第13話 東条楓 ~応援~

私の名前は東条楓。


この学園の副会長だが、それよりも剣士として有名だ。


母は鬼姫と言われる有名な剣道家でそれはとても美しくて強かった。


そして小さいながら道場を開いている。


小さい頃の私は母の様になりたくて竹刀を握った。


それが私の剣道人生の始まりだった。


私は正直言ってブサイクだ。この学園でブサイクな女ベスト5を選べば必ず入るだろう。


だから、直ぐに恋愛や青春に見切りをつけて剣の道に打ち込むようにした。


だが、ある時に気が付いてしまった。


私には味方が居ない事に。


この学園には剣道部が無かった。


だから、私は剣道部をたちあげた。


そして僅かながらに部員も入ってきた。


私なんかについて来てくれたんだから、そう思い熱心に指導した。


母から学んだ事を教えてあげたい。そう思って指導したら、1人も残らなかった。


私がどうして辞めるのか聞いたら


「ネチネチ言われてやる気がなくなった」


皆にそう言われた。


だけど、剣道にはこの細かい指導はどうしても必要なんだ。


剣道は武道でありチャンバラ遊びじゃ無いのだから。


その事を説明したら


「剣道が幾ら強くても、周りからブーイング受けるだけじゃないですか?」


「先輩と一緒に大会に出ても、カマキリ女のいる学校と馬鹿にされるだけですし...もう無理です」


「正直、臭いし男にモテないし、こんなスポーツやる意味ないです」


剣道その物を否定する者を引き留めても仕方ない。


そのまま辞めてもらった。


幸いな事に私は、全国大会の優勝者なので剣道部は存続できた。


但し、部員は私1人だ。


だから、いつも1人で素振りしている。


それしか出来ない。


だが、この学園には金剛里香がいた。


金剛里香は昔は私と同じ剣道少女だった。


最も、小学校レベルの話しだが。


そこで、稽古相手をお願いしたのだが、「もう剣道は辞めましたわ」と断られてしまった。


それでもとお願いしたら、「生徒会に入ってくれるなら良いですわ」そう提案された。


こうして私は副会長になる代わりに金剛に練習相手になって貰っている。


金剛にとって生徒会を頑張る事が私にとっての剣道を頑張る事と同じなのだろう。


金剛は生徒会の仕事を一切手を抜かない。


誰も期待なんてしてくれないし、一生懸命頑張ったって評価されない。


なのに、彼女は居残りしてまでも頑張る。


私がもし男なら多少ブサイクでも惚れるかもしれない。


だが、男は元より女ですら彼女を評価しない。


流石に直接褒めたりしないが、私はそんな彼女を誰よりも評価している。


何しろ彼女はもう剣道は辞めたのに律義に私の練習相手をしてくれるのだから。


最も、小学校で辞めてしまった彼女では余り練習にはならないのだが。


それでも1人でやる練習よりは寂しさを感じないだけ楽しい。


だが、最近では私は剣道その物にやる気を無くしつつある。


それは金剛にとっての生徒会の仕事と同じで誰も評価をしてくれないからだ。


練習も1人、大会に出ると悪者扱い。


酷い時には罵声も浴びせられる。


「そんなカマキリ女に負けるなよ」


「翔子ちゃん頑張ってそんなカマキリみたいな女なんか叩きのめしちゃえ」


だれも私なんか応援してくれない。


精々たまに金剛が見に来るだけだ。


だからむきになって叩き潰した。


そして益々嫌われていく。


このまま剣道を続けていてなんになるのかな。


思わず、そう呟いてしまった。


そう呟いてしまってからは嫌な事ばかり考えてしまう。


誰にも認めて貰えず、ただ嫌われるだけの剣道。


どうして私は剣道を続けているのだろう?


勝ってもだれも喜んでくれない。


学校に賞状やトロフィー飾られるし、表彰はされるけど誰も私を見てくれない。


今は戦国ではない、剣道が強いからって人生にとって何か得になるのだろうか?


母の様に魅力が無い私では道場を継いだ所で直ぐに潰してしまうだろう。


ただ強いだけの剣道など無価値ではないだろうか?


「何か悲壮感がこみあげている顔をしていますわね」


「まぁな、最近色々と考えていてなぁ、そう言えば金剛最近やたら楽しそうだな?」


「私くしは、そうですわね、毎日が楽しくて仕方ありませんわ」


「そうなのか?何か良い事でもあったのか?」


「えぇ、それは置いといて何を悩んでらしたの? 私くしで宜しければ聞きましてよ」


「実は」


私は自分の思いを全て金剛に語った。


こいつなら私の思いを解ってくれるだろう。


「そんな事で悩んでましたの?」


「そんな事って、私にとっては重要な事だ」


「そうですわね、でしたら東条さんにも私くしの幸せをお裾分けいたしますわ」


「お裾分け?」


「次の大会を楽しみにしていると良いですわ」


そして、翌週になり全国大会の個人戦が始まった。


正直、今の私は余り気合が入っていない。



相変わらず、私は悪者あつかいだ。どこからともなくカマキリと馬鹿にする声も聞こえる。


「はぁ、もう引退しようかな」


私はこの大会を最後にもう剣道を辞めようかそう考えていた。


金剛はいったいこの大会で何をするのだろうか?


金剛は少し遅れてきた。そしてその横には白百合京子が居た。


もう一人連れてきたのか、、確かに嬉しいが、それが何になるのだろう。


だが、その横に良く見るともう一人いた。


「あれっ 男の子?」


あれは、美少年で有名な黒木翔だ。


うん、彼が見てくれるならテンションはあがるな。


【周り】


「あれっ剣道の試合に男の子が来ている、珍しいね」


「本当、ボーイッシュな女じゃない? こんな汗くさいスポーツ見に来ないって」


「でも、あれ」


「うん、絶対に男の子だよ。しかも凄い美形、、、誰の応援に来たのかな」


「多分、あの美少女剣士にきまっているでしょう」


「天上心美かぁ、、あの方なら、、ありかな?」


そして、ついに私の順番になった。


相手は天上心美だった。


事実上の決勝戦ともいえる組み合わせ。


天上心美は大胆にも黒木翔の方にむいて投げキスをしていた。


普通はそう考えるよな。


こんな汗くさいスポーツを応援にくるとしたら美少女の自分の応援に違いないと。


そしていつもの様に私にはブーイングが始まる。


「あらっ、あらっ楓さんはいつも嫌われておかわいそうに、私は美少年の祝福で試合にあがるというのに」


「そうか、いつもの事だ」


「今日の私はいつもよりテンションがあがっています。貴方なんか瞬殺で倒してみせますよ」


「そうか、やれるもんならやって見な」



黒木翔は今日を楽しみにしていた。


白百合さんと金剛さんに囲まれた状態でスポーツ見学。


黒木的には両手に花のデートだ。


しかも、金剛の友達の応援で来ている。


黒木は事前に事情について金剛より聞いていた。


だから、応援する為に仕込みをしてきた。


そして、東条楓を見た時にテンションがあがった。


黒木的にはクールビューティーな美少女だ。


そして黒木は上着を脱いだ。


その姿に周りは目を奪われた。


「黒木様、そのお姿わ、、」


「黒木くん、ちょっとそれは目の毒かな」


冷静な振りをしているが、二人して油断したら鼻血がでそうな程真っ赤な顔になっていた。


【周り】


「嘘、男が何であんな薄着なの、、ねぇあれ」


「試合なんて見てられませんわ」


黒木の姿はさらしを上半身に撒いた。いわゆる応援団スタイルだ。


もちろん、この世界にそんな応援をする男はいない。


基本、男は肌を晒さないのがこの世界の基本だ。


そして、女を嫌うのでこんな事お金を積まれてもする男はまず居ないだろう。


こんな応援の仕方は漫画やドラマにも無い。


男の肌を見たせいか、会場は鼻をハンカチで押さえる人間、慌ててトイレに駆け込む人間すら出ている。


「ふっ男にあそこまでさせてしまう私の魅力が恨めしい」


「そう...」


(黒木君は金剛が連れてきたんだ、あれは私の応援だ)


そう思ったら凄く気合が入った。


「はじめ」


「フレーフレーとう、じょう、フレフレ東条、フレフレ東条」


「嘘...私の応援じゃない...東条の応援...」


天上心美はこれでもかとアホ面を晒していた。


私は容赦なく面を打ち込んだ。


「一本それまで」


「アハアハあはははは、嘘だ」


天上心美は信じられない物を見るように私を見ていた。


【周り】


「嘘、あの美少年の応援相手 東条楓なの」


「あの、カマキリの応援で上着を脱ぐなんて、、信じられない」


「だけど、これであのカマキリを貶したら、あの美少年に嫌われるよ?」


「今日はブーイングやめておこうか?」


「そうだね」


結局、その後の試合も何時も以上に力を出した、東条楓の1人舞台だった。


白百合京子も金剛里香も下を向いて鼻血を垂らしていた。


私は表彰式が終わり、賞状とメダルを受け取ると黒木君の所にむかった。


初めて応援をしてくれた人。


しかも、あんな恰好までして大きな声で応援してくれた男性。


感謝しかない。


これが一番私の欲しかったものだ。


「黒木君、応援ありがとう。」


「東条先輩、凄かった。かっこ良かったよ」


「本当に、そう思う? 本当にかっこ良いって思ってくれたの?」


まずい、涙が出て来た。


「うん、だってあれは相手に打たせずにして勝つ。昔の剣豪のような剣だもん。初めてみました。」


「わかるの?」


「はい、あまり強くないけど昔し少しだけ剣道をしていたから」


「そうなんだ、、剣道をしたことあるんだね。」


「本当に少しだけです。だけど、本当に東条先輩かっこ良かったなー」


「興味あるなら、少しで良いから剣道場に顔出してみる? といっても私しかいないのだけど」


「良いんですか? だったら今度顔出させて頂きます。」


「絶対に顔出してよ」


「はい、それとは別に東条先輩、優勝おめでとうございます!」


黒木君は私に近づいてくるといきなりハグしてきた。


「黒木君!」


「僕は、先輩の剣道が好きなんです。辞めたりしないで下さいね」


「わかった...」


私は顔を真っ赤にすると固まってしまった。


だって、上半身があれでハグだよ。


幾ら私でも平常心でいられるわけ無いだろう?


一言だけ返しただけでも凄いと思う。


黒木君は我にかえった、白百合京子と金剛里香に引きずられていった。


もう、私が剣道を辞める事は無いだろう。


だってあれ程の美少年が私を応援してくれているのだから。



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