第38話 白百合アタック 失敗(北條東吾)

俺は翔くんが帰った後の家族を見て驚いた。


相変わらず気持ち悪くて仕方がないが、三人共に物凄く機嫌が良い。


母は恐ろしい笑顔で笑いっぱなしだし、姉はクネクネしながら自分を抱きしめている。


妹はニコニコ笑って気が付くとよだれが垂れている。


まぁ、翔くんからキスされたのだからそりゃ頭もおかしくなるだろう。


幸せ?...うん幸せそうでなによりだ。


だけど、これを俺が望んでいたのかな...違う気もするが、まぁいいや。


「東吾、良い所にきましたね、お小遣いです」


まじか...どう見ても2億はある。


「母さんが1億、私と美優で5千万ずつ併せて2億...これ位がいいかな? もっと欲しいならあげても良いけど」


「そうそう、お兄ちゃんが黒木くんを連れてきてくれたんだから...感謝の気持ちだよ」


正直、毎月の300万円だけでも充分なんだがな、翔くん以外友達は居ないから使う事もないし。


「別に、友達を連れてきただけだから、要らない」


「そう、なら貴方の口座に入れておくから使いたい時に使いなさい」


この三人には俺とは違い金儲けの恐ろしい才能がある。


母は財閥の頭だから当たり前だが、姉も妹もおかしい位に金儲けが旨い。


投資を行い、事業を起こして簡単にお金を稼ぐ。


僅か10万円足らずのお金から気が付いたら、2人とも200億以上の資産を稼いでいた。


部屋を見ても投資の本すら無いのに...不思議としか思えない。


機嫌が良かろうが、怖くて気持ち悪いのは変わらない。


だが、俺は自分が耐えられる限界までこの部屋にいた。


「東吾、まだ居たのですか? 貴方が私たちの傍にいるなんて珍しいですね」


「いえ、これで失礼させて頂きます」



俺はトイレに入ると...吐いた。


胃の中に入っていた物は全部吐いた。


10分、俺にしては頑張った方だろう。


そして、メイドの三人もすこぶる機嫌が良い。


白百合達はこのレベルの醜さだ。


なら、このメイド達に囲まれて堪えられれば白百合たちの醜さにも耐えられるはずだ。


「すまないが、今日は食事の間給仕をしてくれないか?」


「珍しいですね...まぁメイドですからその位はしますが...お互いに実りがないと思いますが」


食べた気がしない...駄目だ、、


「すまない...もういい」


「そうですか」


不機嫌そうに彼女達は立ち去った。


俺はまたトイレに駆け込むことになった。


次の日、俺は、白百合アタックをする事にした。


白百合アタックとは、白百合達と付き合えるように耐性を付ける事だ。


翔くんの周りにはかならず、彼奴らがいる。


親友として振舞うには翔くんの彼女達にもそれなりに敬意を払うべきだろう。


せめて、1時間、一緒の空間に居ても大丈夫位な耐性は必要だ。


そうすれば、お昼を一緒にとる事も出来るだろう。


白百合アタックといっても第一婦人が白百合だからで、別の人間でも構わない。


自分に一番近い人間は...金剛だ。


金剛家は実業家どうし、多少の付き合いはある。


廊下で金剛を見かけた。


チャンスだ声を掛けないと...


「金剛さん、ちょっと良いかな?」


「北條...なにかようなのかしら? 正直、気持ち悪いから話したくないけど...黒木様の友達だから仕方ないですわね、、ようがあるなら言いなさい」


「あのさぁ...おえっ...ゴメン...いい」


「そう、ならいきますわ、」


俺はトイレに駆け込んだ。


胃の中の物を全部ぶちまけた。


もう吐く物は無い、次は少しは耐えられるだろう。


「西城さん、少し良いかな」


「歩美になにかようなのかな?...げっ北條東吾...」


気持ち悪い、だけど、此奴は黒木君の友達だ。我慢、我慢。


「いや、翔くんの彼女だから...友達と...うぇぇぇ...ごめんやっぱりいい」


「なんで吐いているの、キモイ」


俺は走り出すとまたトイレに駆け込んだ。


男子用のトイレは少ないから、上着はゲロまみれだ。


しょうがない、今日はもう帰ろう。


寒気や拒絶反応は我慢できるが、その後の吐き気はどうする事も出来ない。


そして、まともに喋れないんじゃ無理だ...白百合アタックどころか、まだましな金剛や西城で挫折だ。


諦めよう。


だが、おかしい、彼奴らはなんで大丈夫なんだ。


例えば、翔くんの彼女達だ、翔くんを中心に4人は普通に仲良くしている。


三人のメイドは仲間意識があって仲がいい。


うちの家族も三人仲がいい。


もしかしたら同性なら同じ位のレベルの醜さなら気持ち悪くならないのか?


そう考えたら...男に生れて醜い俺にはああいう仲間は出来ない。


何しろ、俺以外の男は少なくとも数人の女を侍らす事が出来ている。


俺ほどブサイクな男はこの世に居ないだろう。


やはり...俺は北條なんだな。


おかしい、他の人間も彼女達を見たら、同じ様な気持ち悪さを覚えるだろう。


だけど、俺みたいに吐いた人間は見た事が無いぞ。


まぁ、近づかないからなのかも知れないが...


俺だけ何かが違うのか?


まぁ深く考えても仕方ない。


目の保養の為に湯浅萌子でも遠目で見てみるかな?



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