第11話 金剛里香 ~くす玉~

私の名前は金剛里香と申しますわ。


北條グループとは比べ物になりませんが、そこそこ、いいえかなり裕福な家庭で育ちましたの。


うちではお嬢様と呼ばれていまして、世間に出るまで知らなかったのですわ。自分がものすごく、ブサイクだったという事を。


生まれてから、今までずうっとお嬢様と呼ばれていましたし、先日結婚して辞めたお手伝いさんにもお姫様みたいと言われてましたから、しっかり信じていましたわ。


ですが、よくよく考えてみれば多分陰で、冷笑していたんでしょうね。


まぁ勤め人が雇い主の娘にブサイクとは言えないでしょうからね。


学校に入学してからは諦めましたわ。


だって、どんなに頑張っても、悪口しか言われないんですもの。


ついたあだ名が清少納言ですって。あんまりですわ。


それでも私なりに相当頑張ったんですのよ。


最初は、少しでも人の役に立つようにクラス委員になりましたの。


そうしたら、普通では考えられない程の仕事を押し付けられましたわ。


それでも、文句を言わずに頑張っていたのに、悪口しか言われませんの。


酷いと思いませんか?


私くしはいつかは認めてもらえる。そう思って生徒会長に立候補しましたの。


そしたら、見事に当選。


初めて誰かに認めて貰えた。そう喜んでいたのに、、ただ、忙しいから誰かに押し付けたかった。


生徒会長なんて、それだけの役職でしたわ。


生徒が悪い事をすると代表で怒られるし、めんどくさい仕事は全部押し付けられる。


ただ、それだけの仕事。


しかも、生徒は私の言う事なんて聞いてくれないから自分1人で頑張るしかない。


だからいつも遅くまで居残って頑張るしかありません。


実際には他にも副会長と書記もいるのですが、、


「会長いくら頑張っても誰も私達の事なんか認めてくれないんだから適当で良いでしょう」


「そうそう、最低限の事だけしてれば良いと思うよ」


こんな感じですわね。


最も、最低限の仕事をしてくれるだけ他の方よりは、遥かにましですわね。


今日も誰も手伝ってくれないから、1人でくす玉を作っていますわ。


歓迎会ように作っているのですが...多分作ったのが私だと知ったら、新入生も喜びませんわね。


だけど、やるからには意地です。手は抜きたくないのですわ。


「先輩、何をしているんですか?」


「見れば解るでしょう?くす玉を作っているのですわ」


あれ、幻聴でしょうか? 男の子の声が聞こえてきますわ。


「お一人でですか」


「だぁれも手伝ってくれないから、1人でやるしかないのよ」


「そうなんですか」


あれ、今の声は確かに男の子? いよいよですわね、幻聴が聞こえてくるなんて。


思わず振り返ったけど...やはりいません。


また作業に戻っていたら...うわっ、本当にいました。


「先輩、これ良かったら飲みませんか?」


「...これって」


「ジュースですよ。勝手にオレンジにしちゃいましたけど。」


「...これ、私にですの?」


「はい、後これタオルです。水で濡らして絞ってきたから使うと気持ちいいですよ。それに顔が少し汚れています」


「本当に使って良いんですの?」


これは夢なのでしょうか? 天使の様な男の子が私にジュースとタオルを差し出してきたのです。


「その為に濡らしてきたんですから」


「そうですわね、、使わせて頂きますわ」


「先輩、少し休みましょうよ」


「そんな時間はないのですわ」


「僕も手伝いますから」


「手伝ってくれるますの?」


「はい」


私は彼と10分以上話してしまいました。


しかし、彼は嫌じゃないのでしょうか?


私の様にブサイクな女と話すなんて...だけど不思議と笑顔ですわね。


暫く、話した後、彼は本当に作業を手伝ってくれました。


男の子が手伝ってくれるなんて普通はあり得ませんわね。


誰かと一緒にする作業がこんなに楽しい何て知りませんでしたわ、しかも相手がこれ程の美少年だから余計ですわ。


苦痛で仕方の無い仕事、嫌々やっていた仕事。それが誰かが一緒にいてくれるだけでこんなに楽しいなんて。


くす玉は二人で作ったら、驚く程簡単に出来上がってしまった。


「あの、何で手伝ってくれたのですか?」


「誰だって頑張っている人が居たら手伝いたくなるでしょう?」


嘘ですわ、今までどんなに頑張ってもだれも認めてくれないし、手伝ってなんてくれませんでしたわ。


「だけど、今まで手伝ってくれた人なんておりませんわ」


「そう、なんですか? 僕で良かったら、これからも、手伝いますよ」


この世界の男はお手伝いなどしない。


例えば食事後にお皿を台所に運んだら男の場合は手伝った事になるのだ。


それですら行う男は殆どいない。


「本当に? ありがとう、あと、これ少ないけど...はい」


「何ですか、それ」


「お手伝い賃ですわ」


この世界の男は基本無償では何もしない。


お手伝い賃を払っても余程の破格じゃなきゃまず動かない。


「先輩、怒りますよ?」


「5万円じゃ少なかったかしら?」


「何を言っているんですか? 僕が先輩を手伝いたかったから手伝った。それだけですよ」


はい?こんな男性が世の中にいるのですか?


もし、居たとしても、私なんかに微笑むはずはありませんわ。


「あの、また手伝って欲しいと言ったら手伝ってくれるのかしら?」


今日のはただの気まぐれですわね。それでも充分嬉しかったのですけど。


「手伝いますよ。先輩と一緒なら楽しいですから」


「本当に?」


私くしみたいなブサイクといて楽しい訳ないでしょうに。そう思ってしまっいました。


そして知らないうちに口に出してしまいました。


「だけど、私くしみたいなブサイクと一緒に仕事しても楽しくないでしょうに」


自分に自信が無い。これ程の美少年と自分じゃ釣り合わない...その劣等感からつい出てしまいました。


「どこがブサイクなんですか?僕には先輩は、、そうですねまるで社交界で踊る令嬢のようにしか見えません」


嘘だ、どうせこの人も私を馬鹿にしているんですわ。


あのお手伝いさんや他の方と一緒。


私は彼を気が付くと睨んでいた。


馬鹿にしている。そう思うとさっきまでの行動すら忌々しく感じましたわ。


それに気がついたのか彼はいきなり話し始めた。


「やっぱり、報酬を貰っていいですか?」


やっぱり、そういう事なのですね。


「幾らほしいの?」


10万円位なら払ってあげるわ。


「お金は要らないから、踊ってくれませんか先輩?」


「えぇ ちょっと」


嘘、私の手を握っているの? なななな、なんなのですか?


なんで、男は冗談でも普通はこんな事しないのですわ。


「本当に、こうして曲もないのに踊るだけでよろしいのです?」


まずいですわ、男に手何て握られた事なんてないのですわ...いきなりですから汗ばんだままですわ。


ダンスはこれでも上流階級ですから踊れますが。


顔が赤くなってしまいます。


「はい、先輩と一緒にいると本当に楽しいんです。作業してても、こうして踊っていても」


優しい顔。


そうだ、この顔はお父様が私に向ける顔だ


どんなにブサイクでも、世界一可愛いと言ってくれたお父様。


「そう、貴方も楽しいのですわね。私も凄く楽しいのですわ、所でお名前は?」


「黒木翔ともうします。」


「私は、金剛里香といいますわ」


「金剛先輩ですね」


「金剛でいいですわ」


「金剛...さん」


「それで手を打ちますわ」


「では、黒木様、私はこれで失礼します!」


「あの、様は辞めて頂けませんか?」


「里香と呼んでくれたら辞めますわよ」


「じゃぁ、良いです」


本当に名残惜しいのですわ...迎えの車が待っていなければこのままもう少し居たいのに...


本当に断腸の思いですわ。







次の日の歓迎会に合わせ、私はくす玉を釣り竿で釣り上げるように改良したの。


歓迎会が進んでくす玉を割る時がきました。


私は釣り竿を担いで、そのままくす玉ごと、黒木様の所へと向かいましたわ。


「あれ、金剛先輩、どうしたんですか?」


「むっ違うんじゃありませんの?」


「金剛...さん」


「はい、では歓迎しますわ、黒木さん」


私はくす玉を割った。


くす玉を割ると「大歓迎、黒木翔様」と書いた垂れ幕が紙吹雪と共に降りてきた。


彼の顔が少し赤くなった気がする。


私は頑張ってクスクス笑いをしていますが、実際には心臓が破裂しそうですわ。


「ありがとう、金剛さん」


黒木様は私の手を握ると凄く喜んでくれた。


これはずるいのですわ、こんな事されて喜ばない女なんていませんわよ。


ほら、周りの女子が凄く怖そうな目でみてますわね。


そんな目しても怖くもなんともないのですわ。


他の人なんて知らない。


私を認めてくれて、私に暖かい目を向けてくれる黒木様。


冷たい目を向ける他の人。

差別するのは当たり前ですわよ。


私だって人間なんですからね。


私を差別したのですから、私が差別したって問題ないハズですわね。


そう思いません?




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