第36話 パラダイス

「翔くん、悪いけど俺は用事があるから失礼するよ、母さん、後は頼むね」


「任されましたわ」


俺はここに居たくない。


すぐにでも逃げ出したい。


流石に翔くんのお弁当を逃しても居たくない。


1人でも恐ろしいのにここには、母さんから美優、玲奈がいる。


そして3人の化け物メイド迄揃っている。


正直、何時もの翔くんのメンバーなんてこれに比べたら可愛いもんだ。


彼奴らとなら、嫌な気持ちはこみ上がるが、一緒に居ても我慢ができる。


吐き気がするだけで、気持ちが悪いだけで耐えられる。


だが、このメンバーなら本当に吐く。


多分一口も食べられない。


体はもう寒気が止まらない。


肌にはこれでもかと鳥肌がたっている。


「東吾はもう下がった方がいいな、これから忙しいんだろう」


玲奈姉さん、感謝だ。


「悪いな翔くん、後は俺の家族と楽しんでくれ」


「うん、悪いねそんなに忙しいのにつき合わせちゃって」


「俺から誘ったんだ、、いいさ、じゃぁ翔くん、また明日」


「うん、また明日」


しかし、見れば見るほど壮大だな。


真ん中に女神のような貴子さん。


その右にはバルキリーみたいな玲奈さん。


その左には天使みたいな美優ちゃんがいる。


そして、その後ろには美しい三人のメイドがいる。


ここだけ見たら、まるで勇者として召喚された雰囲気だ。


「私はこの世界の女神をしている貴子といいます」


そんな話をされても信じてしまう位絵になっている。


「あの、黒木様、どうかされたのですか? 顔が赤いですよ」


「いや、皆さんに見惚れてしまっていただけです、気にしないで下さい」


「そうですか...」


気にしないでいられるわけないでしょう?


そんな目で見ないでください、、体の芯から熱くなってしまいます。


東吾が言っていた、これは翔くんだから...それしか考えられない。


さっきは気が付かなかったけど、こんな目をした人が私を気持ち悪いなんて思っているわけない。


ふぇぇ、凄く優しい目だ、やだ、さっきの事思い出しちゃうよ。



「これが...男性の手作り弁当なのですか?」


「ここには、本職のメイドさんがいるから拙い物ですが食べて頂けませんか?」


「いいの、いいの、これ本当に食べていいの」


「本当にお弁当だ...凄いな」


「美優、男の人の手料理、なんて初めて、早く食べたい」


「それじゃあ、まずは貴子さんから、どれが食べたい」


「私はハンバーグがよいわ」


なんで、聞くの箸を渡してくれれば良いのに


「じゃぁ、貴子さん、あーん」


何これ、何これ、何、何、何、何、


「あーん」


美味しい、こんな食べさせられ方したら石鹸だって美味しく食べちゃうと思う。


「美優は卵焼きが食べたい」


「じゃぁ はい美優ちゃん、あーん」


凄く、美味しい...なんでか知らないけど...これ美味しすぎるよ。



「あの黒木くん...私は肉団子」


「はい」


「何で、箸を渡すのさ...あーん、してくれないの?」


「嘘です、はい あーん 意地悪されたからお返しですよ」


「酷いな...でもゴメン...この通り」


「じゃぁさっきのお返しが欲しいな」


お金とかかな、ほっぺにキスだから10億円くらいかな。


まぁ大した痛手じゃないけど...


「はいっ」


僕は自分の頬っぺたを突っついた。


えっえっ...これって...何...


「お返しは僕がしたのと同じように頬っぺたへのキスです」


「あのさぁ...それ本気なの?」


「同じ事返してって言うのは普通じゃない?」


普通じゃないよそれは。


男のキスが太陽と同じ位価値があるとすれば女のキスの価値なんて石ころみたいなものだ。


まして醜い私のキスなんか...ゲロ以下の価値しかない。


でも、それでも欲しがったんだよな、黒木くんは、、


「解った...行くよ...ぶちゅ」


黒木君が笑った。


仕方ないじゃないか?


キスなんて縁のない世界で生きているんだからさぁ。


旨く出来る訳ないだろう。


「僕より、深いキスだったからお返しが必要ですね チュッ」


わーわーわー...キスされた、今日1日で2回も...


私、死ぬのかな...こんなにラッキーなんだもん。


あれっ...ヤバイヤバイヤバイ...悪魔が5人こちらを見ている。


精神的にではなく物理的に殺されるかも知れない。


「黒木くん、なんでお姉ちゃんになんかキスしたの? 美優のこと可愛いって言ったのは嘘なの?」


「美優ちゃんにもキスしても良いの?じゃあ、ここが良いかな チュッ」


嘘、おでこにキスされた、うん、黒木くんはやっぱり、美優の黒木くんだ。


「美優もしてあげるね、だから屈んで」


僕が屈むと同じように額にキスをしてくれた。


2人とも顔が真っ赤だ。


「あの...黒木さん...私にはそのしないのですか」


僕は貴子さんを抱きしめて同じ様に頬っぺたにキスをした。


同じ様に貴子さんも頬っぺたにキスを返してくれた。


メイドさんの三人は食い入るように見ていた。


楽しい食事の時間は過ぎていった。


「さぁ何しようか、皆んなは何かしたい事がある」


「その前に黒木様、私たちはまだ、お弁当の代金を払っていません」


「そうだったね...だけど別に良く」


「良くありません...すぐに準備しますので少し待って下さい」


前の世界で秋葉原の看板にあった事をそのまま伝えてしまったけど、膝枕と耳かきってワンセットだよね。


結局はお茶を薫さんが用意してくれて二人で堪能した後、仁美さんとナンシーさんが片耳づつ耳掃除をしてくれた。


薫さんが少し機嫌が悪そうだったけど、三人で役割を決めたみたいだから口出しをしない。


逆に、今度は貴子さん達三人が食い入るように見ていた。


その後、トランプで遊んだのだけど、勝った人が他の人に一つ命令できる。


そんなルールにしたら、凄い緊迫したゲームになった。


結局、僕は勝てなかったけど、お願い事が膝枕や頭を撫でる。


ばかりだったので楽しかった。


楽しい時間はすぐに過ぎていった。


僕が帰る時にはリムジンで施設まで送ってくれた。


車を運転していた仁美さんが僕の住んでいるのが施設だと解ると悲しそうな顔をした気がする。


僕は施設の自分の部屋に明かりをつけると...寂しくなった。

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