第39話 キスキスキス

「黒木くん、なにか私に言わなきゃいけない事があるんじゃない?」


今日のお昼は白百合さんの不機嫌な顔からスタートした。


金剛さんの方を見る。


明かに金剛さんも、私も不機嫌なんですの、そんな顔でこっちを見ている。


歩美ちゃんは涙目で下側から覗き込んでくる。


「黒木君、私は恋人兼、姉なんだろう? だったら隠し事は無しにしてくれ」


僕は本当に困った。


心当たりは、ある。


もし、彼女達を怒らせるような事をしたならば北條邸での事だ。


だけど、行く事はちゃんと彼女達に許可を取った。


責められる謂れは無いと思う。


中で何があったかは、知らない筈だ。


どうすれば良いのだろうか?


「えっと、北條家に遊びに行った時の事かな?」


「そうですわ...私達を差し置いて...あんな破廉恥な事を」


「それを、なんで知っているの?」


「それはですね、貴子さまが自慢げにうちの母に...黒木様とキスをしたと話してきたのですわ」


小百合さんと貴子さんって知り合いだったのか、まずい、まずい、まずい、確かにあの時僕は調子に乗っていた。


キスをしまくっていた。


「認めますの?」


「認めます...だけど弁解させて貰っていいかな?」


「黒木くん、私達彼女だってキスをして貰ってないのに...酷い」


「お兄ちゃん...酷いよ」


「何を弁解したいんだ黒木君は...」


「あれは親しい人へのキスで恋人へのキスではありません」(汗)


「黒木くん...キスにそんな差は無いよ? どう差があるの、あるのなら言ってみて」


「北條家でしたのは頬っぺたや額へのキス」


「ほら、やっぱりキスしたんじゃない? それがどう違うの」


「白百合さん...これが恋人にするキスだよ」


僕は白百合さんの口にキスした。


「うぐ...んんんん ぷはぁ」


「「「.......」」」


「...」


「おーい、白百合さん」


もしかして気絶しているのかな?


仕方ないな。


もう一回、軽くキスした。


「あれっ...今、私キスされたんだ...心臓が止まるかと思った」


「これが、恋人どおしでするキス、解ってくれた?」


白百合さんは頭をカクカクと縦に振った。


「ちなみに、口にしたキスは白百合さんが初めてだから...ファーストキスだよ」


白百合さんは鼻血を出すとまた気絶してしまった。


「黒木様...ずるいのですわ...確かに白百合さんが第一彼女ですが、二回も続けてなんて、なんて、なんて」


「そう、じゃぁ金剛さんには...チュッ...うぐ」


「えっ...うぐ...うぐ...ぷはぁ」


金剛さんには首筋にキスしてから口にキスをした。


「黒木様...黒木様...にキスされた、キスされ...きゅぅ」


鼻血だして倒れてしまった。


「つ、次は私の番です」


「そうだね歩美ちゃんには僕からでなく、歩美ちゃんからキスして欲しいな?」


「あああ歩美からするの?」


「うん、駄目」


僕は歩美ちゃんがよくするように下から覗き込んだ。


ずるい、ずるいよあんな顔されたら駄目なんて言えない。


恥ずかしくて顔が見れない。


体が震えちゃう。


どうしよう、どうしよう?


「あっ、ついでにお兄ちゃん愛している、そう言ってからね」


「おおおお兄ちゃん愛していりゅ」


噛んだ。可愛いな本当に。


しかし、いつまで経ってもキスしてこない。


仕方ない。


「歩美ちゃん、時間切れ」


「そんな、お兄ちゃ...んぐ、んぐんん」


「んぐ、んぐんん、待ちきれないからこっちからしちゃった」


歩美ちゃんは鼻血を垂らしてえへへと言いながらしゃがみこんだ。


「あのぉ 黒木君...私は、その」


「うん、勿論するに決まっているよ?」


僕は東条さんの頭に手を回してそのままキスをした。


「うん...うん、うぐ..うぐうんんん」


東条さんはそのまま気絶した。


流石クールビューティー 鼻血は出していない。


しかし、キスで気絶なんて、この世界の女性はなんて男性に耐性がないんだろうか。


黒木は知らない。


この世界の女性で男性にキスなんてして貰える女性なんて殆ど居ない事を。


仲の良いおしどり夫婦が、妻の誕生日に頬っぺたに軽くキスするその位の物だ。


つまり、結婚して妻になっても、余程愛しあっていないとして貰えない。


中には、死ぬまでキスをしない夫婦もいる。


だから、他の女にキスをしたと聞いた時の彼女達は黒木が思った以上に怒っていた。


つまり、頬っぺたへのキスも額にキスも完全に愛し合う者が行うキスだ。


では、口へのキスはどうなのか?


してくれる男など居ない、冗談で無く居ない。


少なくても目にした人は殆どいないはずだ。


もし、どうしてもという話なら、考えられない金額がつくと思われる。


実際に無理やり、男にキスをしようとした女が無期懲役になった。


未遂でそれなのだ、、どれ程凄い事か解ると思う。


一番最初に金剛さんが復帰してきた。


「あれっ、私くしは何を...そうですわ...謝りますわ...黒木様、これが恋人にするキスだというのであれば通常のキスは...違いますわね」


駄目ですわ、顔が赤くなって旨く喋れなくなる。


お顔が見られませんですわ。


さっきから唇に目がいってしまいますわ。


黒木は勘違いをした。


「あれっ もう一回キスをした方が良いのかな? チュッ」


今度は流石に軽くフレンチキスをした。


「あぁ...これなら、何とか...何とか...何とか耐えられましてよ」


「そう、良かった」


「黒木くん、ごめんなさい...私、こんなに大事にされていて、こんなに大切に思われているのに、それなのに疑ったりして...だけど、心配なの、いつか黒木君が私の前から居なくなっちゃうんじゃないかって...本当にごめんなさい」


「仕方ないな、白百合さんは、大丈夫だよ、僕は何処にもいかないから」


「うん、解った」


「心配なら、もう一度キスしようか?」


「それは...その」


白百合さんがモジモジしだした。


「残念、時間切れです」


「えっ、そんな、チュッ」


「待ちきれないから僕からしました」


「はっはっ...もう心臓が止まるかと思っちゃったよ」


「歩美ちゃんも東条さんも起きて来ないね」


「仕方ありませんわ、あれは強烈ですもの」


「そうだよ黒木君、嬉しいけど、本当に驚くもん」


仕方ない二人にも


「「何するの(んですの)」」


お姫様をおこすのは王子のキスが定番だから。


「白百合さん...王子がキスする話なんて知っていますか?」


「知らない、そんな話があるなら絶対に本を買うもん」


「ですわよね...そんなお王子が主人公じゃリアリティがないですわ」


「ほら歩美ちゃん、寝ていると風邪をひくよ? チュッ」


「くくくく黒木お兄ちゃん、またキスをした...」


「うん、だけどもう倒れないでね」


「大丈夫だよ、歩美、倒れたりしないよ」


「東条さんももう起きて...ほら」


「あれっ、私にはキスはないのかな」


「うん、薄目開けて起きているのが解っていたしね」


「そんな...」


「はい、チュッ」


「ああああ、不意打ちはじゅるいと思います」


「あははははは、東条さん面白い」



「金剛さん」


「どうしたのですか?白百合さん」


「私達っていつからこんなに贅沢になったのかな?」


「どうしたのですかいきなり」


「だって、少し前まで、男の子の友達なんて一生できないって思っていたんだよ」


「同じですわね」


「だけど、黒木くんと友達になって、弁友になって、毎日一緒に過ごして」


「そうですわね」


「それだけでも感謝しなきゃいけないのに彼氏になって貰って」


「.......」


「なのに、今度はやきもちまで」


「私くしも焼きましたわ」


「普通なら、もっと沢山の彼女がいるのが当たり前なのに、」


「そうですわね」


「本当に贅沢だよね、、こんな生活、世界一の美少女でも送れないんじゃないかな?」


「そうかも知れませんわね」


「二人とも深く考えすぎだよ。歩美はねお兄ちゃんが嬉しそうならそれで良いと思うよ? それが一番なんじゃないかな?」


「そうだな、私もそう思うぞ」


「その通りですわ」


「私、思うんだ、黒木君は寂しがりやだから、本当は家族が沢山欲しいんじゃないかって」


「そうですわね」


「だから、5人に限らず、黒木君の好きになった人とは全員家族になろうと思うの」


「白百合さん、何をいっているのかな? そんなの当たり前じゃない。歩美は最初からそう考えていたよ?」


「あれ程の美男子5人で済む訳ないだろう」


「その通りですわ、ですが暫くは人数は少ない方が良いですわね」


「そうだね、流石 お姉ちゃん」


「私くし、貴方の事嫌いではありませんわ...ですが...お姉ちゃんは辞めて..下さいまし...」


「そう、残念」


「うん、皆んななに話しているの?」


「「「「何でもありません(せんわ)」」」


この日の彼女達は一日中幸せそうだった。


但し、周りの人間からは気持ち悪さ倍増だった。




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