第29話 金剛家へ

昨日、誘いがあったので今日の放課後、金剛さんの家に遊びに行く事にした。


白百合さんや東条さんも誘ったのだが、何故か遠慮されたので、僕と金剛さんだけだ。


いつも歩いて一緒に帰っているのだが、今日は校門に凄いリムジンが止まっている。


うん、お嬢様の様な金剛さんに良く似合っている。


「凄いね、この車」


「えぇ、一応、母が事業をしているものですから」


「そういえば、金剛さんのお母さんってどんな人」


金剛さんは少し、寂しそうな顔をしながら


「私によく似た人ですわ...」


「そうなんだ」


僕は嬉しくなった。


金剛さんに似た人ならきっと凄い美人だ。


その後、車の中で金剛さんと色々な話をした。


どうやら、金剛さんのお母さんは凄く有名な家電メーカーの社長だった。


なんでも華族の血まで引いているのだそうだ。


金剛さんはやっぱり、本当のお嬢様だったんだ。


金剛さんの家に着いた、うん、どう見ても豪邸だね。



多分や球場どころか遊園地より大きいんじゃないかな?


「あの、これが金剛さんの家」


「古くて大きいだけですわ」


家の玄関につくと沢山の人がいた。


どうやら歓迎されているようだが気持ち悪い。


化け物の軍団にしか見えない。


すっかり、忘れていた。


殆どの人が僕には化け物に見える。


使用人が沢山いるという事はそれだけ化け物が多いという事だ。


金剛さんが着替えると言うので別れると


青い顔の僕をよそに、化け物メイドに案内され、大きな広間に通された。


秋葉原に居るような偽物じゃないリアルなメイドさんが居る。


ただし、その姿は飛び切り醜い化け物だった。


顔さえ見なければ、そう思いやや下を見ている。


確かに顔さえ見なければ、若くて綺麗なメイドに見える。


だがそれを許してくれない。


「あの、緊張しなくて良いのですよ?」


多分、彼女達は自分の容姿に自信があるのだろう、下から僕をのぞき込んできた。


同じ事を綺麗な人がやればすごく可愛く見えるんだろうな。


だが、僕からみたら、恐ろしく醜悪な化け物なんだ。


僕は顔を青くしながら、


「気にしないで下さい」


それしか言えなかった。


周りから「初心で可愛い」なんて声も聞こえてきたが気持ち悪いだけだ。


暫くして着替えが終わった金剛さんが来た。


凄く綺麗だ。心の中からそう思う。


ようやく僕は落ち着きを取り戻した。


金剛さんの着ているドレスは大人っぽく、膝より少し短いスカートは綺麗な足をより綺麗に見せている。


「私くし、足だけは自信ありますの、、思いっきって着てみましたわ」


「凄く綺麗ですよ、金剛さん...本当に貴婦人みたい」


「ありがとうございます」


周りの化け物メイドの目は明らかに泳いでいる。


暫くすると、そのまま金剛さんを大人にした様な女性が来た。


【良かった】


僕は本当にそう思った。


ちゃんと、人間に見える。しかも物凄い美女だ。


金剛さんの親と言うのだから、そこそこの年齢のハズなのにどう見ても20代にしか見えない。


姉妹と言われればそう思える程若く見える。


美魔女だ。


「はじめまして、金剛さんのお母さん、僕は黒木翔と申します。」


不味い、顔が赤くなる。


「貴方が黒木さんね、初めまして私くしは金剛小百合と申します。」


金剛さんが明らかに「不服ですわ」そう言いたげな顔で僕を見ている。


「ところで、黒木さんは娘と付き合っているって事で間違いないのかしら?」


「はい、お付き合いさせて頂いております」


「それは本気なのですか? 正直うちの娘はブサイクで恐らく持参金を沢山積んでも貰い手が無いでしょう。そしてもし結婚しても形だけの物で愛されないと思いますわ、そんな子を貴方みたいな美形が...信じられません」


金剛さんが凄く悲しい顔になった。


こんな顔をさせちゃいけない。


「お言葉ですが、小百合さん。 僕だったら里香さんをお嫁さんに貰えるならお金なんて要りません。正直言いまして僕は金剛家ほど裕福じゃありませんが、大人になってお金が稼げるようになったら寧ろ養ってあげたい...そう思う位大好きです」


うん、金剛さんは顔を真っ赤にして、凄く嬉しそうだ。


「それ、本気でいっていますか? まさか毎日のように一緒に、昼食をとっていたり、お互いに手作りのお弁当を食べさせあっているって...本当の事なのですか?」


「はい、そういうお付き合いをしてしています」


「女が作ったお弁当、しかも娘が作る不味いお弁当を本当に召し上がっているのですか?」


「確かに、まだ美味しいとは言えないかも知れません。だけど、金剛さんが手に怪我してまで作ってくれるお弁当を食べるのは僕の毎日の楽しみの一つです」


小百合は信じられなかった。


自分と同じ位、醜い娘をここまで好きになれる男がいるのか?


正直、お金目当てでも充分だった。


それでもここまで醜い娘と付き合ってくれるなら上々だ。


正直、私はモテた事がない。


ホストクラブに行けば、高級店で最高に高いお酒を入れても避けるように男がついてこない。


私の傍に居るのなら、幾らでも貢いであげるのに、その条件ですら逃げられる。


若い男に我が社の重役の椅子を用意するからと迫ったら、翌日に退職届けを出されセクハラで訴えられそうになった。


正直に言うと醜い男にすら嫌われたので数億円だして人工授精して出来たのが里香だ。


その私にそっくりと言われる娘を好きだという男が現れた。


正直言えば、まだ信じられない。


「そうなのですか?」


「はい、今日はお土産にお弁当を作ってきました。一緒についばみませんか?」


何かお土産を考えていたんだけど、金剛さんの家は裕福層だから良い物が思いつかなかった。


よくよく考えてみたら1万円もだして男の握ったおにぎりを食べたのだから、お弁当が良いかなと思い用意してきた。


「それは、貴方の手作り弁当...頂いて宜しいのですか?」


「どうぞ、一応沢山作ってきたので皆んなで食べましょう」


黒木様が悪い笑顔を浮かべていますわね。


「小百合さん...あーん」


「ふぇ...ふぇ...あーん」


「はい、金剛さんもあーん」


「あーん、美味しいですわ黒木様」


「それじゃお返しですわ...あーん」


「はい、小百合さんも」


「はっはい...あーん」


「ちょっと待って...貴方達いつもこんな食事をしているの?」


「何時もしていますわ」


「何時もしています」


お金積んでもこんな事してくれる男性なんていません。


これは本当に娘を愛している...間違いありませんわ。


ですが、女として凄く羨ましくもあります。


「いいなぁ、いいなぁお母さんもたまにでいいから混ぜてもらえないかな?」


「何を言っていますのお母さま、黒木様に迷惑ですわ」


「里香っそんな事言わないでねっ」


「別に構いませんよ」


「「えっ」」


「そんな事言って期待しちゃいます。約束ですよ」


「黒木様、余り母を甘やかさないで下さい」


「いえ 別に構わないよ? 金剛さんのお母さんって金剛さんそっくりで綺麗だから全然大丈夫だよ」


「綺麗...この私が、(里香これはなにかの冗談ですわね)」


「お母さま...黒木様は...本気なのですわ」


「まだ、沢山あるから食べませんか...」


楽しい食事は続く。


「そろそろ、遅いから帰りますね」


「良かったら泊っていっても宜しいんですのよ」


「流石にそれは...今日は帰ります」


「そうですわね、それじゃ家までお送りしますわ」


「私も」


結局、施設までリムジンで送って貰った。


2人とも一緒に乗ってくるなんて思わなかった。


また一人化け物じゃない人間に会えた事が僕には嬉しかった。



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