第9話 北条東吾 オレンジジュース

俺の名前は北條東吾。


この国で一番の企業、北條グループの跡取り息子だ。


普通であれば、男に生れて日本を代表する企業の御曹司なのだから幸せな人生は確定している。


正にパーフェクトな勝ち組人生、だがその中で俺には無い物があった、それ一つが無いだけで俺の人生は最悪だ...俺に足りない物、それは容姿だ。


もし、俺に容姿があれば、社長である母は俺を企業の広告塔へ押し出し、宣伝やイメージに使うだろう。


この世界では凄く貴重な男なのだから。


だが、俺にはそれが無い為に、ここで静かな学園生活を送っている。


御曹司という強力な後押しがあるのに女にモテないのだから、恋愛は絶望的だな。


子供の頃に、俺付きのメイドに「僕と結婚してくれる?」と言った事があった。


このメイドは俺に姉のように接してくれていた。


とても優しく接してくれていたんだ、子供ながら何かしてあげたい...本当にそう思ったんだ。


この世界は凄く男が少ない。


まして、彼女は妙齢な歳だ...喜んでくれると思った。


俺は彼女のの笑顔をただ見たかった、それだけだったんだ。


だが、次の日には辞表を出して辞めてしまった。


俺はこの時まで気がつかなかったんだ...自分が醜いと言う事に。


俺はその時から頑張り続けている。死ぬ程勉強も頑張り、成績は常に10番以内。


スポーツだって人一倍、頑張り何でもできるようになった。


俺の努力を知らない者は不細工とは言え流石に北條家の血を引く者。そう言っていた。


違う、俺は才能なんて殆どない、能力的にはかなり低い、ただ北條の名を汚したくないから努力しているだけなんだ。


ただ、醜い。それだけで何をやっても旨くいかない。


世界は本当にこの世界は残酷だと思う。


サッカーやっても、陸上をやっても、どんなに活躍しても女も男も相手の方しか応援しない。


そんな俺に母は友達を作って欲しかったらしく、破格のお小遣いをくれるようになった。


「とりあえず、食事に誘ったり、遊びに行ったり、友達を作りなさい」そう言われた。


だけど、それで寄って来るのはお金目当ての奴ばかりだ。


そこまでしてもただの【友達】すらいない。


物だけ買わせて、だれ1人仲間にすらなってくれない。


例えば、弁友一つとっても俺は違うんだ。


俺が女の分まで弁当を購入して振舞ったり、場合によってはシェフに来て貰って立食パーティーだ。


それでも、最初だけで、今じゃ誰も一緒に食事をしてくれない。


友達は無理、諦めた。


日常を諦めたある日、俺はとんでもない物を見てしまった


おれより醜い白百合京子が、凄い美形の男と楽しそうに話していたのだ。


確かに俺は不細工だ、それは認める。


だが、あれに比べればまだまともだ、この学校で一番不細工な人間は誰か。


そう聞けば、恐らく全員が白百合京子そう答えるだろう。


おれは恐らく不細工な方から数えて10番目位だろう...最も男ならダントツの一番だが。


俺はついガン見してしまい、不用意に近づいてしまった。


そうしたら黒木に気がつかれてしまった。


「白百合さんは僕の物だから渡さないよ」そう言うと白百合の手を引っ張ってどっかに行ってしまった。


「流石の俺もそいつは要らないよ」そう言いたかったが、その時の白百合の嬉しそうな顔が羨ましかった。


翌日、廊下で黒木に会った。


俺はこいつに、凄く興味がでたので話をしてみたくなった。


「黒木で良いのかな」つい、ぶっきらぼうに話してしまった。


黒木と名前は知っていたが、俺は人と話すのが下手なんだ...話す相手がいないんだ、仕方ないだろう。


「うん、僕は黒木であっているけど、君はえーと...誰?」


「北條東吾だ」


「北條東吾くん...うん、覚えたよ。僕の名前は 黒木翔だけど」


「そうか」


凄く綺麗だ..同じ男として凄く羨ましいな。


「所で、何かよう?」


「特にようは無いんだが、、話してみたくてな」


「別に良いんだけど、白百合さんは渡さないよ?」


いやいや、それは本当に要らないからな。


「いや、別に好みでは無いし、とったりしないから安心しろ」


「なら、いいや、じゃぁジュースでも買って話しをしよう」


「そうか」


「じゃぁちょっとジュース買ってくるね」


「おい」


俺が相手なのに...奢らなくて良いのか?


「はい、ジュース、オレンジで良かった?」


「あぁ、別に何でもいいぞ」


そう言えば、俺にジュースを買ってきてくれた様な奴はいなかったな。


俺のおごりで俺が買いに行く、それが当たり前だったな。


「そう、で何?」


「いや、お前が白百合京子と楽しそうに喋っていたからさ気になってな」


「本当に白百合さん狙いじゃないんだよね?」


だから、そういう目で見る必要はないんだ...流石の俺もあれは要らない。


「違う、むしろ、お前の方が気になった」


「僕? 何で?」


「いや、楽しそうに話していたからさ」


「普通に友達や彼女と話したり、食事をしていたら楽しいと思うけど?」


「そうなのか? 俺はそういった経験が殆ど無くてな...友人自体が殆どいないんだ」


「そう、普通に居そうな気がするけど?」


北条くん程のイケメンで友達がいない...信じられないな。


此奴馬鹿にしているのか?俺みたいなブサイクがモテる訳ないだろう。


「いないから困っているんだろうが、嫌味か?」


「嫌味なんて言わないよ。本当にいないんだ、解った。だったら僕と友達になる?」


「本気で言っているのか?嘘じゃ無くて」


「本気だけど?...友達になりたくないのかな?」


「いや、頼む」


「じゃぁ今から友達だね」


黒木は俺の手を取りブンブン振り回していた。


そして休み時間が終わりそうになると、彼奴は手を振り去っていった。


何かこういうの凄く良いな。


オレンジジュースかぁ...これって彼奴の驕りなのか?


俺って誰かに奢って貰ったことは無かったな。


飲み終わった缶ジュースの缶を俺はハンカチで包みカバンにしまった。


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