第41話 醜くなったら...天国行きだった

その日私は母からの連絡で早退をした。


妹の奈々子がビルから飛び降り、自殺未遂を計ったと言うのだ。


幸い命は助かったけど顔に大怪我を負ったらしい。


理由は解らないけど、私は黒木くんに来て貰おう事にした。


自殺未遂を起こしたという事は原因があるんだと思う。


私や母が言って駄目な事でも男の黒木くんなら聞いてくれる事もあるかも知れない。


そう思い、同行をお願いした。


事情を聴いた僕は白百合さんと一緒に早退をした。


教師に止められると思ったが、簡単に受理して貰えた。


何処までも、男に優しい世界だ。


僕は正直戸惑っている。


白百合さんの妹だ、怪我した時位は優しくしてあげたい。


まして自殺未遂までしたんだ優しくしてあげる必要が絶対にある。


だけど、僕にできるのだろうか?


あの化け物のような奈々子に優しくなんて出来るのだろうか?


だが、泣いている白百合さんに一人で行けなんて言えなくて、、病院にいる。


僕と白百合さんを見つけた佐和子は笑顔で近づいてきた。


おかしい...何で娘が自殺未遂までしたのに笑顔なんだ。


「京子、本当にすまなかったわね、勉強中に呼び出したりして、黒木さんも娘についてきてくれてありがとう」


「それで、奈々子はお母さん、大丈夫なの?」


「命はね...だけどあのバカ娘、よりによって顔から落ちたから...女としての一生は終わり...本当に馬鹿な娘」


なんで、ここまで辛辣なんだ。


親子の愛情なんて無いのか。


「そんなに大変な事になっているのですか?」


「顔が半分...崩れているのよ...なんであんな馬鹿な事したのかしら...あれなら死んでくれた方がましだわ...何処かに捨てたい位よ 幸い、京子が頑張って黒木さんと付き合っているから良いけど...本当に馬鹿な事してくれたわ...正直顔も見たくないわ」


これじゃ奈々子ちゃんが可哀想だ。


幾ら化け物だからって、家族から見放された女の子は見捨てられない。


「お見舞いをしても良いですか?」


「さっき、意識を取り戻したみたいだし大丈夫じゃないかしら? 私はここに居るから二人で行ってくれば良いんじゃない?」


部屋は個室だった。


白百合さんはドアをノックした。


「どうぞ...」


力の無い声がかえってくる。


あの自信に溢れた明るい感じの声ではない。


「あっ、お姉ちゃん...黒木さん!...嫌っ見ないで」


奈々子ちゃんは布団を被った。


ここで帰る事なんて出来ない。


さっきの母親の態度で何となく解かった。


彼女は母親から見捨てられたのかも知れない。


原因は解らない。


でも以前の佐和子は物凄く奈々子をを可愛がっていた気がした。


だけど、今日の佐和子からは一切の愛情が見えなかった。


その原因は、僕の可能性もある。


僕から見てブサイクでも醜くても白百合さんの妹だ。


孤独の寂しさは前の世界で嫌になるほど味わった。


どんなに醜くても、こんな子を一人にしちゃ駄目だ。


僕は無理やり布団をはぎ取った。


目のやり場に困った。


その理由は彼女が寝間着を着ていないで包帯に巻かれていたから。


お腹や胸の一部が見えていた。


前の世界なら間違いなくセクハラ扱いだ。


彼女は両手で顔を隠している。


手からはみ出た血だらけの包帯が痛々しい。


「黒木くん、やめてあげて」


「ごめん、白百合さん...辞められない」


「なんで、こんな嫌がる事する黒木くんなんて...黒木くんじゃない」


「それでも辞めない...白百合さんも僕の彼女なら僕を信じて」


「二人して奈々子を馬鹿にしにきたんでしょう?...良いよ、幾らでも馬鹿にすれば良いよ、私、お姉ちゃん以上の化け物みたいになったんだから...見たいんでしょう! 見れば良いじゃない! ねぇ化け物みたいになった私がみたいんでしょう...ほら」


僕は自分の目のおかしさに初めて感謝した。


美少女ミイラが目の前にいる。


やや茶髪で、ちょっと生意気そうだけど...原宿とか渋谷に居そうな美少女だ。


「私は、馬鹿になんてしない! 私だって不細工だもん」


「だけど、私は化け物にしか見えないもん、夜、子供がこの顔みたら泣くんじゃないかな」


私は奈々子に何も言えなくなった。流石に顔に大怪我を負った状態では何を言っても無駄だろう。


治らないのを知っていて大丈夫なんて言えない。


「もう見たから良いでしょう! もう帰って、帰ってよ」


「そう、僕はもう少しここに居たいんだけど...駄目?」


「悪趣味...醜くなった奈々子をそんなに辱めたいの? 黒木さんって顔は良くても、性格は凄く悪いんだね」


「そうかもね、だけど醜い子って何処にいるの?」


「黒木くん、いい加減にして! それ以上奈々子を馬鹿にしたら...幾ら黒木くんでも怒るよ!」


「お姉ちゃん...良いよ...本当に奈々子は...もう良いよ...好きなだけ見れば...化け物がみたいんだよね黒木くんは...好きなだけ見れば良いよ...その代わり二度と来ないで」


「嫌だ」


「黒木くん...そんな人だったんだ...私の好きな黒木くんじゃない...なんでそんなに奈々子を虐めるの」


僕には血だらけの小悪魔系の美少女が包帯を巻いているようにしか見えない。


だけど、言っても無駄なんだろうね。


僕にここまで可愛く見えるという事は、とてつもなく醜くなったという事だろうから。


「白百合さん、少し黙って、奈々子ちゃん、少し話良いかな?」


「嫌だって言っても、無理やり聞かせるんでしょう? 言えば良いじゃない!」


「まず、僕は人を一切外見では判断しない」


「幾ら何でも...嘘だよ...普通のブサイクならともかく化け物だよ...顔が崩れているんだよ、奈々子は、もう学校にも行けないよ...これじゃ...だれも奈々子なんか相手にしてくれない」


「僕だけじゃ不満かな」


「不満な訳ない...だけど、どうせ騙すんでしょう? 二人して笑いものにするんでしょう? されても仕方ないよ、私だってお姉ちゃんを馬鹿にしてたからさ、...良いよ...どうせ私は...化け物なんだもん」


「そう、じゃぁ何しても良いんだ」


「勝手にすれば、何するのか知らないけど、どうぞ」


「そうするよ...チュッ」


僕は奈々子ちゃんの頬っぺたにキスをした。


「嘘、...それってキス」


「何しても良いんだよね、、」


今度は包帯の上から額にキスをした。


「ちょっ、ちょっと待って、黒木さん...なんで奈々子にキスしているの? そうだ、私多分死んでいるんだ、死んでいるからこんな幻想見ているんだ」


「死んでないよ? ほら僕はここに居るよ」


僕は奈々子の手をとり自分の頬っぺたを触らせた。


「黒木さん...これは一体...何なの...ねぇ...まさか本気なの?」


「散々、付き合って欲しいような事いっていたのに...心変わりするの? その程度だったんだ」


「違う、奈々子は今だって」


「そう、だったら妹から始めない?」


「妹? キスまでしてくれたのに妹なの...なんで?」


「そうだよ妹、だって僕は奈々子ちゃんのこと知らないから、妹兼、友達から付き合ってみない?」


「本当に、付き合ってくれるの? 私頑張るよ、化け物みたいになっちゃったけど、、それでも良いなら絶対に頑張る」


「それじゃぁちょっと出かけてくるね」


「あぁ...あそこまで期待させて、馬鹿にして...もう気が済んだでしょう? お姉ちゃんも出て行って」


「出て行かないよ、だって黒木くん帰って来るもの」


「私を喜ばせてから、地獄に落とすんだ...そこまで酷い事した覚えはないよ...お姉ちゃん」


「断言してあげる...これから暫くしたら奈々子は夢の様な体験をするって」


「悪夢をみるだけだよ」


「そうかな? ほら帰ってきたじゃない」


「本当だ、、嘘、、本当に戻ってきてくれた...だけど黒木さん、それなに?」


「うん、ヨーグルトにプリン、怪我した奈々子ちゃんでもこの位なら食べれるよね」


「大丈夫だけど、お見舞い、そうかお見舞いを忘れたから買いにいったんだね、、疑ってごめんなさい」


「うん、それじゃ...あーん」


「お姉ちゃん、これってなに」


「なにって、ほら奈々子口をあける」


「はい、あー」


嘘、黒木さんが食べさせてくれるの? 嘘、こんな事してくれるなら絶対に嫌われてない。


いや、好かれているよ。


そう言えば、さっきキスまでしてくれたんだ。


「はい、もう一口 あーん」


「あーん」


結局プリン2個とヨーグルト1個を食べちゃった。


黒木さんは外見で人を判断しない。


お姉ちゃんはそう言っていたっけ。


昔の私は凄く性格が悪かったのかも知れない。


お姉ちゃんから彼氏の黒木さんを取り上げようとしたり本当に最悪の女だったんだ。


だけど、今の私はどうなのかな...多分、お姉ちゃんの気持ちが解って少しは反省したのかも知れない。


物凄く気持ち悪い顔になったけど、、黒木さんが居てくれるなら...その方が幸せだ。


お姉ちゃんはきっと私にチャンスをくれたんだ。


そうじゃなきゃ、自殺未遂の私の所に黒木さんを連れてくるはずがない。


しかも、黒木さんが私を虐めていると思って怒ってくれた。


私には出来ないな。


だって、それで好きな人に嫌われたらと思ったら、怖くて言えないよ。


なんだ、私しっかりお姉ちゃんに愛されているじゃん。



「まず、僕は人を一切外見では判断しない」


本当にそうなんだ。


まずいじゃん。


私多分、性格そんなに良くない。


料理はお姉ちゃんに敵わない。


あの優しい姉のようにならないといけないのかな?


私になれるのかな?



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