クープ王

 前任者は失敗した。けど、余なら上手くやれる。


 そう、周りは励ましてくれるが、上手くなどできる気がしない。


 そもそも余が王となったのは数ヶ月前、奴らが現れる前は只のしがないパン屋であった。


 そんな余が王冠をかぶっているのは蓄えた口髭がそれっぽかったのと、本物の王族が奴らから逃れるためにお隠れになったから、代理というよりも身代わりだった。


 仮初めの王、権力は無いが奴らを相手にみんなを守れる。


 だったら、やりきってやろう。


「王様大変です! 地下の魔法陣が光り始めました!」


 この上ない悲報にみな絶望の表情を浮かべる。


 また奴らが増える。


 沈む気持ち、重い足取り、それでも行かなければならない。


 地下、元は何の部屋だったかわからない広々とした空間に、どのような染料か光る線で描かれたよくわからないマーク、円の中にデタラメに図形をちりばめたこれを奴らは魔法陣と呼んでいた。


 その円の周りにそれぞれ担当が立ち、練習した通り、意味のない呪文を唱え始める。


 ……奴らは、この世界に呼ばれたと言い張った。


 魔王の復活、文明の開花、あるいは魔力とやらの運び手として、奴らは来たくもないのに無理やり連れてこられた、ということに従った。


 冗談ではない。


 どこの世界にこんな、不幸しか起こさない疫病神を好き好んで呼び寄せるものか。


 奴らは勝手にこの世界に来るのだ。


 だがそれを指摘すれば殺される。滅ぼされる。


 だからこうして、奴らに合わせ、口裏を合わせるため、こうして召喚の儀式のフリをする。


 奴らの来訪、召喚と言ったか、行い、現れた奴に王である余が膝付いて感動と感謝のフリをする。


 そして話の流れから相手の意図を汲み取り、合わせて理由をでっち上げるのだ。


 スローライフならば土地を、成り上がりならばダンジョンを、そして忘れてはならない奴隷を供給、ご機嫌をとる。あわよくは、他の奴らと潰し合わせる計画もあったが、実行に移した国と地域七つは滅び、奴らは争わなかった。


 奴らが害をなすのはあくまでこちら側、絶対に勝てる相手にしか攻撃はしない。


 だからの命乞い、そのための最初のコンタクト、思えば余は重要な立場にあった。


「出るぞ」


 誰かの言葉の通り、光が消えて、新たな奴が現れた。


 見た目で判断はできない。先ずは様子見だ。


「おぉ成功したぞ」


 練習通りのセリフに、奴はギョロリと顔を向けた。


 パチン。


 ギャ!


 え?


 パチン。


 ギャ!


 パチン。


 ギャ!


 パチン。


 ギャ!


「お、お待ちください!」


 突然の虐殺に遅れて飛び出し、奴の前に跪く。


「どうか矛を収めて下さい。余は、我らは敵ではございませぬ」


 王冠ずり落ちるのも無視して額を魔法陣へ擦りつけ、助命をこう。


「敵ではない?」


 奴の声にははっきりと怒りが聞こえた。


 なんだ? 何を怒っている? 何を失敗した?


「ふざけるな。あれだけやっておいてどのツラ下げてんだ!」


 何を、何のことを言っているのだ?


 考える余の目の前で王冠が踏み潰される。


「貴様らは裏切った。ここらじゃいくらでもウナギが獲れるって、あれは泥からいくらでも湧いて出るからっていうから、信じて! たっぷり乱獲したのに! なのに一夏で絶滅しやがった! しやがったんだ! もうウナギ食えないんだよ!」


「な、何を、余はまだ何も」


「黙れ! お陰でせっかく広げた土用の丑の日が全部パー! どいつもこいつも死ぬまで失望した目で見やがってよ! やり直すにのいきなりだったからセーブしてなくてこっから再スタートさせられてんだよ! 時間巻き戻ってやり直しがどんだけ面倒だからわかってんのか!」


 わからない。


 ただ察するのは、奴は未来から、過去である現在にやってきたということ、そしてこの怒りは、未来でのやらかしに対してだった。


「復讐だ! 嘘教えて陥れた連中軒並み鏖しにしてやる!」


 こんな、無茶なこと、どうすればよいかもう、わからない。


「先ずはお前から! 次はこの国だ! 全部同人誌にしてやる!」


 なんだよこいつ。


 パチン。


 ギャ!

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