第53話 恋する人形
彼は落ちている私を見つけると優しく元の場所に戻した。
凄く優しい。
彼は朝食を食べると出て行ってしまった。
もし、私が喋れるのなら色々話せるのに...残念。
これから、彼が居ない寂しい時間を過ごさなきゃならない。
以前は、人間が居ない方が嬉しかった。
だって、人間は私に酷い事しかしないからね。
だけど、彼が居なくなると何でこんなに不安になるのかな...解らない。
私にとって凄く長い時間がたった時、彼は帰ってきた。
手には紙袋を持っている。
私は期待を込めて紙袋を見ていた。
期待の通り、紙袋の中身は洋服だった。
凄く可愛い服、ピンクでキラキラした、うんアイドルみたい。
彼は私の服を脱がすと下着をつけてくれた。
ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。
下着なんて身に着けたのはどの位ぶりだろうか、うん最初の時だけだ。
次に靴下、そしてあのキラキラした洋服を着せてくれた。
うん、凄く嬉しいな。
「しかし、この人形、こうして手入れして衣装を着せたら...うん凄く可愛くなった」
そんなに言われると...照れるよ。
黒木は前世では生きていくのが精一杯だった。
秋葉原の漫画喫茶で生活している時に高級フィギュアを見て欲しくなったことがある。
だが、そのお財布に優しくない金額に諦めた。
こっちに来て金銭に余裕が出来たが、何処にも可愛いフィギュアは売ってない。
黒木から見たら...怪人に見える人形しかなかった。
ポスターはアニメもアイドルもただの化け物の絵でしかない。
そんな黒木にとってこの人形は唯一の綺麗な女の子の人形だ。
大切に思うのも無理はないだろう。
洋服は一着だけでなかった。
可愛い物から大人っぽい物まで沢山あった。
なんだかファッションモデルにでもなったみたい。
今迄、服を着ている人形を見て羨ましかったけど...こんなに沢山の服を持っている人形なんて見た事がないよ。
うん、凄く嬉しい。
呪いの人形だって...私だって、女の子の人形なんだ...大切にされたら嬉しいに決まっている。
今迄の不幸が嘘みたい。
「名前とかつけてあげた方が良いのかな? だけど、どんな名前が似合いそうかな?」
私の名前はナンシーだけど、好きな名前を付けて良いよ?
可愛い名前つけてね?
「そうだ、君は僕の好きだったアニメのヒロインそっくりだから...ゼロにしよう」
ゼロかぁー好きだった名前ならいいや、うん今日から私はゼロだ。
私ね、多分貴方の事が凄く大好き。
人間だったら沢山おしゃべりできるのにな...残念、...いつか喋れるようになれるのかな。
人形だから無理だわね。
だから、せめて祈る事にするね。
貴方がいつまでも幸せでありますようにって。
私が呪ったら不幸が起きたなら、幸せを願ったら幸せに成れるかも知れないでしょう。
だから、いつも、いつも、貴方の幸せを祈っている。
だって、私、こんなに幸せにして貰ったんだから。
翔がゼロを見ると微笑んでるように見えた。
「まさかね...」
今日もゼロは幸せそうに、翔を見つめている。
翔の幸せを祈りながら、
人形にはそれしか出来ないから。
そんなゼロを翔は嬉しそうに眺めていた。
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