第51話 妹デー

僕は今日遊園地に来ている。


その理由は数日前に遡る。


学校で廊下を歩いている時に歩美ちゃんにあった。


「黒木君はお兄ちゃんしてないと思います」


行きなり言われてしまった。


確かに、忙しさから余り構ってなかった...と思う。


「最初は、歩美にだけ構ってくれないのかと思いましたが、美優ちゃんや奈々子ちゃんにも構ってないのが解りました」


「そ、そうだね」


「だから、妹代表として今週の日曜日は妹デーにさせて頂きました」


「妹デーって何」


「黒木君はお兄ちゃんになりたいんですよね? それなのに妹デーを知らないんですか?」


これは真っ赤な嘘だ。


この世界に妹を可愛がる男なんて少数派だ。


「ごめんね、知らない」


「妹デーとは妹とデートする日です。」


「そ、そうなんだ」


「だから今週の日曜日は私達、妹三人とデートして下さい」


「解かったけど、、何処に行くの?」


「ネズミ-ランドに行きましょう」


「解かりました」


「あれっ嬉しくないんですか?」


「嬉しいです」


そんな理由で僕は来たくも無い遊園地にいる。


夢と希望があふれるネズミ-ランド。


だけど、僕には恐怖と絶望溢れるネズミ-ランド。


だってさぁ...周りは全部化け物なんだもの。


まぁ可愛い三人の妹が傍に居るのだけが唯一の救いだ。


そんな恐怖溢れるネズミ-ランドだけど、今日は美優ちゃんが居るから頑張ろうと思う。


引き籠りの美優ちゃんが部屋からでてきたんだから、うん我慢しよう。


だが、黒木は知らない。


この世界でデートなんかして貰える女性は余りに少ない。


もし、デートの誘いなんて来たら、例え目の前で親が死にかけていても無視してデートに直行するだろう。


だが、それ程の恐怖は黒木には訪れなかった。


そう、黒木には女神貴子と天使美優がついていた。


引き籠りの美優は他の人に会いたくなかった。


いっそうの事、ネズミ-ランドを買ってしまおうか、そう考えてが少しお金が足りない。


というより、買うにしても、日にちが足りないはずだ...


そこで、母、貴子に相談した。 すると


「ネズミ-ランド...あそこは私の持ち物よ...いいわ、黒木君の為だもの1日貸し切りにしてあげる」


私の為じゃなく...黒木君の為なのは...釈然としなかったが、そんなこんなで無事貸し切りとなった。


だが、それでも恐怖はあった。


着ぐるみを着たキャラクターのネズ君やネズミちゃんは良いにだが...姫系や王子様系は...この世界の綺麗な人間...黒木には最低、最悪の化け物だ。


「今日は一日黒木君をお兄ちゃんと呼びます」


「「おー」」


歩美ちゃんの掛け声と共に妹デーがスタートした。


「何から乗ろうか?」


「お兄ちゃんにお任せいたします」


流石、奈々子ちゃんテキパキしているな。


「じゃぁ観覧車とかどうかな?」


「観覧車、、良いね 乗ろう、乗りょう」


美優ちゃんは噛んだな。


「じゃぁ行こうか?」


観覧車の前に来た、三人は乗る席順でじゃんけんをしている。


ようやく決まったようで一緒に乗り込んだ。


右前に 歩美ちゃん


左前に 奈々子ちゃん


隣が美優ちゃんだった。


「つい反射で隣を選んじゃったけど、隣ってお兄ちゃんの顔も見えないし 話づらいしハズレでした」


「歩美はね前だとお兄ちゃんの顔を見ながら話せるから満足だよ」


「そう考えたら、やっぱり前が、、アタリだね、、そのお兄ちゃん」


歩美ちゃんは本当にすごいな、本当に妹みたいだ。


他の2人は少しテレがでているのかな。


まぁ、元ボッチの僕には何も言えない...何しろさっきから三人に見惚れてばかりだから。


こんな凄い体験はここの世界に来なければ出来なかったと思う。


これ程の美少女三人に囲まれるなんてありえない話だ。


「どうしたのお兄ちゃん、急に黙り込んで歩美、心配しちゃうよ」


「いや、凄く幸せだなと思ってさ」


「それは、、歩美と一緒だと凄く幸せだという、、」


「ちょっと歩美ちゃん待って...そこは皆んなと一緒にだと美優は思うよ」


「うん、奈々子もそう思う...というか自分の世界に持って行こうとしないで下さい」


「そこはやっぱり、皆んなかな...勿論、歩美ちゃんも美優ちゃんも、奈々子ちゃんも皆んなと一緒に居いると、うん凄く楽しいし...幸せだね」


「そう、お兄ちゃんは幸せなんだね、美優はそんなお兄ちゃんを見ている時が一番幸せだよ」


美優ちゃんが僕の方にしだれかかってきた。


「隣だとそんな事ができたんだ」


「流石に前ではできないよ...他人の幸せぶりを見るのは奈々子的にはちょと辛いかも」


そう言えば奈々子ちゃんは顔に凄い怪我をしているんだったな。


だけど、僕の目には凄く可愛く見える。


痛くないのかな。


「そう言えば、奈々子ちゃん顔とかは痛くないの?」


「痛くないと言えば嘘になります...だけど我慢できない位痛い訳じゃありません」


「そうなんだ、痛いんだね」


「だけどこの顔にならなければ、お兄ちゃんと仲良くなれなかったし、皆んなとも仲間になれなかったと思います。そう考えたら、この顔に感謝です」


強いな、僕には美少女に見えるけど、顔が崩れる位の怪我なんだよな。


「奈々子ちゃん、、」


僕は奈々子ちゃんの頬に触れた。


「お兄ちゃん」


「うん、痛いの痛いの飛んでいけー」


「おおおお兄ちゃん、、奈々子、、もう痛く無くなっちゃったよ...うん」


そんな事無いのに、本当に強いね、、多分僕だったら耐えられないと思う。


「そう、そんな奈々子ちゃんには...これだ」


僕は奈々子ちゃんの頭を撫でた。


「お兄ちゃんありがとう」


「あの、余り2人の世界を作らないでくれると歩美は嬉しいかな」


「美優はとっても寂しいなぁ」


2人の顔は笑顔だけど、笑ってない。


そんな感じがした。



次に何に乗るのか三人が揉めていた。


「美優はジェットコースターがいい」


「歩美はお化け屋敷がいいな」


「奈々子は...」


「「奈々子ちゃんの意見は却下です、さっきいい思いしたんだから今回は飛ばしです」」


「ちょっと酷いと思いませんか お兄ちゃん」


「うん、時間は沢山あるんだから、全部回れるからさぁ、順番だけの差じゃない?」


「それなら、回る順番をお兄ちゃんが決めて下さい」


「うん、美優ちゃんグットアイデアだよ、それなら歩美は文句ないよ」


「それが公平だと思います」


「僕が決めて良いの? じゃぁお化け屋敷で」


「さすが、お兄ちゃん、歩美と趣味が合うなんて、流石だよ」


「「たまたまです」」


実は今日の遊園地で一番の楽しみはお化け屋敷だった。


もしかしたら、化け物じゃなく、美少女に見える人形もあるんじゃないか?


ひそかに、期待していた。


甘かった。


殆どが、ましな化け物だった。


だけど、現実社会でこれとは比べ物にならない者を見て生活している僕には、うん全然怖くない。


むしろ、この世界の人混みの方が数百倍怖い。


だから、僕は余裕で歩いていた。


だけど、三人は怖いのか僕の手にしがみつきながら歩いていた。


無理やり三人でしがみ付いているので、実に歩きにくい。


色々な化け物の人形を見ながら歩いていると、お化け屋敷のコースから外れた位置に1体の人形があった。


「ねぇ、あれ何で、あんな見ずらい所に人形があるんだろう」


「本当だね、確かにあそこじゃ見えないよね、、でもわざわざ見るほどの事ないんじゃない?」


だけど、僕は何故かその人形から目が離せなかった。


「お兄ちゃん、そんなに気になるなら中に入って見てきてもいいよ...ここの遊園地はお母さんのだから、万が一壊しても文句は言われないから大丈夫だよ」


「うん、じゃぁお言葉に甘えて見てくるね」


僕は柵を越えてその人形を見に行った。


1メートル位のすごく可愛い人形だった。


元の世界で言うなら、フランス人形と美少女フィギュアを合わせたような人形だった。


もし、この人形が実物の人間なら...凄い美少女だ。


僕はこの人形が欲しくてたまらなくなった。


「あのさぁ、美優ちゃんこの人形が気にいっちゃんたんだけど譲って貰えないかな」


「お兄ちゃん、その人形が気に入ったの? 多分お母さんに言えば貰えると思うけど...美優にも見せてくれる」


「...本当にその人形がお兄ちゃん欲しいの?」


この人形、、凄く気持ち悪い。


目の大きさもおかしいし、これ程気持ち悪い人形は無いと思う。


この人形に比べたら、化け物と言われる私の方が遙かに可愛い...と思う。


「それが気になっていた人形...歩美にも見せて」


これ程気持ち悪い人形見た事無いよ...こんなの子供が見たら、引きつけおこすよ。


「奈々子も見たいです」


うわぁこれは無い、、凄く不気味な人形...見なければ良かった。



「ねぇ、お兄ちゃん、本当にそれが欲しいの?」


「うん」


「じゃぁ、美優がそれ、お母さんから買ってあげるよ....じゃぁお母さんに電話するね」


「もしもし、お母さん、黒木君がお化け屋敷にあった人形が気に入って、欲しいらしいんだけど譲ってくれない?」


「それなら、無料でいいわよ」


「あの、美優が買ってプレゼントしたいから、幾らか言って」


「無料じゃなきゃ譲ってあげないわ...私がプレゼントするんだから」


「お母さんのケチ」


「もしかして、美優ちゃん断られたの?」


「違うんです...あの、無料で良いそうです」


「そうなの? お礼を言いたいから電話変わってもらっても良い?」


「はい」


美優は嫌そうに電話を渡した。


「すいません、無理言って、本当に気に入ったものですから」


「良いのよ、そこに在るものは全部私のだから、欲しいなら何でもあげるわよ? 何だったらネズミ-の着ぐるみだってあげるわよ」


「これだけで大丈夫です。」


「そう、遠慮しなくて良いのに、欲しい物があったら何でも言ってね」


「そんな悪いですよ」


「悪くないわ、、本当に言ってね」


この世界の女は常に男に貢いでいる。


デート、食事、ドライブ、男と遊ぶためには貢ぐしかないのだ。


例えば、男を食事に誘うなら、高級レストランに連れて行き、貴金属、もしくはブランド位のプレゼントは当たり前、場合によってはお金で

50万位渡すのが一般的だ。


「美優ちゃん、今抜け駆けしてお兄ちゃんに貢ごうとしたよね?」


「そうですよ、抜け駆けは厳禁ですよ? 美優様」


「ゴメン謝るよ...だから、奈々子ちゃん...敬語は辞めて...真面目にへこむから」


「うん、反省したなら言わないよ」


「うん、歩美も許してあげる」


「お兄ちゃん、人形は帰りに持って帰るとして、次は何に乗ろうか?」


「そうだね、じゃぁ美優ちゃんが乗りたがっていたジェットコースターに乗ろうか?」


「うん」


僕たちは今、コーヒーカップに乗っている。


そう、乗れなかったんだ、、ジェットコースター、よく考えたら三人とも妹キャラ、その中で歩美ちゃんと美優ちゃんは...俗にいうロリだそう身長制限に見事に引っかった。


コーヒーカップから降りた。


「そろそろお昼だね、お腹すかない?」


「そうだね、歩美はお腹がすいたかな、美優ちゃんと奈々子ちゃんはどう」


「美優も少しお腹すいた」


「私もお腹がすきました」


「じゃぁ何か食べに行こうか?」


ここネズミーランドはお弁当の持ち込み禁止だ。


だから今日は作って来なかった。


「お兄ちゃん、お弁当は?」


「此処ってインターネットで見たら持ち込み禁止って書いてあったよ」


「忘れていました、お母さんに言って持ち込み可にして貰えばよかった。」


お弁当を持ち込めなかったから、レストランに向かった。


ご飯の美味しさよりもその雰囲気が良かった。


テーブルに座って食べるのでいつものあーんは無し。


美優ちゃんは始終落ち込んでいた。


「あぁぁ お母さんに何で私は頼まなかったのでしょうか?」


「仕方ないよ、美優ちゃん、そこまでは考えつかないよ」


「そうだね、歩美もそう思う」


確かに隣にはあーんは出来るけど、それだと二人が可哀想だ。


だから、僕は昔バカップルがやってて羨ましいと思った事を実行する事にした。


僕はウェイトレスさんにストローを4本頼んだ。


そのストローをトロピカルドリンクに刺した。


「さぁ、皆んな飲もうよ」


「「「....」」」


あれっ失敗しちゃったのかな。


「お兄ちゃん、これどうやって飲むのストローが4本刺さっているけど」


そうか、これの意味が解らないんだ。


「これは一緒に飲むんだよ、皆んなほら加えて...」


「うそ、、そんな風に飲んで良いの、奈々子...こんなの知らない」


「えっお兄ちゃんと一緒に飲むんだ...これ...ある意味キスと同じだよね、だって歩美と同じ物を同時に飲むんだから」


「こんなの本でも読んだこと無い」


うん、笑顔になってくれて良かった。


しかし、肝心の食事はしなくなっちゃったな。


さっきからストローから口をはなすのは僕だけなんだけど、しかも減るのが嫌なのか全然ジュースが減らない。


幾らなんでも必死過ぎる。


仕方ない...僕は一旦、口に入ったジュースをそのまま戻した。


「嘘、今、お兄ちゃんの唾液が入ったジュースが戻ったよね...飲まなきゃ」


「じゅーっ、このジュースは奈々子が飲むんだよ」


「ずっずー、急いで飲まないと」


怖い、怖すぎる、なんで、そんな必死にジュースを飲むんだろう?


煽ったのは僕だけど...あっという間にジュースは無くなった。


黒木は知らなかった。


この世界で男性の唾は物凄い価値がある事を。


怖い事に、この世界の男の全てに価値がある。


社会問題になって潰れてしまったが、以前はそういう物を販売しているお店があった。


唾や汗ですら、価値があり美少年ともなれば、唾1CC 汗1CC が10万円以上で取引される。


そういう理由から、男の全てに売れない物が無いと言われていた。


だが、そのせいで、男性を襲って無理やり汗を拭く変質者や、男性の服の盗難が相次ぎ今では、公には無くなった。


食事が終わり、その後は何となく乗り物に乗るより、食べ歩きが中心になった。


全員が、未成年なので貴子が気を利かして、ナイトパレードを夕方から行うように手配されていた。


物凄く豪華なパレードだがなんだか物悲しく感じる。


このパレードが終わると今日は彼女達とはお別れ。


「贅沢になったのかな、この後独りになるのが寂しく感じる」


以前では考えられない事だ。


「どうしたのお兄ちゃん?」


「いや、この花火が終わったらお別れだと思うと少し寂しくてね」


「だったら、歩美と結婚したら良いよ...そうすれば朝から晩まで一緒だよ」


「それを言うなら、私と結婚すればお姉ちゃんも一緒だからもっと楽しいよ」


「そんな事を言うなら、美優と一緒なら家族が全部手に入ります...一番美味しいと思います」



「そうだね、何時かはそうなれたら、、うん幸せだね」


こうして、楽しい妹デーは終わりを告げた。



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