第49話 海にて

海か...僕はなんで楽しみだ、なんて思ったのかな。


今僕は、北條家の用意してくれたバスに乗っている。


バスと言っても、中はまるで応接室みたいな作りだ。


テレビにカラオケ、冷蔵庫、至れり尽くせり。


そして周りには白百合さんを始めとする美人揃い、こんなリア充な状況なのに僕は沈んでいる。


さっき、窓から外を見て知ってしまった。


化け物の群れが大量に海にいる事を...


そうだ、あの時に僕はすっかり忘れていたんだ...


自分の置かれていた状況を...


あの時は白百合さん達の水着姿を思い浮かべて喜んでいたけど、よく考えたら他の化け物達も水着姿、しかも大量発生している。


僕はここに来るまでに何回も吐いた。


最初は景色を見たくて窓際にして貰ったけど、今は内側にいる。


「大丈夫、黒木くん...体調悪そうだね」


「黒木様、体調が悪いなら少し休まれた方が良いかも知れませんわ...良かったら膝を貸しますわよ」


僕は金剛さんに甘えて膝を借りた。


白百合さんが「あっ」と声を出していたが僕には余裕が無かった。


周りが全部、こっちを見ていたが、僕は目を瞑った、少しでもこの恐怖を忘れる為に、、


「黒木様、黒木様 着きましたわ」


「あっ、金剛さん...ごめんね...大変じゃ無かった?」


「大丈夫ですわ、、黒木様の寝顔を近くで見れましたので役得ですわよ」


「そうですよ、金剛さん羨ましすぎるよ」


「第一、第二彼女は良いよね、両隣だから、歩美も隣ならチャンスがあったのに」


「そういう意味では美優は反対側だから黒木君が見れる場所だから...ついていたのかな?」


「まぁ、でも膝枕していた、里香ちゃんの1人勝ちですね、帰りは私がしても良いんですよ?」


「お母さんズルい」


「母さん、私も横暴だと思うぞ」


「まぁ冗談ですよ? 」



良かった。


北條家専用のプライベートビーチだって...化け物と一緒じゃないんだ...


北條家万歳、金持ち万歳...そう言いたくなったがグッと堪える。


ちなみに東吾くんは来ていない。


理由は勿論解っている。


いつもの事だ。


だけど、東吾くんがいたら一緒に恋話とか出来たのに...まぁ好みは合わないけどね。


流石に夜は1人部屋なのかと考えたら少し寂しい。


うん、僕はしっかりと愛だけじゃなく友情にも飢えていたんだな。


まぁ、居ないものを幾ら考えても仕方が無い。


とりあえず、水着に着替えて下に行こう。


水着は貴子さんが用意してくれた。


この世界では男は胸を隠す。


だから、前の世界のスクール水着と競泳の水着に近いデザインだ。


勿論、下は間違っても見えない様に七分だ。


下に行くと、歓声が上がった。


だけど、此処まで隠れているなら、殆ど服と同じだと思う。


それより、困った事に胸を隠してない。


前世で言うと男の水着のデザインを着ている。


デザインはピンクや赤で可愛いのだが。


「どうしたの黒木くん、下なんか向いて」


白百合さんもトップレスだ。


この世界なら自由に見ていいんだけど...やっぱり無理だ。



僕は、目隠ししながら貴子さんに頼んで、皆んなに男物の水着を用意してもらった。


「黒木様のお願いだから着ましたけど、男の水着を着るのってなんだか背徳感がありますわね」


「ごめんね」


「仕方ありませんわ、黒木様がそんなに恥ずかしがりやなんて思いませんでしたわ...女の胸なんて幾らでも見ても良いし、触っても構いませんのに」


「黒木君ってもしかしたら、凄く良い家の出身なんじゃないかな? 確か旧家とかだとお互いに肌を晒さない家もあるんだよね、美優知っているよ」


「そうなのかも知れませんね、確かに温室栽培のように女性にやさしいですから」


「まぁ、いいじゃない、ここはプライベートビーチだから他にだれも居ないから良いんじゃない」


「まぁ、歩美もこれで黒木君とこれで遊べるなら、いいかなって」


「皆んな、ごめんね」


「大丈夫だよ...それだけ黒木くんが私を大切に思っているってことだよね」


「白百合さん...そこは私達ですわよ」


「そうだね、金剛さんごめんね」


プライベートビーチって凄いな、見渡す限り、本当に僕たち以外誰も居ない。


貴子さんに感謝だな。


最近になって思うんだ、今の状況が一番楽しいなって、僕には他の人は化け物にしか見えない。


あの後もインターネットをはじめ、色々な写真集も見たけど、全部の人が化け物にしか見えなかった。


だから、この人たちだけが僕の世界。


全てだと言っても良いのかも知れない。


探せば、まだ居るのかも知れないけど、これ程探して見つからないなら近くには居ないだろう。


最悪、居たとしても外国とかに居たら一生合わないかも知れない。


そう考えたら、この広い世界の中で僕にとって人間に見える人に会えたのは運が良かったとしか思えない。


しかもその全ての人がまるで物語の中から出て来たような綺麗で可愛い人ばかりだ。


正直、この人達とだけで暮らせたら凄く幸せだと思う。


そして、その願いは恐らく、貴子さんに頼めば叶ってしまうと思う。


だけど、僕は貰ってばかりじゃ嫌なんだ...沢山、沢山の愛情を貰っているから、返してあげたいんだ。


何時か愛情を返してあげれる方法が見つかったら...その時は...


「黒木くん、どうしたの考え事?」


「何でもないよ...白百合さん達の事を考えていた」


「私たちの事? どんな事かな?」


「今は内緒、それより白百合さん泳ごうか」


僕は白百合さんの手を取って皆んなの所へ歩き出した。


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