第17話 【IF】 黒木のアイドル物語 天使の様な彼との生活...釘宮恵篇(終)
「この電話、釘宮恵さんの電話ですか?」
「そうよ! それで何かよう!」
勇気を出して良かった。
夢にまで見た彼女の声が返ってきた。
「あの僕、女の子の友達が居なくて、良かったら友達になって貰えませんか?」
この世界ならもしかしたら友達になって貰える可能性もあるのかも知れない。
「ななな何を言っているのかしら? 落ち込んでいる私をからかって何が面白いのかしら?」
この話し方は間違いなくあのツンデレボイスだ、まさか生で聞けるなんて思わなかった。
「からかってませんよ、僕は最近ネットで貴方の事を知ってファンになったんです、だからからかってませんよ」
「あなた、私の顔を知っていっているのかしら?」
「はい、凄く可愛らしい顔ですよね」
世界はどう言うか解らない、僕にとってはたった1人の美少女だ。
「そうなんだ、ありがとう、でもいきなり会うとか怖いから、メールと電話からで良いかしら? そういう友達なら良いわよ」
「有難うございます」
「良いのよ、暇だからね、好きな時に電話でもメールでもして頂戴」
「有難うございます」
この日から毎日が楽しい、本当にそう思えるようになった。
一日中引き籠り、恵さんのプロモーションを見たり、CDを聞いた。
仮面の下が本物の美少女だと解っているから、普通に見れる。
電話はどうしよう? メールは?
凄く悩ましい。
正直言えば、長電話したい、更に言えばテレビ電話もしたいしメールもしたい。
だけど、恵さんだって忙しいから我慢した。
最初は10分だけと決めていたが、気がつけば15分、30分と増えていき、気がつけば3時間以上話すようになっていった。
恵さんは凄く優しい。
僕の要望に併せて偶にアニメのキャラクターボイスで話してくれたりする。
本当はテレビ電話で話したいけど、彼女は凄く拒否していた。
どうしてもとお願いいしたら、仮面付けてならとようやく少しだけ話してくれた。
逢いたい、本当に逢いたい本当にそう思った。
【釘宮恵SIDE】
人気が落ちて全てが過去の栄光になった、私に青いランプの電話が鳴った。
絶世期でも無かった、男性からの直電。
まさかと思い電話に出たら...
「この電話、釘宮恵さんの電話ですか?」
「そうよ! それで何かよう!」
「あの僕、女の子の友達が居なくて、良かったら友達になって貰えませんか?」
男の子が友達になりたいっていうんだから...信じられない。
私、山姥なんて言われているんだからね。
綺麗な女の子だって男友達を作るのは難しいのにこの顔じゃ無理な筈だよね。
これは奇跡としか思えない。
「ななな何を言っているのかしら? 落ち込んでいる私をからかって何が面白いのかしら?」
ちゃんと返せないのは仕方ないと思うのよ。
「からかってませんよ、僕は最近ネットで貴方の事を知ってファンになったんです、だからからかってませんよ」
本当に真剣そうだった。
しかも声が凄く綺麗、顔は解らないけど美少年の様な気がする。
「あなた、私の顔を知っていっているのかしら?」
「はい、凄く可愛らしい顔ですよね」
そうか、この人は《仮面をつけた私》しか知らないんだろうな。
「そうなんだ、ありがとう、でもいきなり会うとか怖いから、メールと電話からで良いかしら? そういう友達なら良いわよ」
「有難うございます」
「良いのよ、暇だからね、好きな時に電話でもメールでもして頂戴」
「有難うございます」
もし私が美少女だったらもうこれでゴール。
この顔が凄く憎い。
男の子が私を好きになってくれそうなのに...
この男の子は本当に良い男の子だった。
電話もしてくれるし、メールもしてくれる。
しかも、男とは思えない程会話が旨くて、何時間も話してくれるようになった。
こんなに男がしてくれるんだから...私は声優として彼が喜ぶように話してあげた。
すると凄く喜んでくれた。
世間からは《声優 釘宮恵》は死んだ、だったら彼一人の声優になっても良いと思った。
本当は醜い私、なら私が演じた美少女キャラクター全部を彼にあげよう。
そう思った。
その反面、もしかしたら《ネ鍋なのか》と疑いがあった。
こんな優しい男性なんて居ない...
だが違った。
テレビ電話で見た黒木くんは凄い美少年だった。
こんな美少年芸能界にも居ない。
もし芸能界に入るならぜにーずが直ぐに売り出すだろう。
彼はやがて私に会いたがるようになった。
私だって会いたいよ...男に会いたくない女なんて居る訳が無い。
ましてあれだけの男性だもん、もし手を握れたらそれだけで1日幸せだ。
もしキスなんてしようものなら10年間笑っていられると...思う。
だけど、私には肝心の美貌が無い。
だけど...これ以上会わないのは酷い事している気がした。
だから彼を招く事にした。
本当は男性を部屋に招くのは良くない、マナー違反だ。
だけど、私は怖くて部屋から出られない。
夢の時間は終わりだ。
最後に顔を見せて謝って...終わりにしよう。
貴重な男性の時間をこれ以上奪っちゃ駄目だ。
【二人】
ようやく、恵さんが会ってくれる。
しかもいきなりお家デートだ。
ケーキ買って、花束を用意した。
緊張しながら、インターホンを鳴らした。
「いらっしゃい...」
どうしたのかな、かなり顔が青いな。
《嘘、男の子がケーキに花束なんて、凄く良い男の子なんだ》
「お邪魔します」
「ええっ、あっお花ありがとう...ケーキ迄買ってくれたんだね」
「うん、だってようやく会えたんだから」
《駄目だ、早く伝えないと黒木くんが可哀想だ》
「そう、だけどあたしは」
《私は手が震えた、その震えた手でマスクを脱いだ》
「うんどうしたの?」
「黒木くん、私、私マスクしてないよ?」
「うん、そうだね」
「そうだねって...この顔で平気なの」
平気も何も、凄い美少女じゃない、この世界でたった1人だけの美少女。
「うん、元から知っていたよ...その顔も含めて、好きなんだから」
可愛いって褒めてあげたいけど、違うんだよなこの世界は。
「本当に? ほんとにこの顔でも良いの?」
「勿論」
「あの、何か欲しい物あるのかな? 車、時計、無理すればタワマン位なら買えるよ」
「そう言うの要らないよ、それより家に上がって良い」
「ほんと? そうだね、何だかごめん、どうぞ」
《私はあわててた、出前を取らないと...だって振られるの前提だから何も用意してなかったし》
「ありがとう」
《恥ずかしいな、部屋の掃除もしていない》
「出前をとろうと思うけど、何が良いかな、初めてだしフランス料理のコースにしない?」
《初めての男性とデートなのにプレゼントも何も用意してない、まさか、まさかこんなことがあるなんて思わないわよ》
「冷蔵庫見ても良い?、材料があれば何か作るよ」
「そう...ありがとう」
「軽食で悪いけど、ケーキと飲み物があるから良いよね」
《男の子の手作り...嘘だ》
「あの、このオムライスハートが書いてあるんだけど..」
「だから、何? 好きで無ければ態々、住所や電話調べたりしないよ」
《私は頭がおかしくなったのかな...彼はきっとラノベの住民なんじゃないかな》
「そそそそ、そうなんだ! わたわた私の事が本当に好きなんだ...」
「そうだよ」
「だったら、だったら、結婚しなさいよ!」
《興奮して間違えた、これ引かれるわ...ついレイズのセリフを言ってしまった》
「流石にまだ結婚は、早いと思うけど、それはアニメのセリフだけど本気なのかな?」
《やっぱり引かれた、どうしよう...あり得ないセリフだわ》
「ごめんなさい...だけど本気だわ」
「それじゃ、結婚前提で付き合おうか? 最初は同棲からで良いかな?」
「えっえええええええええっ..良いの?」
「うん」
【釘宮恵SIDE】
次の日には黒木くんが私の部屋に本当に引っ越してきた...あり得ないわ。
4LDKだったらから1部屋を黒木くんの部屋にした。
一番大きな部屋にするとつもりだったんだけど....7畳の一番小さい部屋が良いと言って選ばれちゃった。
男性が一番狭い部屋だなんてあり得ないわ。
しかも部屋の中を除いたら...なにこれ、私ばかりなんですけど...どんだけ私の事が好きなのかしら?
信じられない。
黒木くんは施設に居たから物をあまり持っていない。
時計を買ってあげようと思ったら
「スマホがあるから良い」ですって...
男って本来はお金が掛かる筈なんだけど...黒木君は違う。
だけど、男にお金を使わないなんて女としてあり得ないわ。
だから「どうしても何かあげたいから」って言ったら...
本当に、本当に馬鹿なんだから...《恵》って真顔で言うのよ?
そんな者、男と暮らし始めた時点で全部捧げているわよ!
髪からつま先まで全部男の者、当たり前じゃない...馬鹿じゃないの?
結局、黒木くんが喜ぶのは全部私絡みばっかり....
私の素顔の写真が欲しいっていうから、スマホで撮ったら、そのまま引き延ばしてポスターにするし...ブスなのに凄く恥ずかしいわ。
何かして欲しいことあるかって聞いたら、コスプレして欲しいっていうし...
此処まで天使みたいだから、少し困らせようとして「お風呂に入ろう」って言ったら本当に入っちゃうし
「少し恥ずかしいね」だって...恥ずかしいのは私よ...だって男が入るわけ本当なら絶対に無いんだから...
しかも極めつけは、ついムラムラして押し倒しちゃったら、逆に押し倒されかえされちゃって...「良いの」だって。
私、女なのに、コクンって頷いちゃったわよ、仕方ないじゃない処女なんだから。
だけど...もう忘れられないわ、そのまま朝までなんて信じられないわ。
もしかして、私はエロ漫画か何かの主人公なのかしら?
じゃないと...こんな都合の良い男の子なんて居る訳無いわ...
まぁ、こんな事話しても絶対に誰も信じないわね、
自分ですら夢にしか思えないんだから。
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