第15話 【IF】黒木のアイドル物語 落ちてから...釘宮恵

私の名前は《釘宮恵 くぎみやめぐみ》


アニメの声優兼仮面アイドルをしていた。


本業は声優で、私は本当は、それ一本で生きていこうと思っていた。


実際に声優として人気があるからそのままで良いと思っていた。


だが、世の中はそれだけで許してくれなかった。


「零の使い魔」という名前のアニメのヒロイン役で自分でも驚く程の人気が出てしまった。


アニメの内容は魔法学園に通うヒロインが情けない男の子を召喚した話だった。


ドラゴンやサラマンダー等強力な使い魔を召喚したり可愛い動物を召喚するなか普通の人間を召喚したヒロインは馬鹿にされた。


だが、ヒロインの召喚した使い魔は女では無く、貴重な男だった、しかも線が細い美少年。


更にその少年は巨大なロボットをクリエイトする力を持っていて、そのロボットの戦闘力でのし上がっていく話だ。


そのヒロインの水色の髪のメイジの声優をしてから私は自分でも驚く程の人気が出た。


こんな世界に居ない「あんた馬鹿~っ」と男を罵倒するヒロイン、普通はあり得ない話なのだが。


貴重な男性を犬扱いするキャラクターが女子に受け、あり得ない筈の設定に男子が嵌った。


こんな男をムチ打つような最低の女...どうして好きなのか解らないわよ。



だが、この成功が失敗だった。


だって私は凄いブスなんだから。


一切のメディアに顔出ししない予定だったが、貴重な男からの人気の為に姿を出さずにはならなくなった。


そこで


「アニメのキャラクターの固定観念を崩したくないので」と言う事で仮面をつけてメディアに顔を出した。


背が低くスタイルの良い私は受けが良かった。


しかも、ツンデレボイスで人気が出てしまいCDまで出す事になったわ。


そこ迄は良かったのよ。



人気が出たことにより、女性からも、男からも仮面の下の顔を見て見たい。


そんな話が出てきだした。


その結果...ストーカーに会い(相手は女)


とうとう、素顔が晒されてしまった...その結果、全てを失った。


最初は凄く嫌われてネットでも誹謗嘲笑が多かった。


「こんなブスだったなんて」


「こんなキモイ女がレイズたんだったんて」


「死んで欲しい」


それはどんどん増えていき、そして私は気がついたら《男性が顔を見たくもない芸能人ナンバー1》になり、事実上無職になった。


勿論、今の私にはファンも居ない。



お金を稼いでいたから生活には困らない。


だから、人の目が怖いから、ひたすら引き籠っていた。


今の私は凄く世界が怖い。


もし私に美しさがあればきっと素敵な旦那さんが出来たのかも知れない。


身長は145?で胸は無い。


髪はヒロインの様に水色じゃないけど、黒髪でセミロング。


いわゆるロリ体型。


男の子の殆どは巨乳や背の高い女性を嫌う...まさに完璧な美少女なのよ。


仮面さえ被ればね...あはははっ、私って顔以外は何も欠点が無いのに...


ここまでの容姿や才能をくれたのなら顔もくれても良いじゃない。



とうとう、罵倒や冷やかしのメールや電話も掛かっても来なくなった。


禊がおわったのかな。


誹謗中傷は無くなったけど、世間は私を無視する事に決めた様だ。


まぁコンビニにあるゴシップ漫画に「実はレイズ(ヒロインの名前)はとんでもないブスだった」とか書かれたらお仕舞よね。


名作と言われた「零の使い魔」のDVDも今や古本屋とかで80円で売られている。


私のせいで名作の価値が無くなっちゃった...本当に疫病神ね私は。



引き籠り生活を続けていると、久しぶりに電話が鳴った。


電話にはブルーのランプがついている。



嘘、私に男からの電話...あり得ないわよ。



※ この世界のスマホや電話は男からの電話の場合、青いランプがつきます。



どうせ、嫌味かクレームの電話よね...まぁ良いわ、男の声が聴けるなら...



「この電話、釘宮恵さんの電話ですか?」


「そうよ! それで何かよう!」



「あの僕、女の子の友達が居なくて、良かったら友達になって貰えませんか?」


ななななっ何を言っているのかしら? この人、青いランプだから男よね...


だけど、可笑しいわね! 女の子が男の友達が出来ないなら兎も角、男の子が女の友達が出来ない訳ないじゃない。


それこそ、公園で「僕と友達になって下さい」って叫べば、幾らでも集まってくるわよ。



「ななな何を言っているのかしら? 落ち込んでいる私をからかって何が面白いのかしら?」


「からかってませんよ、僕は最近ネットで貴方の事を知ってファンになったんです、だからからかってませんよ」


そうか、もしかしたら、思った以上に齢が若いのかも知れないわね。


もし、ネットで私の顔を知らなければ、うん私は理想的な女の子だ。


「あなた、私の顔を知っていっているのかしら?」


「はい、凄く可愛らしい顔ですよね」



やっと解った気がする。


この人は今迄余りネットをしなかった人だ。


だから、私の素顔を知らない。


恐らくは声優兼、仮面アイドルの私しか知らない。


確かにあの仮面はレイズを模した仮面だから凄く可愛い。


そう言う事か...


「そうなんだ、ありがとう、でもいきなり会うとか怖いから、メールと電話からで良いかしら? そういう友達なら良いわよ」


「有難うございます」


「良いのよ、暇だからね、好きな時に電話でもメールでもして頂戴」



「有難うございます」



私だって誰かと話したいわ。


しかも相手が男なら凄く嬉しい。


私の顔がバレるまでの暫くの時間なのは解っているわ。


だけど...久々に聞いた男性の声...話さないという選択はどうしても出来なかった。

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