第34話 女神降臨

東吾くんを校門の前で待っているとリムジンが止まった。


うん、金剛さんの時と同じだ。


「翔くん、さぁ行こう」


「凄いねこの車」


「まぁ俺は一応、北條だからな」


確かに、東吾くんの家は天下の北條グループだから当たり前か。


しかし、財閥の跡取り息子なのになんで、東吾くんは人気が無いのだろうか?


流れるようにしなやかな髪に、綺麗な瞳...前の世界なら確実に王子様キャラだ。


それこそ、完璧なリア充だろう。


確かにこの世界では醜いのかも知れない。


だけど、財閥の跡取り息子だよ?


本来なら、金目当ての女が幾らでも集まってくるだろう。


だが、それすらも彼には無いらしい。


性格は少なくとも悪いとは思えないんだけどな。


「さぁ、冷たい物もあるから乗れ」


「うん、ありがとう」


「あらかじめ言っておく、俺の家族は俺と比べても醜いんだ」


「そうなの」


なにそれ、期待しちゃうな...東吾くんより醜いなら...僕にも人間に見える可能性がある。


「あぁ、俺の家族は皆んなブサイクだ、その...お前の彼女達と比べても上を行く、使用人も母が醜い者しか雇わないから...ブサイクな者しか居ない...騙したようで済まない」


もしかして...そこは天国なんじゃないかな...楽しみだ。


車で20分。


東吾くんの家に着いた。


正直凄く驚いた。


金剛さんの家を見た時にも驚いたけど、その何倍もあるような屋敷というよりお城というような家だった。


「流石、北條家、凄い屋敷だね」


「大きいだけだ、使用人が少ないから半分も使っていない」


「なんで、使用人が少ないの?」


「ここは、化け物屋敷なんてあだ名がついているからな、特に母の容姿は、、もの凄く醜い。令和の妖怪と呼ばれている。その母や姉妹の醜さを気にしないでくれる者、更に自分の容姿の醜い者のみしか採用しない、だからだ」


「そうなんだ」


凄いな、それなら白百合さん並みの美少女が居るかも知れない。


大きな玄関に三人のメイドさんが居た。


化け物じゃない。


ちゃんとした人間、しかも美少女2人と美熟女1人。


ここは...やはり天国なのか?


「お帰りなさいませ、、おぼっちゃま」


「うむ、今日は友達を連れてきたんだ、宜しく頼むよ」


「はい、貴子様より聞いております、私たちは余り、顔を出さないように致します」


「そうだな」


「東吾くん、東吾くん、この人達紹介して」


こんな凄い美人、知り合いになりたい。



それ以前に久々に見る【化け物じゃない人】だ。



「なっ、どうしたんだ急に」


翔くん、どうしたんだ?


湯浅萌子の時ですらクールが君がこの化け物三メイドに...まさかな


「いや東吾くんと僕は友達でしょう?だったら僕はこのメイドさん達とも友達になりたい、そう思ったんだけど、、名前とか聞いても良いのかな?」


「翔くんがそうしたいなら、どうぞ」


本当に此奴は...何て奴だ...外見なんか本当に気にしないんだな。


それでなければ白百合を彼女になんてしないか。


「僕の名前は黒木翔って言います、これからも遊びに来ますので、宜しくお願い致します」


「ご丁寧にありがとうございます、私の名前は白金薫と言います、ここのメイド頭をしています。何なりとお申しつけ下さい」



凄く色気のある人だ。


この人は美魔女だ。


本当の年齢は解らないけど、30代前半の綺麗な女優さんという感じだ。


前の世界なら、僕なんか口なんて聞いて貰えない位の綺麗な人だ。


「私は、園崎仁美って言います。宜しくお願い致しますね、黒木様」


綺麗なお姉さん。


それに尽きる。


こんな人に膝枕をして貰ったら、、起きたくなくなるな。


「あ、あたしは古木ナンシーです、宜しく」


ボーイッシュな感じでハーフなのかな?


金髪に近い茶髪が綺麗だ


本物の綺麗なメイドさんだ。


「うん、宜しくね。これ後で食べて...」


「有難うございます...これは...なんなのですか黒木様」


「お土産代わりのお弁当...三人で後で啄んで、最も僕の手作りだから、本職のメイドさんから見たら拙く思えるかも知れないけど」


「「「手作りのお弁当...私達に本当ですか」」」


「食べてくれると...嬉しいな」


「「「有難うございます」」」


「翔くん、気を使わせてすまんな...」


やはり、此奴は他の奴と全然違う。


化け物メイドと呼ばれるこいつらに対してもこの対応、これなら母や姉、妹でも大丈夫かも知れない。


だが、翔くん、もう少しだけ試させてくれ。


親友の君の友情を試してばかりの俺を許してくれ。


「男の手作り弁当、その価値はお金にしたら凄く高額だ。こいつらの給料を越えてしまう、だからそれぞれのメイドに何か返して貰ったらどうだ」


さぁ、お前は何を望むのか


お金か?それとも


「お礼なんて、なくても良いんだけど...でも嫌じゃ無かったらメイドさんにお願いをしたい事があるにはあるんだけどな、少し恥ずかしい」


「あの、黒木様、、なんなりと申しつけ下さい」


「そうですよ...男の手作り弁当なんですから...指でも目でも差し上げますわ」


怖い流石に冗談だよね。


黒木は知らない。


10人に1人位は男の手作り品を食べられるなら方輪になっても欲しい。


そう考える女の子はこの世界にはいるのだ。


もし、白百合さんの立場になって愛して貰えるなら...殆どの女性が両手や両足位差し出すかも知れない。


ちなみに「奴隷になれは」逆にご褒美になる可能性すらある。


「本当、気にしないでなんでも言って...黒木様のしたい事なら何でもしますよ?」


「本当に? じゃぁ...最高のお茶のサービスと膝枕に耳かき...頼んでも良い」


前の世界で秋葉原で看板で見た事があるんだけど、お金が無く貧乏だったから入った事ないんだよね。


ねぇ、あれ本気で言ってらっしゃるのかしら...普通にご褒美ですよね。


うん、私達がしたくても出来ない事だよね?


多分冗談を言っただけですよ。


「そういう事だ、、翔くんはこんな奴だからお前らも、普通の女の子と同じに扱ってくれる、だから翔くんの前ではブサイクなんて思わず、普通に接してくれ」


「「「解りました、後でお伺いさせて頂きます」」」


凄いな翔君は...俺はあいつ等が気持ち悪いんだ。


だが、これから出会う者は比べ物にならない。


俺は家族だ...その家族なのに...気持ち悪いんだ。


凄く優しくて、暖かいのに怖いんだ。


「古臭くて悪いんだが、まずは母に挨拶にいこう」


「凄いね、まるで本当の王様か貴族みたいだね」


「翔くん、あながち間違っていない、我が母は令和の妖怪、ある意味では王様以上だ」


「凄いね、うん」


「あの、翔くんは怖くないのか? その、母の事が」


「なんで、東吾くんみたいな人なんでしょう?」


「あぁ、妖怪と呼ばれる、ブサイクな権力者が君は怖くないのか?」


「別に」


ここまで、ブサイクと言われると...本当にブサイクなのか...もしかしたら究極の美しい人なのかどちらかだ。


「母上、ただ今帰りました。お約束の友人の翔くんを連れてきました」


「その方が黒木翔ですか、確かに美しい方ですね」


嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ...こんなに美しい人がこの世にいる筈がない。...もし、神話の豊穣の女神が実在したら、こんな方なのかも知れない。


「やはりね、醜い私に普通に接する事が出来る者などいませんわ...貴方の言う通り多少はブサイクでもいける方だったんでしょうが...私相手には無理だったようですですね...これからも息子を宜しくお願いしますね...私がどれほど醜くても家族には関係ありませんから...」




【なんて寂しそうな目をするんだ】


流石の翔くんでも無理だったか。


白百合京子は醜いと幾ら言っても人間には見える。


だが、母や俺の姉妹は正真正銘の化け物にしか見えない。


この世で一番醜いと言われる程だ。


母や姉妹達に比べれば、俺はまだ人間の範囲だ。


最初から勝負にならなかったんだ。


だけど、俺はそれでも勝負したかったんだ。


怖くて、醜くて、吐き気が催す程の者だけど家族なんだ。


あの白百合にさえ奇跡が起きた。


俺の家族に起きても可笑しくないだろう?


勝負は終わったな...君でも、いや翔くんでも無理だったか、、


あれっ余りの綺麗さに意識が飛んでしまった。


この人は泣きそうな顔をしている。


こんな顔をさせてはいけない...


こんな卑屈な事を言わせてはいけない。


「初めまして美しい女神様、僕は黒木翔と言います。その、お目に掛かれて光栄です」


「「女神様」」


「女神様? それは私の事ですか? からかっているんですか? 」


「からかってなんかいませんよ女神様」


「ふざけないで下さい! こんなに醜い私が、私が女神なんて」


そうだよね、確かにこれ程、美しく僕の目に見えるという事は、この世界では恐ろしい程にブサイクなんだろうな。


何しろ、僕には人間にすら見えていない。本当に女神のように神々しくしか見えないんだ。


逆を返せば、この世界では怪物を通り越した悪魔や魔王に見えるんだろうな。


「少なくとも、僕は貴方と一緒に食事を楽しんだり、同じ時を過ごしたい、そう思っていますよ」


「お金目当てでも、そんな事言った男は初めてだわ...幾ら欲しいの? 100億、それとも1000億...あげるわよ...幾ら欲しいの? 今日一日付き合ったら欲しいだけあげる」


「あの、その前にお名前を教えてくれませんか?」


「えっ私の名前 北條貴子よ」


そう言えば、私...名前なんて聞かれた事なかったかしら。


「お金なんて要りませんよ...僕の方が貴子様と仲良くなりたいのになんでお金が要るのですか?」


「じゃぁ...そうだ、総理大臣、総理大臣にしてあげる」


「そんなの必要ありません。ただ、友達になりたいそれだけじゃいけないんですか?」


「本当にそれで宜しいのですか?」


「はい」


「私何か騙されていませんか?」


「そんな事しませんよ」


「あの、これは...東吾説明してくれませんか?」


「説明と言っても、翔くんはこういう奴としか言えない」


「そう解ったわ」


私は多分夢を見ている。


北條家は元々お金持ちの家だったけど、私の前までは日本の大手企業の一つに過ぎなかった。


それを私は小さい頃から手伝い世界の北條と言われるまでにした。


今現在、世界で一番の金持ちと言えば私の事だ。


私は小さい頃から学校という所に行った事が無い。


小さかった私は事業の才能があるから親を手伝っているそう考えていた。


学校に行かなくても必要な勉強は全て家庭教師が教えてくれた。


13歳の頃、私は初めてお母さまに我儘を言った。


「友達か恋人が欲しい」そう言った。


それから暫くして、目の見えない16歳の少年をお母さまは連れてきた。


彼は14歳の時に事故に遭って光を失ったのだそうだ。


その時に両親を失い施設にいたのだそうだ。


私は仕事以外の全ての時間を彼に使った。


目が見えないから、トイレに行く為には手を引いてあげなくてはいけない。


お風呂も怪我するといけないから洗ってあげないといけない。


私だって女だ、何度、狼になりかかったか解らない。


だけど一生懸命抑えた。


それから、5年がたち私は18歳になり、彼は21歳になった。


彼は赤い顔をしながら、私に告白をしてきた。


「俺は北條の家に救われて、貴子に頼らなくては生きていけない。そんな俺で良いなら結婚してくれないか?」


勿論、私は了承した。


「ところで、貴子はどんな顔しているの?」


彼に聞かれた。


私は自分がどんな容姿なのか解らなかった。


小さい頃から家から出た事がなかったから。


だからメイドに自分の容姿を聞いてみた。


「お嬢様程お綺麗な方はおりません」


メイドはそう答えた。


だから、私はそのまま彼に伝えた。


彼は私にハミカミながら


「そんな綺麗で優しい貴子を独り占めできる俺は幸せだな」


そう答えた。


そして彼は「我慢させてごめんね、、良いよ」


そう優しく答えてくれた。


私は彼に不誠実な事をしたくなかったのでしっかりと結婚して籍を入れた。


そして、それから体を何回も合わせた。


気が付けば子供も三人もできた。


しかし、18歳からの2年で三人の子供を作った私ってどんだけ性欲の塊なんだろうか?


彼に話すと「まぁ女は仕方ないよ」笑ってくれた。


私はこんなに自分を愛してくれる彼の目を治してあげたくなった。


幸いな事に天下の北條財閥だお金は幾らでもある。


お金をバラまき医師学会にお願いしたら、凄腕の眼科医を紹介してくれた。


手術は無事成功、彼は最初に「私や家族を見たい」そう言ってくれた。


そして、包帯をといて私を見ると...


「お前が貴子なのか?...その子供が俺の子なのか?...化け物だ」


彼はそのまま私や医者の制しを振り切り屋上に行き、そのまま飛び降りた。


そして...死んだ。

この時になって初めて私は知ったのだ。


私が醜いという事を、しかもその醜さは...人に見えない程、まさに化け物にしか見えない姿形だという事を。


ここまで醜い私は...人前に姿形を現さない方が良い。


私には財産がある。


それが可能だ。


だが、どこからか私の容姿の噂が広まり、実業家の手腕と醜い容姿から令和の妖怪と呼ばれるようになった。


そして、私の子供の三人も、もれなくブサイクだった。


まぁ東吾は少しはまともなようだが、それでもブサイクだ。


だが、東吾は娘とは違い、馬鹿にされても学園に通い続けた。


金の力でも何でも良いから友人ができたらいい。


そう思い莫大なお小遣いを与えたが...近づいてくるのは東吾から金だけむしり取るクズばかりだった。


そんな東吾が最近、急に明るくなった。


親友が出来たそうだ。しかも、「翔くん」「東吾くん」と下の名前で呼び合うのだそうだ。


この子は最近、クズしか寄って来なかったせいか人を嫌っていた。


決して心を許さない。


それが此処まで心を開いた。


ある時、空き缶が置いてあったのでメイドが処分しようとしたら、凄く怒っていた。


東吾が怒るなんて滅多にない。


理由を聞いたら、「親友に奢って貰ったジュースの缶なんだ」


そう言うと東吾は大切そうに机の上に置いた。


私は、そんな彼に挨拶がしたくなった。


息子の友情の邪魔はしたくない。


だが、興味が抑えられなく東吾に家に連れてくるように頼んだ。



凄く綺麗な子だった。


まるで神に祝福されたような温かい笑顔。


これ程綺麗な子は見た事が無かった。


こんな子が東吾の友達になってくれた。


嬉しくてたまらない。


だが、私が挨拶をしたらいきなり固まってしまった。


東吾から「翔くんは外見では判断しない」そう聞いていたが所詮私では無理だったようだ。


だが...違った。


私が...女神だって


女神、女神、女神、女神、女神、女神、女神、女神、女神


うん、あの女神だ...妖怪でなく女神だ。


目を見る...信じられない...本気で言っている。


私は令和の妖怪と言われる女...人の嘘なら簡単に見破れる。


お金が欲しくて言っているのかな? 


それならそれで良い...ここまで幸せな気分が楽しめた...恵んであげる。


違うの?...嘘...だったら地位かな...違うの?


何もあげなくても...そんな優しい笑顔をむけてくれるの。


本当に?...顔を見た...本当に友達になりたいだけ?...私と?


いいわ...私が女神なんでしょう?


北條の力を使って...私は貴方の女神になってあげるわ


北條の財力なら神にだってなれるのだから。




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