第10話 北条東吾 ~涙~

それから暫くして俺は悶々とした生活を送っている。


黒木翔と友達になったのだが、今迄ほぼ一人で過ごしていたのだから、何をして良いか解らない。


朝は俺を見ると黒木が挨拶をしてくれるから、それに挨拶で返す、それだけだ。


だが、今日はいつもと違っていた、お昼に黒木が訪ねてきたのだ。


「今日さぁ白百合さんが風邪で休みだから一緒にお昼食べない?」


成程、白百合が休みだからか、しかし、友人と食事か? どうすれば良い?


今からじゃケータリングも間に合わないな。


「あぁ」


俺がそう答える前に黒木はお弁当を広げてしまった。


「これ、黒木が作ってきたのか?」


「そうだよ、白百合さんの為に作ってきたんだけど、今日風邪で休みみたいだから、良かったら摘まんでよ」


「そうか、じゃぁ俺のも摘まんでくれ」


「凄いね、これ松坂牛のステーキ弁当じゅない...凄いね」


【周り】


「嘘、何で黒木くんが北條なんかと食事しているわけ」


「あれが黒木くんの手作り、一口だけでも食べたい」




「じゃぁ遠慮なく頂くね...うんまい」


「あぁ、じゃぁ俺も貰おうか」


誰かが作った弁当なんて初めて食べたな。



【周り】


「ねぇ、黒木くん、北條なんかと食べないで私達と食べようよ」


「そうだよ、北條なんかと食べたら美味しくなくなるよ」


「なんで?」


「だって北條ってキモイじゃん!」


「どうして、北條くんはカッコ良いと思うよ」


「庇わなくて良いと思うけど」


「北條くんは頭も良いし、スポーツ万能、どこがキモイのかな?」


「だってブサイクじゃん」


なんでこうも、人の心を逆なでするのかな?


「良く解ったよ。だけど、僕から見たら北條くんは凄くカッコいい。僕は北條くんと昼飯が食べたいから黙っててくれる」


ここで女子は気が付いた。男子は仲間意識が強いという事を忘れていた。


黒木くんにとっては既に北條は仲間なんだ。これ以上貶すと絶対に嫌われてしまう。


「そうだね、男同士で楽しんでいる時に邪魔してごめんね」


「僕もごめんね」


そしてまた元通りに弁当をついばみ始めた。


「なぁ黒木、俺の何処がカッコいいんだ」


所詮、口先だけだろう? それとも北條に恩でも売りたいか、それとも何か意図があるのか。


「そうだね、まずはサッカーの時にハトトリック決めてたよね。僕には出来ない」


「そ、そうか」


あれ見ててくれたんだな、なんだ此奴は見ててくれたんだな。


「野球だってピッチャーやってたよね、ノーヒットノーラン、普通に凄くない」


「そうか」


あれも見てくれていたのか...


「頭が良くて、スポーツ万能、逆に聞くけど、何処がかっこ悪いの?」


そうか、此奴の彼女は白百合京子だったな。本当に人の中身を見ているそういう奴という事だ。


【俺は醜いんだ】そういうのは野暮だな、此奴は容姿じゃ無くて中身を見ている、そういう奴なんだからな。


「そうか、俺ってカッコ良いのか?」


此奴だけは俺の中身をしっかり見てくれている。


「僕からみたらカッコ良い男の子にしか見えないよ」


「そうか、黒木、何か欲しい物ないか?」


「じゃぁジュース買ってきて、僕はウーロン茶」


「ジュース?」


いや、俺はパソコンとかゲーム機とかブランド物とかそういう意味で言ったんだが...まぁ良いか。


「この前は僕が奢ったんだから、今度は北條くんの番でしょう?」


そうか、此奴にとっては北條とか金持ちとか全く関係ないんだな。


「そうだった、じゃぁ買ってくるよ」


「うん、お願い」


「後、北條は辞めてくれ、友達なら東吾で良い」


「解った、じゃぁ東吾くん、僕も翔で良いよ」


「解ったよ、翔くん」


そう伝えると、俺はジュースを買いに教室から出た。


暫く歩くと俺は涙が止まらなくなり、歩けなくなってしまった。


トイレに駆け込み、何度も顔を洗ったが涙が止まらない。


結局、教室に戻るまで10分以上掛かった。


翔くんは「遅い」と少し怒っていたけど、その声さえ俺には心地良かった。


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