第31話 妹のような女の子

僕はもう一人のちゃんと人間に見える彼女にアプローチをはじめた。


最初は金剛さんか東条さんに紹介して貰おうと思ったがなんか言いにくい。


流石に、彼女や自分を好いてくれている女の子に女の子を紹介してくれとは言えない。


だから、登校時間より早い時間に赴き、学園の一本道で待ち伏せする事にした。


僕の目に化け物に見えないのは三人を除いて彼女位だから見分けは簡単につく。


暫く待っていると、目的の彼女がやってきた。


だが、後ろからいきなり男性に突き飛ばされた。


突き飛ばした男は彼女をのぞき込んでいた。


多分、助け起こすのかな。


そうして暫く見ていると、すぐに彼女を無視して走っていった。


酷い、酷すぎる。


彼女は痛そうにして起き上がれない。


すぐさま僕は駆けつけた。


「あの、大丈夫?」


恐る恐る僕は声をかけた。


「良いから、放っておいて」


彼女は怒っている様だった。


だが、どう見ても大丈夫そうじゃない。


「大丈夫じゃなさそうだよ? 救急車でも呼ぼうか?」


「大丈夫です...」


彼女は大丈夫って言うけど、絶対に大丈夫じゃない。


本当に大丈夫なら起き上がって歩き始めているはずだ、どうしようか?


下手に何か言って怒らせても仕方ない。


暫く、見守るようにしよう。


「じゃぁ歩けるようになるまで傍にいるよ」


それだけ伝えて近くに座った。


彼女はようやく、僕の方に振り返った。


凄く可愛いい、白百合さんに対しての可愛いじゃなくて妹みたいな子に対する可愛いだ。


正直いって前の世界の子役の女の子なんか比べ物にならない。


こんな子を突き飛ばすなんて、さっきの男に憎しみを覚えた。


出来るだけ笑顔で怖がられないように聞いた。


「本当に大丈夫?病院行くなら付き添おうか?」


「....」


彼女は答えてくれない。


足から血が出ているのが痛々しい。


何か手当をしないと。


「とりあえず、足擦りむいているね、よいしょっと」


とりあえず、ハンカチで血止めしないと、これでよいかな。


「ああああ、ありがとう。」


ようやく話してくれた。


噛んだ姿も凄く可愛いい。


だけど、彼女は起き上がらない。


思ったより痛いのかも知れない。


「それより、本当に大丈夫なの」


「少し痛いけど大丈夫です」


彼女は立とうとしたが足が痛いのか立てなかった。


これ心配かけないように言っているやせ我慢だ。


絶対に怪我している。


「病院、自宅、学校 何処に行きたいの?」


どうしよう? もしかしたら足挫いたのかな?


選択の幅を狭めて聞いた。


「じゃぁ病院」


「解った、よいしょ」


歩けないんだから仕方ないよね。


僕は彼女を抱きかかえるとタクシーの通る大通りに行ってタクシーを呼び止めた。


そのまま、一緒にタクシーに乗り付き添った。


真っ赤になって黙っている彼女が可愛い。


こんな妹が居たら、多分毎日が楽しくて仕方なくなると思う。


足は骨折まではして無いが、捻挫していて物凄く腫れていた。


湿布をしてもらって包帯が巻かれていた。


彼女は母親に連絡したそうだが直ぐには来られないようだ。


話始めると彼女は止まらなかった。


実はこういう目に沢山遭っているらしい。


僕は知らなかったけど、あれはナンパのひとつらしい。


確かに僕のいた世界でも、ナンパの仕方の一つにぶつかるという物はある。


だけど、こんなに小柄の女の子に怪我する様な体当たりはしない。


「しかし、酷いね怪我するようにぶっかってきて、好みじゃないなら逃げるなんて」


「本当にそう思うよ。せめて、ごめんなさい位言って欲しい」


「そうだよね、怪我でもしたらどうするんだ...本当に言ってやりたい...そう思う」


「えっ...男なのに怒ってくれるんだ」


「どうして?女の子に怪我させるような事したら謝るのが普通だと思う」


「そ、そうだよね...」


不味い、男の人にこんな優しくして貰った事なんてない。


顔が赤くなってきた。


「うん、こんな可愛い顔に傷でも出来たらどうすんだ、、本当に思うよ」


「うん、有難う」


可愛いなんて言われたこと無い。


どうしよう。


これって何回も夢見た光景だ。


もし、私の顔が醜くなかったら、あっても可笑しくない話だ。



本当に可愛いな。


さっきからチラチラとこっちを気にしながら話してくるし。


下から覗き込むようなしぐさ。


金剛さんの家の化け物メイドと違って本当に可愛い。


頭撫でたいな。


駄目かな。


僕は頭に手を伸ばそうとした。


あれっ、これって私の頭を撫でてくれるのかな?


私は目を瞑って頭を出そうとしたら、お母さんが凄い勢いで走ってきた。


「貴方、幾ら男だってやって良い事と悪い事があるのよ、人に怪我させて責任取りなさい」



「あの、すいません、僕じゃ無いんですが」


「なにが僕じゃ無いよ、逃げられなかったからここに居るんでしょう? 本当に男って最低だわ、この子がどんだけ怪我したか...」


「お母さん違うの!」


「何が違うの、歩美は少し黙ってて母さん、この男に責任取らせるから」


「だからお母さん違うの! この人は怪我した私を病院まで送ってくれたの」


多分、私は頭を撫でて貰えるチャンスが潰されたから、少し怒っていたかも知れない。


「歩美...それ本当なの?」


「うん、信じられないけど...本当」


「母さん、歩美から聞いても信じられないわ...はっ、本当にすいません、私ったら勘違いしていたみたいで」


「別に構いませんよ、彼女の日常を考えたら、そう思うのも仕方ありません」


うん、だから近づかないで怖い。


彼女と違って怖いからさぁ。


「そう言えば、名前を聞いていなかったね」


「あ、私? 西城歩美です」


歩美ちゃんね。


名前も可愛らしいな。


「僕は黒木翔です」


「うん、知っているよ? うちの学校の有名人だもん」


そんなに有名なのかな。


あれっ同じ学校って事は高校生という事?


「えっ、歩美ちゃんって高校生だったの? 小学生じゃなかったの?」


そうだね、あの時に金剛さんの傍に居たんだから小学生の訳ないよね。


だけど見れば見るほど小学生にしか見えないな。


「うん、黒木君と同じ、高校一年生だよ」


「そうだったんだ、てっきり年下だと思っていたよ」


「良くそう言われるから気にしないよ」


この世界の男性は女を嫌う。


胸の大きい女やふくよかな女は嫌われる傾向が強い。


その為、子供みたいに見えるやボーイッシュは一種の誉め言葉だ。


勿論、小学生に見るも同じ位に誉め言葉になる。


「でも何で、その、助けてくれたの?」


「うーん、可愛い女の子が困っていたら助けるでしょう」


可愛い? そんな事言われた事はないよ? キモイとしか言われない。


本当にそう思ってくれるのかな...本気な訳ないよね。


「そう、私、私、黒木君にとっては可愛いの?」


「うん、妹にしたい位ね」


妹? 本当の妹なら何時も一緒に居られるから嬉しい。


だけど妹と思われるという事は、恋愛対象じゃないのかな。


「そうか」


あれっ歩美ちゃんが暗くなった。


「どうしたの?」


「うーん、何でもない」


お兄ちゃんみたいな男友達が出来ただけでもラッキーだそう思おう。


「あっそうだ、僕学校へ行かなきゃ。今からなら午後の授業に間に合うから」


えっ、学校に行っちゃうの?


私は、流石にこの足じゃ迷惑掛けちゃうな。


「私は今日は休もうかな? 所で黒木君、何か歩美にして貰いたい事ある?」


男にここまでして貰ったんだもん。お礼しなくちゃお金かな? それともゲーム機とか?


結構お小遣いが溜まっているから大丈夫だよね...多分。


お母さんは、真っ青な顔している...まさか凄くお金が掛かるの?


「そうだな、そうだ、お兄ちゃんと呼んでくれない?」


「そんなんで良いの?」


えっ、本当にそれでお礼になるの?


寧ろ嬉しい位なんだけどな?


「うん、だって歩美ちゃんって理想の妹みたいだから、お願いして良い」


「うん、解ったお兄ちゃん、勉強頑張って」


これ、少し恥ずかしいな。


だけど、黒木君凄く嬉しそう。


「うん、頑張るよ、ありがとう歩美ちゃん、それじゃ僕はいくね」


あの笑顔が見えるなら幾らでも言うよ。


これ夢じゃないよね?


今迄の男日照りが嘘のよう...


「じゃぁねお兄ちゃん」


今は、妹に徹しよう。


そして愛を勝ち取って絶対に物にしなきゃ、こんなチャンス二度と無い。


「うん、それじゃね歩美ちゃん」


黒木君は手をブンブン振ってくれた。


凄く嬉しいな、あんなに喜んで手を振ってくれる。


こんな日がくるなんて信じられない。


あれっ、、涙がでてきた。


嬉しくても涙が出るんだ...初めて知ったな。


私も黒木君が見えなくなるまで手を振った。


周りの目が痛い。


看護婦も他の患者も私を睨んでいる。


そりゃそうだ、こんな光景私だって見せられたらムカつく。


だけど、一番怖かったのは...お母さんだった。


怖い、怖い、怖い 確かに心配してきたら、自分そっちのけで男とイチャついていた。


うん、怒られて当たり前だ。


「歩美、お母さん心配したのよ、、それなのに美少年といちゃついているってどういう事なのかしら?」


確かに弁解も出来ない。


「しかも紹介もしてくれないのは何故かしら?」


確かに、紹介するべきだ...だけど、幸せすぎて忘れていた。


仕方ないんじゃないかな?


あの状況じゃ。


この後、母親に2時間近くクドクド怒られた。


だけど、私はそれでもニヤつきが止まらなかった。


だって、今までの不幸が嘘のように幸せな一日なんだもん。



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