第40話 さよなら お姉ちゃん

最近、私はお姉ちゃんが羨ましくてしょうがない。


正直言ってお姉ちゃんはブサイクの極みだ。


お姉ちゃんに匹敵するほど醜い女はまずいない。


それに対して私は勝ち組だと思う。


母であり、子役出身のアイドル、佐和子にそっくりな顔立ち。


間違いなく、私は美少女だ。


ブサイクな男なら確実にゲットできる。


それどころか、普通の男の子である知君ともつきあっていた。


家の中でも中心はいつも私だった。


息子が欲しいお母さんはいつでも私の味方だった。


あの時までは。


ブサイクなお姉ちゃんに弁友が出来た。


ブサイクで醜い姉の事だ、相手はさぞかしブサイクに違いない。


母も私もそう思っていた。


だが、お姉ちゃんの弁友は、この世の物とは思えない程の美形だった。


彼に比べたら、テレビで見たアイドルでさえブサイクになるだろう。


正直、その美しさは称えようがない。


最初、お母さんは確実に彼を手に入れる為に、ブサイクな姉でなく私を彼女にしようとしていた。


私も黒木さんを狙ってみた。


酷い事をしたと思う、やっと出来た姉の彼氏を奪おうとしたのだから。


だけど、その勝負に負けたのは私だった。


黒木さんはしっかりと答えた。


「僕は外見だけでなく京子さんの全てが好きなんです」


女に生れたなら一度は夢見る言葉だ。


実際にこんな言葉を言う男を私は見た事が無い。


羨ましくてしょうがない。


お母さんはもう二人を応援する側に寝返った。


可愛い息子が手に入るかも知れない。


寝返るのは当たり前だ。


しかも、その後の2人の熱々っぷりを聞いたら、凄く嬉しそうだった。


そりゃそうだ、あんなに仲が良いのだ、その姿にお母さんは結婚まで時間の問題、そう思ったに違いない。


あれ程、愛おしそうな目で黒木さんはお姉ちゃんを見ているんだ、誰でも解る。


そして、今迄私の居た家族の位置はお姉ちゃんに奪われた。


今では、お母さんはお姉ちゃんに付きっきりだ。


「ねぇ京子、その黒木君とは旨くいっているの? 歓迎するから連れてこれない?」


お姉ちゃんはいつも嫌そうな顔をする。


そりゃ、そうだ、せっかくできた彼氏を私とお母さんで盗ろうとしたんだ、嫌がれて当たり前だ。


「うん、旨くいっているよ、他にも彼女はできちゃったけど、しっかり第一彼女だし。何時も愛して貰っているよ、だけど余り黒木くんは家にきたくないみたいなんだよね」


もう、お姉ちゃんにかっての暗さは全くない。


自信満々に答えるのだ。


「そうなんだ、だけど母さんも黒木さんに会いたいのよ、又今度誘ってくれないかしら」


「解ったよ、また今度誘ってみるよ」


嘘だ、誘うもんか。


お母さん、忘れたのかな、私とお母さんで黒木さんを取り上げようとしたんだよ?


連れてくるわけ無いじゃん。


「楽しみにしているわ、京子は私の夢を叶えてくれる、本当に良い娘に育ったわね」


それ、少し前に私に言っていた言葉だよね。


最近になって解ったんだ。


お姉ちゃん、凄く辛かったんだなって。


家族の中では殆どいないもの扱い。


目の前にいるのに、ただ居るだけ。


優しい顔で母さんは語りかけてくるけど、能面にしか見えない。


優しく見えるけど何も期待しない目。


そして哀れみの目。


こんな生活をお姉ちゃんは送っていたんだ。


私はなんでお姉ちゃんに優しくしなかったのかな?


何で黒木さんを取り上げようとしたのかな?


ちゃんとした妹として...姉として扱っていたら、お姉ちゃんは優しいからあの輪の中に入れてくれたかも知れない。


黒木さんを見てしまったから、もう知君には何も感じなくなっちゃった。


知君以外の男も全部価値なんてない。


だって黒木さんみたいに本当に女を愛していないんだもの。


本物を見てしまったから、もう偽物じゃ満足できないと思う。


お姉ちゃんは、今光の中で生きている。毎日幸せそうだ。


でも私は 闇の中にいるんだ。


だけど、こうなる前は...お姉ちゃんはもっと暗い闇の中にいたんだと思う。


永遠に誰からも愛されない、そういう闇の中に。


お姉ちゃんは強かったんだね。


こんな地獄が永遠に続く恐怖に耐えて生きていたんだから。


私は...駄目だ...


生きていけないよ..

.

誰も私なんか見てくれない世界じゃ...


生きていけない...


だから...さようなら...グチャ


その日 奈々子はビルから飛び降りた。




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