第14話 西城歩美 ~怪我したけどラッキー~

私の名前は西城歩美と言うのだよ。


背が低くて138センチしかない。


私みたいな背が低く子供みたいなタイプは本来この世界では勝ち組なのです。


この世界の男は基本、女らしい女は好まないの。


どちらかと言うと女らしくない女が好みの人が多い。


私の様な胸が無い女はモテる特徴の一つ。


つまり、貧乳こそが正義なの。


更に私はもの凄く背が低い。


大人の女性は気持ち悪いが、妹等家族で過ごすからなのか妹タイプならいける、そういう男性もまた多い。


完璧なロリっ子に生れた私こそが需要がある、いわゆるモテ女のはずなの。


だけど...


「あの子気の毒ね」


「おしいねあれで顔が可愛ければ彼氏の1人位作れるのに」


「他が完璧なだけに痛々しいわ」


そう、私には決定的な欠点があった。


物凄く、可愛くないのだ。



私は、いつも良く知らない男にぶつかられる。


「ごめん大丈夫?」


「大丈夫ですの」


「げっキモイ」


よくある事、もう慣れたよ。


これはいわゆる男の遊び。


好みの女の子にわざとぶつかりそこから出会いを始めるという物。


私は後ろからみればロリっ子美少女なので良くやられる。


これで可愛ければ、


「ぶつかって悪かった」とか言って貰えてワンチャンス貰える。


つまりアピールするチャンスが男から貰えるという物なの。


普通の女子なら喜ぶイベントなのだが、私にとってはただ痛いだけだ。


何しろ後ろからぶつかられて傷だらけになった挙句に馬鹿にされる。


正直言って、【これいじめじゃないかな】そう思ってしまう。


今日もまた男に突き飛ばされた。


いつもと違うのは結構強く突き飛ばされたので痛くてすぐに起き上がれなかった。


勿論、男は私の顔を見るなり走って逃げた。


余りの痛さにそのままでいると今日は何時もと違いそこから声を掛ける男がいた。


「あの、大丈夫?」


大丈夫な訳ない、すごく体が痛い。


だけど、この男も私の顔を見たら逃げ出すに決まっている。


「良いから、放っておいて」


私はヒステリックに怒鳴ってしまった。


どうせ、顔見たらすぐに立ち去るのでしょう?


怪我したってブサイクだから助けてくれないのでしょう?


「大丈夫じゃなさそうだよ? 救急車でも呼ぼうか?」


「大丈夫です...」


「じゃぁ歩けるようになるまで傍にいるよ」


私は彼の方を振り返った。


これでいなくなるだろう。


あれっ可笑しいな、私の顔を見たのに居なくならないなんて。


「本当に大丈夫?病院行くなら付き添おうか?」


「.......」


あれっ、、凄い美少年。


何で、何で心配してくれているのかな。


「とりあえず、足擦りむいているね、よいしょっと」


嘘、何で私の足にハンカチなんて撒いてくれるの。


「ああああ、ありがとう。」


「それより、本当に大丈夫なの」


「少し痛いけど大丈夫です」


私は立とうとしたが足が痛くて立てなかった。


「病院、自宅、学校 何処に行きたいの?」


どうしよう? もしかしたら足挫いたのかな?


「じゃぁ病院」


「解った、よいしょ」


嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、 私お姫様抱っこされている。


そして、彼はタクシーを呼び止めそのまま一緒にタクシーに乗ってくれた。


病院につくと待合室まで肩を貸してくれた。


何が起きてしまったのかな。


こんな事普通じゃありえない。


この世界では考えられない事だ。


普通の男性は本当に女と関わるのを嫌がる。


例え、女が困っていても余程の美人でなければ放って置く。


それが余りに酷いので近年では死に瀕している人を見捨ててはいけない。


そういう法律が作られた程だ。


それでも見捨てる男は多い。


そして、世間的に優しいと言われる男でも電話位しかしない。


例えば、怪我して動けない女性を見かけたら、警察か消防署どちらかに連絡をするだけ。


それ以上の事はまずしない。


勿論、ついてなどいてくれず、そのまま立ち去る。


それですら、優しい男なのだ。


結局、黒木は治療が終わり、母親が迎えに来るまで付き添っていた。


最初、母親は黒木に対して、怪我をさせたのだから責任を取って欲しいと詰め寄った。


だが、その後で実は黒木は加害者ではなく、怪我した彼女に付き添ってくれていた、それが解り平謝りした。


「そう言えば、名前を聞いていなかったね」


「あ、私? 西城歩美です」


「僕は黒木翔です」


「うん、知っているよ? うちの学校の有名人だもん」


「えっ、歩美ちゃんって高校生だったの? 小学生じゃなかったの?」


「うん、黒木君と同じ、高校一年生だよ」


「そうだったんだ、てっきり年下だと思っていたよ」


「良くそう言われるから気にしないよ」


「よかった」


「でも何で、その、助けてくれたの?」


「うーん、可愛い女の子が困っていたら助けるでしょう」


可愛い? そんな事言われた事はないよ? キモイとしか言われない。


「そう、私、私、黒木君にとっては可愛いの?」


「うん、妹にしたい位ね」


妹? 本当の妹なら何時も一緒に居られるよね。だけど妹じゃ恋愛も結婚も出来ないよ。


「そうか」


「どうしたの?」


「うーん、何でもない」


「あっそうだ、僕学校へ行かなきゃ。今からなら午後の授業に間に合う」


「私は今日は休もうかな? 所で黒木君、何か歩美にして貰いたい事ある?」


男にここまでして貰ったんだもん。お礼しなくちゃお金かな? それともゲーム機とか?


傍で母親は顔を青くしながらその様子を見ていた。ここまでの事を男がしたんだ最低でも100万は見なくちゃいけないかも知れない。


「そうだな、そうだ、お兄ちゃんと呼んでくれない?」


「そんなんで良いの?」


「うん、だって歩美ちゃんって理想の妹みたいだから、お願いして良い」


「うん、解ったお兄ちゃん、勉強頑張って」


これ、少し恥ずかしいな。


「うん、頑張るよ、ありがとう歩美ちゃん、それじゃ僕はいくね」


でも、あの笑顔が見えるなら幾らでも言いたいかな。


「じゃぁねお兄ちゃん」


「うん、それじゃね歩美ちゃん」


黒木君は手をブンブン振ってくれた。


私も黒木君が見えなくなるまで手を振った。


周りの目が痛い。


看護婦も他の患者も私を睨んでいる。


だけど、一番怖かったのは...お母さんだった。


「歩美、お母さん心配したのよ...それなのに美少年といちゃついているってどういう事なのかしら?」


「それは、えーと」


「しかも紹介もしてくれないのは何故かしら?」


この後、母親に2時間近くクドクド怒られた。


だけど、私はそれでもニヤつきが止まらなかった。


だって、今までの不幸が嘘のように幸せな一日なんだもん。

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