第43話 奈々子の目標

私は行き場を失った。


昨日は黒木さんが来て浮かれていたけど、今日母に事実上の絶縁を言い出された。


美しい者や可愛い者が好きな母には今の醜い私は見たくないのだろう。


息子が欲しいという母の夢は私ではなく京子お姉ちゃんに移った。


それで、母にとって私は不要な物になった。


そして、自殺未遂によって私は顔を失った。


多分、母にとって最期の私の価値...自信が子役時代の容姿に生き写し。


それが無くなったからむ私は無用の物。


いや、幼い自分の姿を壊した、憎い人間になったんだと思う。


病院を出た後、私には行く場所がない。


男に生れたなら、男性保護施設に行けば良いのだが残念ながら女性の保護施設は無い。


どこか住み込みの仕事を探さないといけないがこの姿じゃ何処も雇ってくれないだろう。


乞食になっても、この姿の私にはお金は入らないだろう。


あと3日間で退院...その後は...本当に死ぬしかないのかも知れない。


今思えば、馬鹿な事をしたもんだ。


だけど、姉は凄く優しかった。


帰り際に「お姉ちゃんがどうにかするから」


そう言っていた。


その姿を見て、黒木さんが完璧美少女、そう言った意味が解る。


優しさ、健気さ、尽くす姿、完璧だ。


姉に無かったのは容姿だけだ。


他の男は多分、この容姿が凄く配点が高いのだろう。


だが、黒木さんはこの容姿の配点が凄く低くて5点とかなのかも知れない。


そうすれば、あら不思議95点の美少女だ。


それどころか全く配点が無いのかも知れない。


黒木さんがいう容姿が全く関係ないなら、うん間違いない完璧美少女だ。


見る目が無いのは黒木さんじゃなくて世の中の男なのかも知れない。


完璧美少女を容姿が悪いというだけで捨てるのだから。


凄いな、それしか言えないや。


「本当にどうしよう、恥を忍んで黒木さんに相談しようかな」


ドアのノックの音がした。


誰だろう?


お姉ちゃんかな? もしかして黒木さん?


「どうぞ」


せめて明るく答えた。


2人は私にとって大切な人なのだから。


だが、入ってきたのは見知らぬメイドさんだった。


しかも、私程でないけどブサイクだ。


「あの、どちら様ですか?」


「初めまして、私は北條貴子様にお仕えするメイド頭の白金薫と申します」


「北條貴子...令和の妖怪の?」


「そうですね、確かに奥様の事を世間ではそう言っていますね」


「あの、奈々子は全く面識が無いのだけど、その貴子様がなんのようなの?」


令和の妖怪、世界の黒幕、世界一の金持ち、、、そんな凄い人が私に興味なんて持つのかな?


「奥様の元に黒木様が来られまして、奈々子様の生活をお願いされました」


「黒木さんが...本当に?」


「はい、それでこちらを奥様がお書きになりまして持参しました、詳しい事は私も知りませんのでそちらを確認下さい」


「そうですか、お手紙を態々持ってきてくれたんですか? 有難うございます」


「確かに渡しました、これで私は失礼させて頂きます」


「ありがとう、あれっご苦労様...なんて言えば良いんだろう」


「感謝の言葉は頂きました。じゃぁね奈々子ちゃん今度は同僚として会いましょう」


「なんでしょうか」


「いえいえ、では」


私は手紙を見た。


凄く優しい手紙だった。


化け物屋敷への招待。


つまりは、北條家に住み込みで勤めませんか、というお誘いだった。


書いてある給料や待遇も考えられない程良い。


以前の私ならそれでも化け物屋敷なんか勤めないと断ったかも知れない。


だけど、私も今は化け物。


北條貴子は化け物なんて言うけど...絶対に違う。


この手紙からは凄く優しい人なんだと感じ取れる。


絶対に良い人だ。


それにこれは黒木さんが私の為に頭を下げて貰ってくれた仕事だ。


嬉しい、昨日の夢はまだ続くんだ。


嬉しい、あれ程の美少年が奈々子を気にかけてくれる。


黒木さんは人の事ばかり褒めるけど、、自分が完璧美少年なんじゃないかな?


私も黒木さんみたいに優しい人になりたい。


お姉ちゃんみたいに優しくてよい女になりたい。


黒木さんは100点満点


お姉ちゃんは95点


私は...多分40点、、違う10点だ。


せっかく、メイドとして雇って貰えるならお姉ちゃんみたいになる。


うん、頑張ろう。


奈々子の目には悲惨さは無くなっていた。


その眼は遙か先の目標を見据えていた。


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