第27話 強くてカッコよい男

私は今迄剣一筋に生きてきた。


剣以外の事なんて何も知らない。


母のように強く成れば全てが手に入ると思っていた。


だけど違っていた。


母には剣以外に美貌があったのだ。


だからこそ強く成れば輝けた。


だが、私にはその美貌、美しさが無かった。


だから、幾ら強くなっても悪者にしか成らない。


よくよく考えたら、怪人が幾ら強くても子供は応援しない。


寧ろ、正義の味方の敵として強ければ強い程嫌われる。


最近になって気づいてしまった。


私の剣道を応援する者なんて誰も居ないんだという事に。


家に帰ってテレビをつけた。


特撮ヒーローが怪人を倒していた。


怪人はあっさりと死んだ。


だけど、考えて欲しい。


その怪人は悪者だけど、ヒーローを倒す為に死ぬほど努力したんだ。


テレビでは映されないけど努力したはずだ。


あんな凄い筋肉は鍛え上げなければつかないんだよ。


解らないよね。


「私も此奴と一緒だ」


そう考えると涙がこぼれた。


「一生嫌われ続けるのか」


そんな事ばかり考える。


そんな私にも友人は居る


1人目は金剛里香


剣道の練習相手が居ないので偶然出会った、金剛に練習相手をお願いした。


生徒会の副会長になる約束で相手してもらっている。


それがもとで友人になった。


しかし、本当にやる気がない学園だ、副会長が居ないなんて。


なんでも、金剛曰く、指名制なのだそうだ。


だが、金剛は人気が無く指名をだれも受けて貰えないんだそうだ。


「名前だけでもいいから」そう言われて副会長に成った。


成ったからには最低線は手伝おうと思う。


2人目は西城歩美


私より先に生徒会に入っていた。


常に男にぶつかられて怪我をしている。


怪我している所を金剛が助けてそれ以来生徒会の書記になったそうだ。


まぁこいつは仕事も手伝わずにただ喋ってジュースを飲んでいるだけの存在なのだが


それでも金剛曰く「居てくれるだけ嬉しい」との事。


この2人が私の辛うじて友人と言える人間だ。


他には居ない。


誰1人幸せな者は居ない。


だが、突然金剛は変わった。


私と同じ光の無い目をしていたハズなのに今は目がキラキラ輝いている。


私と同じ不細工なこいつが何故か綺麗に見える時がある。


何が起きたのだろうか?


不思議に思っていた。


いつもの様に人生について考えていると金剛が話し掛けてきた。


「何か悲壮感がこみあげている顔をしていますわね」


こいつの場合、これは嫌味ではない。此奴なりの励ましなんだ。


「まぁな、最近色々と考えていてなぁ、そう言えば金剛最近やたら楽しそうだな?」


今迄とは違う、毎日が本当に楽しそうだ。


「私くしは、そうですわね、毎日が楽しくて仕方ありませんわ」


本当に楽しそうだ。


私は全ての悩みを打ち明けた。


「そんな事で悩んでましたの?」


そんな事だと?


どれ程の悩みかお前なら解かるだろう?


「そうですわね、でしたら東条さんにも私くしの幸せをお裾分けいたしますわ」


「次の大会を楽しみにしていると良いですわ」


なにを言っているんだ。


なぜクスクス笑っているんだ。


何も答えぬまま金剛は去っていった。



そして、大会当日私は驚く物を目にした。


黒木翔だ。


あの美少年を金剛は連れてきた。


はっきり言う。


彼一人が応援してくれるなら、この会場の全員が敵でも叶わない。


これは私だけでないと思う。


女性であれば1000人の同性の応援より1人の男の応援だ。


金剛は最高の応援を連れてきたんだ。


これで頑張らない訳にはいかない。


最初の相手は天上心美だった。


美少女剣士と名高い人。


いつもこの人と対戦すると私は悪者扱い。


私の母の様に全てを持っている人。


いつもの様にブーイングが始まる。


だけど気にならない。


今日の私には最高にして最強の味方がいる。


「あらっ、あらっ楓さんはいつも嫌われておかわいそうに、私は美少年の祝福で試合にあがるというのに」


「そうか、いつもの事だ」


「今日の私はいつもよりテンションがあがっています。貴方なんか瞬殺で倒してみせますよ」


「そうか、やれるもんならやって見な」


残念だな心美。


あの応援だけは私の物なんだよ。


今日だけは私がヒロインだ。


嘘だ、黒木君が...半裸で私を応援している。


心美が何を言っているかなんて聞こえない。


体がいつも以上に素早く動いた。


心美の面に容赦なく打ち込んだ。


あれっ何で此奴、防がないの。


いや確かに一本入る様に打ち込んださ。


だけど、入るにしても少しはかわすでしょう。


判定もでているのにまだおかしな事を言っている。


「アハアハあはははは、嘘だ」


天上心美は信じられない物を見るように私を見ていた。


なんだ此奴、美少女なんて言われていたけど...モテて無かったんだな。


なんで私はこいつが羨ましかったんだろう。


この日私にブーイングは起きなかった。


しかも、あんなに応援されてるんだ負けるわけにはいかない。


あそこまでされて勝てませんでした、なんて言えない。


横の2人に少しイラつくけど...


この日、私は気分よく竹刀を振るった。


これ程調子よく戦えた日は無い。


今日の私はヒロインなんだ優勝できない筈がない。


本当に苦戦しないで優勝できた。


黒木君にかっこよい所が沢山見せれたと思う。


私は表彰式が終わり、賞状とメダルを受け取ると黒木君の所にむかった。


これは彼の応援の結果でもあるんだ。


しかも、あんな恰好までして大きな声で応援してくれた男性。


私にとっては人生で一番の応援だった。


「黒木君、応援ありがとう」


心からそう思った。


油断すると涙が出てしまう。


「東条先輩、凄かった、かっこ良かったよ」


「本当に、そう思う? 本当にかっこ良いって思ってくれたの?」


嘘っ嘘っ私の剣道がかっこよい、本当にそう思ってくれるの?


まずい、涙が出て来た。


「うん、だってあれは相手に打たせずにして勝つ。昔の剣豪のような剣だもん、初めてみました。」


「わかるの?」


私のそれが拘りなんだよ。


それっ母親以外に言われた事無いんだ。


「はい、あまり強くないけど昔、少しだけ剣道をしていたから」


「そうなんだ...剣道をしたことあるんだね。」


男なのに剣道経験者なんだ。


一緒に剣道してみたいな。


「本当に少しだけです。だけど、本当に東条先輩かっこ良かったなー」


「興味あるなら、少しで良いから剣道場に顔出してみる? といっても私しかいないのだけど」


「良いんですか? だったら今度顔出させて頂きます。」


「絶対に顔出してよ」


まぁ来てくれたら、めっけもん位に考えておこう。


「はい、それとは別に東条先輩、優勝おめでとうございます!」


黒木君は私に近づいてくるといきなりハグしてきた。


「黒木君!」


「僕は、先輩の剣道が好きなんです、辞めたりしないで下さいね」


「わかった...」


私は顔を真っ赤にすると固まってしまった。


だって、上半身があれでハグだよ。


幾ら私でも平常心でいられるわけ無いだろう?


この日から私に剣道以外に好きな者が出来た。



そしてそれから数日後、、本当に黒木君が道場にきた。


お邪魔虫2人連れて。


「東条さん、顔出しにきました」


「黒木君、本当に来てくれたんだ、歓迎するよ二人も」


「なんかおまけみたいな扱いですわね...この間までしつこい位に練習に付き合わせたくせに」


「それは、お前も女なんだから解かるだろう?」


「そうですわね。ですが白百合さんが黒木様の第一彼女で私が第二彼女なのですわ、一緒に来るのが当たり前ですわよ」


「そうなんだ...いいな」


(まだ第二までしか、いないなら充分だ)


「あのっ白百合京子と言います。宜しくお願い致します」


「宜しくね」


「僕も自己紹介した方がよいですか?」


「大丈夫だよ、ハグまでされたんだからさぁ...もう友達でしょう」


「そうですね」


東条は顔が赤くなった。


この世界において男の友達が持てる女性は少ない。


冗談で言っただけなのに真顔で返されるとは思っても見なかった。


「ハハハ、それで今日はどうする?」


「そうですね、余分な面とか竹刀とかありますか?」


「部室に余分なのが幾つかあるけど?」


「それ、貸してもらえますか?」


「いいけど、、まさか、相手してくれるの?」


「えぇ、僕も久しぶりに体を動かしたいし、そうだ金剛さんと白百合さんもやってみない」


「そうですわね、私くしもやってみようかしら」


「私は見学でいいです。経験無いので」



さまに成っている。


ちゃんと着付けているし、いっぱしの剣士に見える。


「黒木君は、どの位出来るの? まさか有段者とかかな?」


確かに僕は有段者だ、前の世界では3段だった。


だけど、こっちでは恐らく登録はない。


「今度話しますが、余り詳しく覚えていません、だけどそこそこ強かった記憶があります」


「まぁいいや、それじゃ 軽く準備運動して素振りをしたら、立ち合ってみようか」


「はい」


準備運動が終わり、素振りに入った。


「......凄い、これが男が振る剣なのか?」


この世界では男は余り剣道をしない。


更に言うなら男女比が1対10なので剣道をやる男子すらまず見ない。


競技人口があまりに少ない為に男子の大会は地区大会を飛ばして、都大会、県大会から始まる程だ。


それゆえに男子の剣道のレベルは低い。


「さぁこれから軽く立ち合いをしようか? それじゃ」


「待ってください、東条さん、最初の黒木様の相手は私くしですわ、貴方じゃ強すぎて黒木様の相手になりませんわよ」


そうでも無いと思うが


「ハハ、そうだね、じゃぁ最初の相手は金剛さんにお願いしようかな? ただ、これは剣道だから手加減は無しだよ」


「わかってますわ」


金剛も多少は手加減をしたと思う。


だけど、それにしても凄すぎる。


一瞬にして面を取るなんて。


「こ、これは敵いませんわね、、黒木様、ますます惚れ直しましたわ」


「すごいや黒木君、素人の私から見ても凄いのがわかるよ」


「今度は私の番だね。本気でいくよ?」


「そうこなくちゃ」


本気で打ち込んだ面を透かされ、逆に打たれそうになった。


凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、凄い、


これ、絶対に心美より強い。


心美相手なら苦戦はするけど、勝ち筋が見える。


だけど、黒木君相手じゃ見えない。


「はぁはぁ、凄いね黒木君は」


「ついていくだけでやっとですよ」


結局勝負は私が面を決めて勝った。


終わった後に私は少しおかしな所に気が付いた。


「黒木君、最後の打ち込みの時、何か変な動きしていたけどあれは何かな?」


「あれはですね、剣道以外も武道やっていてその動きがでちゃいました」


「そうなのか? それはどんな武術?」


「そうですね、やってみますか?」


再び、立ち合いの形に対峙した。


ただ、違う事は黒木君が防具をつけていない事。


「本当にこれで良いのか? 」


「黒木様、それは危ないから辞めた方が良いのですわ」


「黒木君、危ないよ」


「危なかったら辞めるから大丈夫です」


「そうか、ならばいくぞ」


東条は竹刀を縦横無尽に振るっているが、先読みした黒木に全てかわされてしまう。


そして内側に黒木は入ろうとしている。


それに気が付いた東条は距離をとり対峙した。


「凄いですわね、当たらないなら確かに危なくないですわ」


「綺麗、まるで踊っているよう」


結果、黒木が内側に入り込み軽く喉に触れた。


その事の意味に気が付いた東条は竹刀を降ろした。


「負けだな、もし実戦なら刀を掻い潜り喉を斬られた、そういう意味か」


「はい、その通りです」


「凄まじい古武術だな、名前は何というんだ」


「内緒です」


本当に世界は広い。


剣道で私と同等。


他の武術を使うなら私より上、そんな男が居る。


「黒木君、私とつきあってくれないか?」


「東条さんの相手なら何時でもつきあいますよ」


違う意味で言ったんだけど、、まぁいいや、時間もチャンスも沢山ある。


次こそはしっかり伝えよう。

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