皆んながビニールの袋を手と足に巻き付けた。


「汚い毛を股につけて、何がお兄ちゃんだよ薄汚いメスがよ」


私の顔を殴りつけてきた。


痛い、痛い、痛い、多分鼻の骨が折れたと思う。


「ごめんなさい、謝ります、謝るから、辞めて、もう辞めて」


「うるせいよ、鼻が曲がって気持ち悪い顔、、もう、その顔じゃどんな男も騙せないな」


「痛いの、ね本当に痛いの...許して下さい」


「本当煩いよ此奴...半分取れ掛かっているから、いっそう採っちゃわない、此奴の鼻」


「や、辞めて、ね、辞めて...」


「もう一発、蹴って見るか...やった、鼻がもげたぞ、、」


「わ、私の...私の鼻が...」


私の鼻が...落ちている...


「俺たちは悪い事しているんじゃない...お前みたいな汚い女に二度と男が騙されないようにしているだけだ」


「な、何でここまでされなきゃいけないの? 精々泊めてもらったり、安いお菓子を貰っていただけでしょう...なんで」


「お前はそれに感謝しないで、俺たちを馬鹿にしてたんだよな、、麗華さん達が教えてくれたぞ」


「だからって、此処までする必要ないでしょう」


「その眼...凄くムカつくな...自分が悪い癖に、そんな目で見やがって...ッ許せねぇ」


私の目の前に男は棒を持ってくると、男は片目にその棒を突っ込んだ。


「わうわうえあ、、痛い、痛い、痛い、いたいー」


「うわ、この棒抜いたら、目がついているよ...きもい」


あははははは、私、鼻が無くなっている、目も片方無くなっちゃった。


しかも、あんだけ蹴られたから、顔の形も変わっちゃったんじゃないかな。


顎も割れているかも知れないし、頭からも血が出ているし。


どうせ殺されるんなら...


「キモイのはお前達じゃない、本当馬鹿みたい、大人の女が怖いから子供の女に逃げているだけの最低男じゃん、現実社会で妹に相手にされないゴミでしょう?  本当クズだわ」


言いたい事は言った。


「貴様、よくも、麗華会が性格が悪いから破門した、そう言われるだけの事はあるな」


「人を騙した女が良く言えるな」


もう言い返す力もない、だから意識がなくなるまで、睨みつけてやる。


そして殴られ、蹴られ、私は気を失った。


「やばいよ、これ...下手したら死ぬぞ」


「強制、性処理所行になりたくない...俺は知らない」


「俺も、知らない」


「俺は見ていただけだ」


「とりあえず、逃げるぞ、ここにこれ以上居たらヤバイ」


「俺たちは此処に居なかった、いいな、皆んなでゲームをしていた」


男たち、元お兄ちゃんはそこから逃げるようにして離れていった。




どの位たったのか、私は目を覚ました。


鼻も無いし、目も片方潰れている、顔は触ってみたけど原型もないや。


耳も片方ちぎれている。


多分、私...化け物だ。

手は...片方まがっているし、足は、うん、どうにか動くかな。


体中死ぬほど痛いけど...何とか動く。


痛さって不思議だね...度を超すと余り痛まなくなるんだ。


服は近くに落ちている...あんなに綺麗だったのにボロ布だね。


多分、私...もうじき死ぬんだと思う。


だけど、死ぬなら、こんな所で死ぬのは嫌だな...


黒木さん...死ぬ前にもう一度会いたいよ。


ホワイトロリータ、、そう言われた美貌はもうどこにも無い、ただの化け物みたいな顔。


それでも、絵夢は近くのボロ布のような服を纏って歩いていく。


運が良く、この場所は黒木の家から近かった。


痛い体に鞭を打って、曲がった足の痛みに耐えながら絵夢は歩いた。


普通なら20分も掛からない距離を2時間近く掛けて。


かってのホワイトロリータと言われた彼女なら何人もの人が手を貸してくれただろう。


だが、醜い彼女に手を貸す者はいなかった。


ぶつかった人は忌々しそうに睨みつけるだけだ。


そして、ようやく黒木の家の傍まできた。


「此処で良いか、、此処なら黒木君が帰ってきたら見える」


絵夢は黒木の家の近くの垣根に座り込んだ。


「私が死ぬまでに帰って来ないかな...」



下校途中、黒木は垣根から視線を感じた。


「白百合さん達はちょっと待ってて...」


綺麗な少女が瀕死の重傷で死に掛けていた。


黒木はその少女をお姫様抱っこすると、走り出した。


「白百合さん、直ぐに家に連絡して、そして救急車を呼んで貰って」


嘘、今度は、お姫様抱っこ?


ははは、やっぱり黒木さんは本物だわね。


こんな化け物みたいな私にお姫様抱っこなんて。


これで、いつ死んでも....


死にたくない...こんな幸せがあるなら死にたくない。


なんで死んじゃうの、死にたくないよ。


「園崎さん...どうして」


「その子は私が看ますから、安心して下さい」


「園崎さん...」


「時間がありません、北條の家の方に運んで下さい」


この人が言うんだ、それが多分一番なんだと思う。


「解りました...」


僕は少女を運んだ。


この少女に一体何があったんだ。


こんなに可愛い子の目をくり抜いたり、鼻をもいだり、、人間のする事じゃない。


凄い、流石は北條と言うしかない。


家の中に病院があるなんて...


「だけど、貴子さん医者はどうするんですか」


「問題無いわよ、園崎は優秀な医者だから」



園崎仁美は優秀な医者だった。


医者になれば男に触れるし、出会いのチャンスがある。


そう思い頑張ったが、醜い彼女にそのチャンスは無かった。


幾ら頑張っても、幾ら技術を身に着けてもそのチャンスは訪れなかった。


そんな折、醜い事から旨く主治医の見つからなかった北條家からスカウトを受けてメイド兼主治医となった。


「園崎さんって、凄い人だったんですね、メイドなのに医者だなんて」


その声は、手術室の園崎にも聞こえていた。


応援してくれている。


ならば医者として最善を尽くす。


この手術は...多分普通だったら出来ない。


だけど、必ず成功させる。


片手、はもう絶望的だ...


顔は、、目はもう無理だ、鼻や耳は人口骨で再建するとして...


元の様な美しい顔にはもう戻せないだろう。


だけど、この子の人生を考えて...今再建可能な一番良い顔を目指す。


それでも、物井凄く醜い顔だが...


足は、もうこの子の人生は杖無しでは生きられないだろうな。


命はどうにか取り留めたけど...それ以上は私でも無理だ。


長い手術の時間が終わった。


どうにか命は助かったけど...この子の未来は決して明るくない。


「黒木様...ちょっと良いですか?」


「園崎さん、その彼女の容態は」


「命は取り留めましたが...方輪は免れないでしょう」


「そう、ですか」


「手は片方無い、杖無しではもう歩けない、、顔だって正直いって醜い姿です。」


「そうですか...」


「それで、黒木様は彼女をどうしたいですか?」


「どうしたいとは...」


「手当が終わったら、出て行って貰うか、それともその後の人生を面倒見るかです」


「それなら、決まっています。こんな子供を放り出すなんて出来ません。彼女と話し合って彼女にとっての最善の道を探します」


「流石は黒木様...良い男ですね...だけど、彼女は...成人ですよ...多分」


「えっ...」


「それでも面倒を見ますか?」


「それでも僕は彼女が生きる手助けがしたいです」


「流石、黒木君...貴方が彼女を助けるなら...私も彼女の手助けをします」


「貴子様...有難うございます」


貴子の助ける、その意味を黒木は生涯知る事は無い。


これから起きる事も...





「黒木君...あの子は貴方の家族になるのかしら?」


「流石にあんな怪我迄していますし、彼女が望むならここで暮らして貰いたいと思います」


「そう、優しいのね」


「僕は、そんなに優しい訳じゃありません、貴子さんや他の方に比べたら...全然です」


私達が優しいのは、貴方が私達に対して優しいからですよ。


私達は多分、貴方以外には、皆んな優しくなんてないんです。


女神って異教徒にとっては悪魔より怖い存在なんです...うふふ。



「おい、大丈夫か...目は覚ましたな」


「ここは何処ですか?」


「北條家の医療室だ...」


「そうですか、北條家の中ですか...私はこれからどうなるのですか?」


「それは君次第だ...君を助けた黒木様は、君の面倒を生涯見たい...そう言っていた」


「方輪で、こんなに醜くなった私をですか?」


「あぁ...しかもかなり怒っていた...さて、君はどうする?」


「正直、その提案は嬉しいんですが、こんな私が...黒木さんの傍にいても良いんでしょうか?」


「さぁ、私には何ともいえないな...直接本人に聞いたらどうかな」


「正直言って怖いです」


「怖がることは無いよ...何しろさっきまで君の看病をしていた位だからね...さてともう黒木様が来るから、、後は2人で話すと良いよ」



「園崎さん、彼女の容態はどうでしょうか?」


「黒木様、もう目を覚ましましたよ、お話しも大丈夫ですよ」


「所で、中には別の方も居るんですか?」


「なんでです? 私しかいませんでしたよ」


「いえ、女医さんのこえが聞こえてきたので」


「あぁ、あれですか、それは私です、どうしても白衣着ちゃうと医者モードになってしまうんです」


「そうですか...でも医者モードの園崎さん...凛々しい声ですね」


「そう...ですか...それじゃ私は失礼しますね」



「大丈夫、目が覚めたって聞いたけど、、」


「ありがとうございます...2度も助けて頂いて」


「2度?」


「はい、一度目は転んでいた所をおぶってタクシーを呼んで頂きました」


あの時の女の子が彼女...別人じゃないか。


「そうか、あの時の彼女だったんだね...気が付かなかった」


「そうですよね、今の私は..醜いですからね」


今の君は凄く可愛いんだけど、片目は無いけど...まるで、そう僕の部屋にあるゼロみたいに


「そんな事は無いよ...僕には君は凄く可愛い人に思えるけど」


見えると言っちゃ駄目なんだ、気を付けないと..


「嘘です...こんな化け物みたいな私...綺麗な訳ないじゃないですか?」


「外見はそうなのかもね? だけど今の君は凄く優しく見えるけど違うの」


そうなのかな、確かに過去の自分を反省しているけど...


「そうですか、多分黒木さんの思っているほどやさしい女じゃないと思います」


「だったら、これから変われば良いと思う...それでこれからどうする?」


「正直言ってどうして良いのか解りません...行く所もありません、かと言って甘えるのはおかしすぎます」


「なら、うちで暮らせば良いよ」


「それは迷惑だし、甘える行為だと思います」


「別に甘えても良いんじゃない? 迷惑なんて、どんどん掛ければ良いさ」


「どうして、どうしてそんな事を言えるの?」


「僕が寂しがりやだからかな、、」


「寂しがりや?」


「そう、寂しがりやだから、1人が怖い、寂しがりやだから仲間が欲しい...そして寂しがり屋だから家族が欲しい...僕はね皆んなに甘えて生きているの」


「黒木さんが甘えん坊?」


「そう、甘えたいから、好かれたいから、優しくする、優しくされたいから、優しくする、それだけだよ僕は」


そうか、そんな事も解らなかったんだ。これが真実の愛なんだろうな。


やっぱり、私も麗華もパチモンだ...


「じゃぁ私は甘えても良いのかな、お兄ちゃん」


「思いっきり甘えて良いよ、そのうち僕も甘えさせて貰うから...絵夢お姉ちゃん」


「おおおお姉ちゃん?」


「だって絵夢さん、すごく可愛いけど...年上でしょう?」


「たたたたた確かにそうですね...そうかお姉ちゃんか...初めて言われたよ」


「だけど、お姉ちゃんはなんで大人なのに子供に見えるの?」


「これは生まれつきみたいで、お母さんもそうなんだよ、お母さんなんて80歳になって死ぬ間際でも中学生くらいにしか見えなかったんだ」


「そうなんだ、凄いね」


「まあね、こんなになる前はホワイトロリータ...全ての男の妹...なんて呼ばれていたから」


「凄いね、じゃぁ絵夢さんは、妹扱いされるのとお姉ちゃん扱いされるのはどっちが良い」


凄く優しいね、この二択じゃもう私がここに居るのが確定しているじゃない。


こんな方輪な私だけど、精一杯にこの人に喜んでもらえるように頑張ろう。


「じゃぁ、お姉ちゃんが良いかな、宜しくね...黒木えーと...何て呼べば良いのかな」


「じゃぁ、黒木ちゃんで」


「じゃぁ、宜しくね、黒木ちゃん」





「これで、彼女は黒木君の身内ね...なら私達が助ける人だわね」


「そうね、貴子さん...私も手を貸した方が良いかしら」


「気持ちだけ貰っておくわ、小百合さん、今回は北條家だけでやるわ」


「貴子が女神ね...こんだけ怖いのに」


「あらっ邪神だって女神ですよ...それに黒木君が好きなライトノベルでも勇者には優しいけど、敵には容赦しないじゃない...魔族なんてゴミ扱いしているわよ」


「なら、敵はゴブリン...可哀想に...もう運命が決まっているじゃない」


「決まってないわよ...どれだけ地獄に落とそうか...まだ決めてないもん」


「ねぇ、貴子...まさか本当に怒っている」


「怒っているわよ、当たり前じゃない」


「あの子の為ではないよね...」


「どちらかと言えば、黒木君の為かな」


「そう」


「そう、だけど随分急ぐのね」


「だって、私が急がないと娘たちが先に動くから」


「そうね、うちの馬鹿娘も切れていたからね」


「まだ、あの子達に殺しや拷問まではさせたくないからね」


彼らが軽はずみに起こした行動が、悪魔より怖い人間を怒らせた。


その事をまだ彼らは知らない。

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